004 シルバー裁き
4話まできましたが、まだ同じ一日の朝でしかないと言う事実。
AMI歴12年4月 登校中 宮代伊織
奏ちゃんに続き亮人くんを加えて6人で登校していると、徐々に周りに登校する生徒の数が増えていく。
そんな中前を歩いていた男の子を見て風香ちゃんが声をかけた。
「黒布君おはようございます」
一瞬ビクッと反応した男の子が振り返って小さく頷き、大分小さな声で返事を返す。
「・・あ、栫さんおはよう」
僕は同じクラスになった事が無いのであまり見覚えが無いけど、確か黒布誠人君だったかな?言葉を選ぶとややぽっちゃりした(控えめな表現・既視感)小柄な男の子だ。
まぁ小柄と言っても僕よりは大きいけどね。
俯き加減に歩くその姿はすこしばかり陰鬱な雰囲気を漂わせているが、それでも風香ちゃんに返事をする瞬間は大分表情が明るく見えた。
学年に二クラスしか無い我が校において、僕と違うクラスと言う事は必然的に去年まで風香ちゃんとクラスメイトだったのだけど、なんだろう仲が良いのかな?と何故か軽くもやっとした気持ちになる。
比較的明るい表情を見せていた黒布くんだけど、僕等の背後に視線を向けた途端にその表情が険しくなった。
んん?
やや陰鬱さを増した目付きで黒布くんが睨んでいるその先は・・・亮人くんじゃ無いな、奏ちゃん?
気になって奏ちゃんの方を見やると、なんか気まずげな雰囲気で俯き視線を反らせている。
と、亮人くんが動いて黒布くんの視線を遮った。
「おう黒布、なんか言いたい事でもあるのか?」
すると黒布くんは軽く亮人くんを睨んだあと、すぐに踵を返して足早に歩きだした。
えっ何?3人に何があったの??黒布くんが奏ちゃんにフラれたとか、黒布くんが奏ちゃんに告白したのを見た亮人くんが切れたとかならありそうだけど。
奏ちゃんは真面目で曲がった事が嫌いな優しい人だし、人に恨まれたりするような子じゃ無いから考えられるのはそっち方面になってしまう。
やや気まずげな雰囲気が漂う中、僕が思考に耽っているとその事件はおこった。
「おぅなんだよ豚野郎!いきなりぶつかって来やがって!!お前は豚臭ぇんだから隅っこ歩いてろよオークの豚野郎」
動揺してたのか、黒布くんが前を歩いていた男子に肩をぶつけてしまったようだ。
「・・・・・・・」
「あ?何だよ豚野郎!!ブヒブヒ言ってもこっちには分かんねぇんだよアホ豚」
「ぶつかったのは悪かったけど、二度と僕を豚と呼ぶな」
「はぁーー?どったの急にー?今までも散々豚くんで通ってたじゃーん?急にイキって何勘違いしちゃったの??ぶっ飛ばすぞ豚!!」
と、黒布くんの身が沈んだと思ったその瞬間、男子に身体ごとぶつかるような勢いでボディブロウを入れていた。
見事にくの字に折れ曲がった男子は、声も上げられない様子で口をパクパクさせながらその場に沈み込む。
しかし容赦無く黒布くんの追撃が続く、何度も何度もボディブロウが入り、とうとう殴られてた男子が悲鳴を上げた。あれ?あの男子は最近何処かで見たような気がするな??
「やめっ、言わないっ!もう二度と言わないから!!止めろよっ、止めてっ謝るからっ」
それでも殴り続ける黒布くんの腕を駆け寄った亮人くんがつかんで止める。
「やりすぎだ!その辺にしとけ、もう謝ってるだろ」
ふーっふーっと息を荒げながら振り返って亮人くんを睨みつける黒布くん。
緊迫した空気が漂うなか、救われた男子が身を起こして状況を察したようだ。
気が付くと羽依はスマホで一部始終を撮影している。
またこの子はこの悪癖が・・・・
「犬上くん・・くっ」
亮人くんが助けに入ったと思った男子は態度を豹変させる。
「ふざけんなよ豚野郎!!誰がお前なんかに謝るかよ!!調子に乗りやがってオークの豚野郎!死ねっ!!てめぇこんな事して唯で済むと思うなよ!!」
うっわー・・・ドン引きだよ、助けが入った途端手のひら大回転だよ。
すると亮人くんは掴んでいた黒布くんの手をパッと放し、黒布くんの腹パン連打が復活した。
「ぐわっ、なんっ、なんでぇ?犬上さぁんっ!!??」
「アホか、あーもう良いわ、もう止めねぇけど程々にしておけよ」
亮人くんもあきれ果てた様子で手を振ってその場を離れる。
あー、背中の玲ちゃんから不機嫌なオーラが漂ってくるんだけど。
皆もうやめてくれないかなぁ・・・胃が
僕の願いも虚しく、状況は更に悪化する。
「てめぇ豚野郎何してやがる!!」
「山田君を放せオーク!!」
「とうとう頭がイカれたかこの黒豚!!」
殴られていた男子は山田くんと言うらしい。その山田くんの仲間と思しき男子達がわらわらと三人現れあっと言う間に黒布くんを取り囲んでしまった。
山田・・・ん?あぁ、そうだ彼らはこの前交流試合をした武骸流空手道門下だ、手合わせした相手の顔をすぐ思い出せないとか我ながら失礼すぎるね、反省しよう。
黒布くんは山田くんを殴りつけたまま他の囲んだ男子達を無視してる。
「てめぇ!!」
先走った男子の一人が黒布くんに殴り掛かかると、黒布くんが振り返ってそれを向かえ打つ。
黒布くんは顔面を殴られたけど、代わりに男子のボディを殴っていた。
カウンターで相打ちとなり、黒布くんは鼻血を出しながらも平然とした顔で、ボディを殴られた男子はお腹を押さえて苦悶している。
だけどその間に後ろに回っていた男子が黒布くんを羽交い絞めにして、残るもう一人が顔面を殴りつけた。
あぁこうなってはもう、数の差を覆す事は出来ないだろうなぁ。
山田くんも復活して凄い目で黒布くんを睨んでいる、これは拙いよねぇ、さすがにこれ以上は止めに入るべきかな。
「いっ、伊織くん!!」
風香ちゃんが僕の手を掴んで、上目遣いで潤んだ瞳をこちらを見詰めてくる。
あー、うん黒布くんは風香ちゃん知り合いだもんね、そりゃ見過ごせないよね。
風香ちゃんの手を握り返して頷き返すと、僕は黒布くんを囲んでいる男子達に向かった。
「痛ててててててぇぇぇええ!?なっ何ぃ!??」
黒布くんを殴っていた男子の右腕を後ろ手に関節技を極め、手首のやや下にあるツボを親指で押さえ、剛の気を針のように鋭く練り上げて痛みを与えるツボに刺激を与えていた。
「痛いっ、痛いっ、放せ、放せよ何だこのチビッ!?」
うん、もう少し強めようか。
「ーーーーーーーーーーーーっ!!??」
痛みで声が出せなくなった所で語り掛ける。
「君たち四対一はさすがに卑怯じゃないかな」
「お前、宮代伊織!!」
「んだよ手前は関係ねぇだろ!すっこんでろ!」
「この前の寸止め試合で勝ったからって上から目線かよこのチビ、寸止めルールじゃ無けりゃお前みたいなチビには負けねえぞゴラァ!」
男子達が今度は僕に向かってこようとしたその時。
その場の気温が一気に下がったような、凍り付くような空気感が場を支配する。
「あなた達煩い、どうしてそんな醜い行いを続けられるの?」
静かに玲ちゃんが問い掛けるが、答える者は誰もいない。
ただ山田君達男子は口惜し気な顔で玲ちゃんを見ている。
「もう二度としないで貰えるかな?」
額から汗を流しながら、嫌そうな表情をしながらも頷く男子達。
「そこの貴方も」
視線を向けられ、男子達程では無いにしろ緊張した面持ちの黒布くんも頷いている。
「お願いね、約束よ」
そう言い残して玲ちゃんが踵を返すと、その場にいた男子達がホッとしたような顔をしていた。
男子達は全員その場を離れたが、すこし距離が空いた所でこちらに言い放った。
「お前らが大きな顔出来るのも今の内だけだからな!!」
「秋月と宮代!!お前ら後で見てろよ!!」
そう言い残すと彼らは学校へと駆けて行った。
えー・・・何その捨て台詞・・・さすがにちょっとお約束が過ぎないかなぁ。
「うー、伊織ぃ」
と言いながら玲ちゃんが近付いてきて僕を強く抱きかかえてくる。
「うん、いい動画が撮れたー」
とスマホをいじりながら嬉しそうな羽依。
そんな動画消してしまえ。
「ほら皆もう行こう、遅刻しちゃうよ」
僕が促すと、もとの配置に戻って登校を再開するのだった。
しばらく全員無言だったが、少し歩いた所で亮人くんが口をひらいた。
「いやー、久しぶりに見たなシルバー裁き、相変わらずの一刀両断っぷり恐れ入るぜ」
「え?何ソレ大岡裁きみたいなノリ?はじめて聞くんだけど」
「当事者が知らねーのかよ?どんな悪事も一刀両断学校の平和を守るシルバー裁きってな」
「すごい居た堪れない気持ちになるから止めて欲しいんだけど・・」
「私は悪くない・・・」
玲ちゃんが僕に抱きつく力を一層強める。
暑いしちょっとキツイです。
「誰がそんな事言い出したんだよ・・・・」
「ん?俺だけど」
「お前かよっ!!」
つい言葉が乱れてしまった。
新学期が始まる前から精神の疲弊が止まることを知らないんだけどーー
「しかしまぁ、秋月が切れる所は何度か見たが、伊織が自分から他人のもめ事に首を突っ込むたぁ珍しいな」
「嫌だなぁ亮人くん、僕はいつだって卑劣な行いは許せないナイスガイだよ」
「あーガイね、うんうん、そうだな立派なガイだなー」
「うるさいなぁ・・・仕方ないでしょ僕のお嫁さんの知り合いみたいだったし」
幼い頃の約束を口にすると聞いてた風香ちゃんの顔が真っ赤になって俯いてしまう、可愛いのぅ。
「あぁ、そこがポイントかー?って言うか栫が嫁だと秋月姉はどうなるんだよ?ポイ捨てか?」
ドカッ
ノールックで繰り出された玲ちゃんの蹴りが亮人くんを文字通り吹き飛ばす。
結構な勢いで吹っ飛んだけど、亮人くんは頑丈だから大丈夫なハズ。
「伊織は私の嫁、嫁の物は私の物、嫁の嫁も私の嫁、よって伊織も風香も私の嫁」
「私は伊織ちゃんの愛人でーす」
謎の主張を繰り出す秋月姉妹だった。
「もっ、もう3人共そんな冗談言って他の人が聞いて本気にしたらどうするのよっ!」
又も顔を真っ赤にして風香ちゃんが怒る、めんこいのう。
しかし今日は本当に朝からイベントがありすぎる。
星廻りが悪いのだろうか、あとで羽依に聞いてみよう。
始業式とは言えエンカウント率がおかしい事になっている。
一歩毎に強制イベントとランダムエンカウントが交互に発生するクソゲーRPG仕様だ。
と、追い打ちをかけるように次のイベントが・・・いや本当もうお腹一杯です。
「師匠ー!と皆さんおはようございます!!」
「おー一っちおっはー」
羽依をはじめ挨拶を返す僕等、頷きつつ笑顔で奏ちゃんの許へ駆け寄る一くん。
「奏お姉ちゃんおはよう!」
と言って奏ちゃんの隣について手を繋ぎ、奏ちゃんの横をキープしていた亮人くんを押しのける。
「おはよう一くん」
苦笑しつつ挨拶を返す奏ちゃん。一くんは従妹の奏ちゃんの事をお姉ちゃんと呼んでいる。
「聞きましたよ師匠ー!朝から姉さんのシルバー裁きが炸裂したそうですね!」
「うぐっ」
お前もか。
てか、さっきの今で情報早すぎィ!
悪意無くナチュラルにこちらの精神状態に追い打ちを掛けて来る。
本当にこの子はこういう所が間が悪いと言うか、空気が読めないと言うかそういうとこだぞ。
因みにさっきから彼が師匠と呼んでいるのは僕の事です、お恥ずかしい。姉さんは玲ちゃんね。
「おい一公、てめぇ人の間に入ってくるんじゃねーよ」
「ハッ?いたのか犬っころ、奏お姉ちゃんに狂犬病がうつったらどーすんだよあっち行け」
いつものいがみ合いをはじめる亮人くんと一くん、まぁ二人の諍いに関しては僕も玲ちゃんも何とも思わないので二人まとめて意識からそっと遠ざける。
でもまぁ一くんの登場で、黒布くん絡みの事があって以降表情を曇らせていた奏ちゃんも気が紛れた様子なのでそこは良しとしよう。
風香ちゃんにも奏ちゃんにも聞きたい事が出来たけど、登校中にするような話じゃ無いな、うん後で聞こう。
奏ちゃんに関しては、黒布くんがオークと呼ばれていた事で大体察しは付いたけど、デリケートな話だし本人には聞かない方がいいかな。
長かった、本当に長い道のりだった。
長い長い旅路を終え、ようやく学校に辿り着いた僕たちは、早速クラス分けが張り出されている掲示板を見上げる事に。
「1組だ」
「1組ね」
「うれしいっやっと二人と一緒だよぅ!」
「やっぱり俺らは運命の糸で繋がってるな」
「はぁ、結局6年通してあんたと一緒とか悪夢だわ・・・これ呪いでしょ」
「くっ、なんで犬畜生が奏ちゃんと同じクラスに・・・」
「まぁまぁ、ほらほらつなっちゃん私と又一緒だよ嬉しかろう?」
「え?あぁうんソウダネ」
「何だその気の無い返事はー!!こんな美少女と一緒で何の不満があるってーのー!!」
気のない返事をしてる一くんに羽依がヘッドロックをかけてる。
「ばっ、おまっ止めろ!!スライムが当たってる!その気持ち悪いスライムを押し付けんな!!」
「人の自慢の美乳捕まえてなんたる言い草よアンタッ!」
羽依のおっぱいヘッドロックがある意味通じないとは、やるな一くん。
かなり周りの男子から羨ましそうな視線が集まっているぞ。
あ、黒布くんと山田くんも1組だ・・・・
クラス分けの掲示板前では2年ごとの悲喜こもごもで皆賑やいでいた。
とまれ幼馴染3人が同じクラスで本当に良かった、あんな事を知った後じゃ風香ちゃんがまた1人で違うクラスになったら心配で仕方ないものね。
しかし今後の波乱を予感させる面子だなー・・・
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AMI歴11年4月
アメリア合衆国 NSB(連邦捜査局国家公安部) 内
対新人類作戦室 ミハエル・カースティン
室長に提出する予定のレポートの最終チェックを行う。
NAME:KANADE・ISAGO(砂金 奏)
AGE:10 (10歳)
DMC:ELF MOON-CLAN(エルフ 月の氏族)
SKILL:APPRAISAL DMC(夢見る月の子供達 鑑定)
or FORTUNE-TELLING(もしくは占い)
見ただけで相手の『ゼンモン』が見て取れる能力・・か。
しかも相手が夢を見始める前でも読み解くことが出来ると言う点が素晴らしい。
つまり、まだ無自覚な相手の『ゼンモン』すら言い当ててしまう訳だ。
「DMCの学園創立の為にもなんとか確保したいものだが・・・」
日本では未だに閣僚レベルでの話し合いの準備さえ整わない。
それどころか専門の対策機関さえ立ち上げの目途がたたないとか、あの危機意識の無さは理解に苦しむな。
それでもさすがに公安内で対策の動きがあるか、現場レベルでの場当たり的な対応でしか無いと、何とも腰の重たい事か。利権が絡まないとこの鈍さか。
「出来れば誘拐などと言う野蛮な手段は取りたく無いものだな」
どのような情報であれ、こちらには彼女のもたらす情報の真贋を確かめる術が無い事だしな、自主的にこちらに協力する気になって貰う事が望ましい。
まぁスカウトは私の業務では無い、室長の手腕に期待するとしよう。
イジメダメ絶対。新キャラが次々出て参りますが、見て下さる方が把握出来るように書けているのか不安ですね。もう少し掘り下げながら少しずつ出す方がいいのか、展開早めてドンドン先に進む方がいいのか。
まぁ結局書ける物を書けるペースで描き続ける事しか出来ないんですが。
ここまで当作品をお読みいただきありがとうございます!
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『楽しい』『続きが気になる』『この伏線ちゃんと回収されるの?』
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