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015 その後の五年一組

AMI歴12年5月1日 五年一組教室 宮代伊織(みやしろいおり)


新学期が始まってから早一月の時間が流れた。初頭に色々とイベントがあったけど、その後は至って平穏と言っていい毎日を過ごしています。


毎日の朝と週3日は放課後に道場へ通って宮代流の修行を重ねるけど、玲ちゃんとの組手では相変わらず引き分けすら未達成な状況です、言い忘れてた気もするけど放課後の鍛錬には羽依と一くんも参加しているよ。


玲ちゃんに対する恐怖からか、山田くん達も大分大人しくなったし、どうやら黒布くんにもちゃんと謝罪はしたらしい、まぁ一度だけの頭下げ逃げみたいなものだったらしいけど。


その黒布くんには風香ちゃんのお願いもあって、この一月(ひとつき)積極的に話しかけてみたのだけど、僕や玲ちゃんへの返答はどう好意的に解釈しようにも素っ気ないとしか表現のし様がないものでした。


風香ちゃん相手だと、二言三言はちゃんとコミュニケーションを取ろうとしてる所を見るに、やっぱり僕達が黒布くんと仲良くなるって言うのはハードルが高いなぁなどと思っていたら、風香ちゃん経由で黒布くんの気持ちが伝えられたのだけど、僕達は奏ちゃんの友達だからどうしても素直に仲良くはして貰えそうにないという事だった。


風香ちゃんも奏ちゃんと普通に仲が良いと思うんだけど・・・まぁ風香ちゃんとは一緒に虐待を受けていた仲間意識があるのかな、風香ちゃんの優し気な雰囲気は特に傷ついている人間には効きそうだけど・・・嫁呼ばわりされていたからって調子に乗って本当に嫁とか思って無い事を祈ろう。


かくて黒布くんと友達になろう計画はその初期段階で詰まってしまい、山田くん達によるいじめは影を潜めたけど、陰口が完全に無くせる訳でも無いし、周囲の大多数の人は黒布くんを遠巻きにして必要以上に近付こうとはしない。

時たま黒布くんが奏ちゃんをじっと睨んでいる所を見かけると、一度固まってしまった気持ちと言う者は中々解きほぐせそうには無いんだろうなぁと思い知らされるね。


オークが前世と言うだけでこれだけの重荷を背負わされるなんて理不尽だよなぁ・・・

前世・・・前世かぁ・・・・昔はあまり気にして無かったけれど、最近は否が応でも意識せずにはいられない事が多すぎるなぁ。


そうそう、クラス委員長を決める際に奏ちゃんが推薦されていたのだけど、実家の手伝いで忙しくなる事もあってと辞退していたんだ。


どうもそれは言い訳っぽい感じがしていたんだけど、クラス委員として教壇に上がるとなると黒布くんがそれはもうじっとりと視線を向けて来るのが分かっていて、それに耐え切れそうになかったという理由があったみたい。


うーんまぁそうだよねぇ、クラス委員長なんてこの状況ではやり辛いだろうからなぁ。


代わりにクラス委員長になったのは小野寺(おのでら)美津紀(みつき)さんと言う女の子で、僕は今年が初クラスメイトになるのだけど、3,4年の時は1組でクラス委員長をしていたらしい。


山田達に絡まれている風香ちゃんを何かと気に掛けてくれていたらしいので個人的にはとても良い娘さん判定です。小柄で(でも僕より少しだけ背が高い)よく喋る明るく賑やかで真面目な女の子だ。奏ちゃんとは昔から結構な仲良しらしい。


時々彼女と奏ちゃんの会話の中に僕の名前が出て来る事があるんだけど、気になって聞いてみてもはぐらかされてしまうんだよね、一体何の話をしてるのやら・・・漏れ聞こえてくる『伊織くん総受け』って一体どういう意味なんだろう??羽依ならわかるかな。


あと、奏ちゃんの話なんだけど、あれ以降亮人くんと一くんが奏ちゃんの登下校に護衛として付きっ切りなっているそうです。僕達も出来るだけ一緒にいるよう心掛けてはいるけど、二人が付いているなら安心かな。


まぁ亮人くんは放課後は部活もやってるし、下校時は一くんと僕達が一緒な事が多いです。玲ちゃん曰く最近になってあのアメリア人以外にも遠巻きに奏ちゃんを監視している人影増えて来たということなので、本当に央華国がちょっかいを出してくるなんて事があるのだろうかと不安な日々だけどそんなある日。


教室では奏ちゃんに話しかける亮人くんの姿が。


「今度の15日だからな五校戦をちゃんと見学に来いよ奏!!」


15日(まんげつ)に五校対抗戦とか、あんたに有利すぎじゃないの?ほとんど不正よね」


五校対抗戦は地域の小学校が合同で行う陸上競技の交流戦だ、陸上部に所属している亮人くんにとっては格好の活躍の場なんだろう。

実際15日(まんげつ)に人狼ブーストがかかった亮人くんが短距離走で競ったら敵はいなさそうに思えるよねぇ。


「いやこれがそーでもねーんだよ、第2小学校に俺とタメ張れる奴がいんだよな、どうもそいつも月齢がまんま力に影響するタイプのゼンモンみたいでな、そいつが気になるから奏に見て貰いたいってのもある」


「だから、本人に無許可でゼンモン見るのは嫌だって言ってるでしょーもう」


「阿波根の時は自主的に教えてくれたじゃねーか?」


「明らかに敵意を見せて来た無法者相手と、競技上での競争相手を同列に語らないでよ・・」


へー亮人くんと短距離走で互角に競える相手がいるなんて驚きだ。少しばかり興味が沸く。


「奏ちゃん一緒に亮人くんの応援に行こうか?」


「おっ、いいねぇ伊織!お前が奏と一緒に来てくれるなら安心だしな!」


「いいの伊織くん?玲さんも」


「いいよね玲ちゃん」「ん」


「そう?では一緒に行きましょうか」


「アタシも行くよー奏!伊織くんも玲さんもよろしくねー!」


小野寺さんも参加を表明し、かくして再来週の土曜日に行われる五校対抗戦を皆で見学に行く事が決まった。


ゼンモン持ちが出す記録とか常識と照らし合わせたらヤバイ気がするけど、健全なスポーツ大会だしそんな厄介事に巻き込まれたりはしないよね?しないと良いなぁ・・・


===============


AMI歴12年5月1日 秋月家居間 宮代伊織(みやしろいおり)


夜になって秋月家の居間で玲ちゃんに膝枕して貰いつつ横になって一緒にインターネットのTVを見ていると、羽依が寝ている僕に乗って来た。


「ぐぇ・・・羽依、この体制で上に乗られると辛いんだけど?」


「あっ武蔵さんの試合今日だったっけ?」


「うん、今更だけど1DAYトーナメントってどう考えても過酷すぎるよねぇ・・」


今見てるのは、北米で行われている総合格闘技の大会だ。所謂なんでもありなルールは結構な流血シーンが見られる事もある過激な試合内容が多い。ダウンした相手に馬乗りになって上からタコ殴りとかこれスポーツとは言い難いよね。


「おっディフェンディングチャンピオンの登場だーかっこいーー!」


実況が画面に登場した前回、前々回連続王者の名を告げる『ムサシ・ミヤシロ』と。


画面に映っている宮代武蔵選手は僕の実の父で、海外での仕事というのはつまりそう言う事です。


父親は宮代流をベースにシュートのジムに通ってキックや柔術を習って総合格闘の技を磨き、シュートの日本チャンプになるとそのまま海外の大会に殴り込み、本拠地をアメリアに移し本場アメリアで実績を積み重ね幾つもの大会で優勝をしている。


この大会が終わったら、父はアメリアでの活動に区切りを付けて日本に戻って来るつもりらしい。

小さい頃からの夢を叶えてどうどうの凱旋帰国な訳で、恐らく向こうでも惜しむ声があるのだろうけど、これからは日本で後進の育成などに力を入れる事にするそうだ。


本人曰く、母親との約束も叶えたとの事だ、亡き母に世界一の選手となる事を誓っていたらしい。


もうすぐ薪染武(マキシム)父さんの一周忌もあって、それに間に合うよう帰国すると聞いている。


TVを見ながらそんな事を考えていたら、何時の間にか僕は床にうつ伏せ状態で羽依に背中に乗られ、足を抱えて持ち上げられる逆エビ固め(リバース・ボストンクラブ)もどきの技をかけられていた。


「ギブ?ギブ?」


と聞いてくるので適当に「ギブギブ」と返してるのだが一向に解放してくれない。


「羽依ギブアップしたんだから放してよー」


「ダメ!全然効いてないじゃーん!!そんな言葉だけのギブアップは受け付けないよ!!」


そんな無茶苦茶な・・


しかしこうやって無邪気なスキンシップをしてくる乳妹(いもうと)だが、時折押し付けられる柔らかい感触についドキッとさせられてしまう。うーんあきらかに乳姉(あね)より質量が勝っているよねコレ、年齢差を考えると今後どうなって行くのか戦慄さえ覚える、乳妹(いもうと)相手にこんな事考えるなんてダメだと思いながらも意識は接触面に集中してしまう。


「喉乾いたージュース飲む!」


「あー・・・」


そんな事をぼんやりと考えていた僕は、羽依が降りてしまうと味わっていた感触の気持ちよさが途切れた事に言いようのない切なさを味わっていた。


気が付くとそんな僕の事を玲ちゃんがじーっと見つめていた。


「なっ、何?」


「ううん」


羽依の行為に感じていた気持ちよさに言い難い後ろめたさを感じた僕は、こちらを見詰める玲ちゃんに気まずい思いを抱いてしまった。全て見透かされているような気がしてならない。


我に返った僕がTVを見ると父の勝利で試合は終わっていた・・・う、ごめんよ父さん。


「もうすぐ武蔵おじさん帰ってくるのね」


「うん、一周忌には絶対出席するって」


「おじさんが帰って来たら、伊織は宮代のお家で二人で生活するつもり?」


「あー考えて無かったけど、家族が帰って来るんだから二人で生活する事になるのかなぁ・・」


父親が帰ってきたなら、二人で生活するのがまぁ普通の流れだよねぇ。まぁ今でも渡り廊下で繋がっているとは言え隣の自分の家で寝起きはしているのだけど。(玲ちゃんは一緒に寝てるけど)

今更だけど昔から交流がある隣同士とは言え渡り廊下で家が繋がっている状況と言うのは傍から見たら異常な状況らしい。


自分にとっては物心ついた頃から当たり前の状態だったので、他人に話した時滅茶苦茶ビックリされた事にこっちが驚いたものだ。


渡り廊下は病弱だった母親を心配した美沙母さんたっての希望で付けられたって話だけど。


「おじさんも一緒にうちで生活すればいいのよ」


「それは・・・どうなんだろう・・・普通に考えたらダメじゃない?」


「でもママはおじさんの事好きなのよね、再婚しちゃえばいいのに」


「えっ!?」


「まぁ伊織は気付いて無いわよね」


「何それ!?そんな話どっから出てきたの!!??」


「おじさんもママに事好きみたいなんだし、傍目には両想いなのバレバレなんだけどねぇ」


「そんな・・・ダメだよ、亡くなった薪染武(まきしむ)父さんに顔向け出来ないじゃん!!」


「パパも二人が学生時代にいい雰囲気だった事は知ってたって」


何その驚愕の新事実、3人で仲良さげに談笑してたアットホームな記憶とか一気にドロドロな風景になっちゃうよ!?


「まぁ大人の男女にも色々あるのよ」


「色々あり過ぎでしょ・・・」


「私たちはスッキリした関係を築きましょうね、伊織は私の嫁兼旦那様、風香は私と伊織の嫁、羽依は私の妹で伊織の妹兼愛人で何の問題も無いわ」


「問題だらけで何一つスッキリしていない・・・」


===============


夢を見ている・・・


恐ろしくて悲しい夢だ・・・


夢の中の自分は、その身を思うように動かす事が出来ないでいる


呪いに縛られ激痛に苛まれ暴走する魔力を抑えるのが精一杯な自分は、襲い来る敵に対して何も出来なかった


目の前には愛しい人が私を守るために盾となって傷ついている


自分の呪いの余波により、愛しい人もその力を存分に振るう事が能わず、襲い掛かる敵を相手にその身に受ける傷を増していった


もう止めて私を置いて自分だけでも逃げてくれと何度も叫んでいたが、愛しい人は決して自分を置いて逃げたりはしない事も知っていた


彼は必死に戦い続けた、懸命に私を守り続けた


しかしその必死な抵抗にも遂には限界の時が訪れる


その最後は―――――――


・・・・


もし彼を救う事が出来ると言うのならば、私は自らの命を差し出す事も厭わない


この契約により再び彼とまみえる事が出来ると言うのなら、どんな宿業を背負う事になろうとも構わない、私は喜んでこの契約を結ぼう・・・


そして今度こそ二人で・・・


これは夢・・・目を覚ませば忘れてしまう何時もの夢・・・


===============


AMI歴12年5月1日 宮代家伊織の部屋 秋月玲(あきづきあきら)


恐ろしくて悲しい夢を見ていた。


目を覚ますと腕の中には愛しい弟のぬくもりがある。


いつもと同じように、先程まで見ていた悪夢は何一つ詳細を思い出す事が出来ない。

だと言うのにこの身を苛む不安と悲しさには抗う事が出来ず、私は少しでもその想いを紛らわせようと眠ったままの弟を抱きしめ口づけをしてしまう。


「ん・・・玲ちゃん?」


「ごめん伊織おこしちゃった」


「又怖い夢を見たの?少し伝わってきたよ」


「ん・・多分・・」


いつものように弟は黙って私の頭を抱きかかえて優しく背中を撫でてくれた・・・

その優しくいたわる手の感触に身を委ね、私はしばらくすると再び眠りについていた。


どうせ起きたら全て忘れてしまうのだから、今度はせめて幸せな頃の記憶を夢見たいと祈りながら。


つかの間の日常って所でしょうか。新キャラが軽く紹介されたりします。

初めて評価とブクマ頂けまして大変嬉しいです!励みになりますのでありがとうございました!


実のお父さんの話は初登場です。

新キャラその小野寺美月さん、彼女も『ゼンモン』持ちです。


奏ちゃんと小野寺さんが話している伊織くん総受けとは・・誰と組み合わせても伊織くんは右側と言う事ですね。

まぁ、砂金さんも小野寺さんもそんな娘さん達です。そして風香ちゃんに仲間になり得る素質を感じています。


ここまで当作品をお読みいただきありがとうございます!


この作品を読んで少しでも

『楽しい』『続きが気になる』『この伏線ちゃんと回収されるの?』

などと思って頂けたのでしたら、感想やブックマークをお何卒よろしくお願い致します。

ページ下の評価システム【☆☆☆☆☆】をご活用いただければと思います。

ご評価頂けますと作者の励みになり、モチベーションの持続にも繋がりますので、

どうかよろしくお願いいたします!

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