オオカミ様に会いに行く
前回は熊谷から続く私鉄の電車で一時間ほど
乗車した先にある関東平野から見える
山を越えた先の長瀞に行くまでの話でした。
「着いたここが長瀞ね!」
そう電車の扉が開いたときに彩は一番にホームに飛び降り開口一番にそういいました。
そして、目の前を指さして「見て見て!なんか停まっているよ!」と、後から降りてきた二人に声をかけます。
「ああ、それはですね・・」
「秩父の武甲山で取れたセメントの原料だろ・・コンテナに載せて線路で運んでんだよ。」
幽刻寺が言いかけた事を春日に言われてしまいました。
「え・・あれ?何で知っているんですか?春日さん・・僕の出番・・」
「ああ悪いな、言ってなかったなお前には」
「春日は秩父出身だからね・・」
彩が振り向き自慢げに答えた時に、幽刻寺は「え?じゃあ僕来る必要あった?」と疑問に思いました。
「まあ、そう落ち込むなや、俺だって全て知っている訳じゃねえんだから・・それに俺がここに来る目的は俺のダチ紹介するだけじゃねぇから」
「え?町歩きの他にも用事あるんですか?」
「ああ・・でもお前は知らなくていい・・」
「ええっ、なんでだろ・・そんな言い方しなくても・・」と幽刻寺は少し凹んだ様子でしたがそれに構わず春日は目の前にあるセメントについての話が進みます。
「ここにあるセメントこの先にある山の武甲山から採掘されたものなんだ。」
「私知っているよ!こないだテレビでみた!あのサングラス掛けた人が出てる番組の秩父特集で・・」
「彩さんそこまでにしてしてください・・へっくしゅん!また変なくしゃみ出て来ました・・武甲山これから行く場所からもよく見えますよね春日さん」
「ああそうだな!あそこは見晴らしがいいからな・・てか春日でいいぞ・・」
「あっ、はい・・解りました春日」
「イエッサー春日パイセン。」
「彩お前は黙れ、ほら降りんぞ人待たせてんだから・・」
そう春日が言うと彼は長瀞駅の改札に向かった。
「反対側のホームに行くのに線路渡るなんて何か変な感じね踏切でもないのに・・」
「でも階段より楽で良いじゃないですか」
そう言って幽刻寺と彩も春日に続いて行きました。
☆ ☆ ☆
「おい彩お前どこ行こうとしてんだ?」
「げっバレてる!」
春日に呼び止められて、彩は長瀞駅前から改札を出て直ぐに左にまがって踏切に向かっていた。
「彩さんそっちは荒川方面ですよ・・ライン下りや博物館に今日は行かないからそちらに用は今日は有りませんよ・・」
「いいじゃん!ケチ!こっちのほうがいっぱい食べ物屋さんがあるから少し寄っても良いじゃん良いじゃん!」
「良くねえだろ!人待たせているっていってんだろ!いい加減にしろや!」
「ぐぅ!そんなに怒らなくても!春日のバカ!」と言って駅前にある露店の味噌ポテトを取って目の前に居た店主に「あのケチな、眼帯厨二病特撮オタクのヒーロー気取りの足クサ男が払います。」と言って逃げていきました。
「あいつ!足クサは余計だろ!馬鹿にしてんのか!」
「足クサって、絶対に春日部出身のあのお父さんから思いついたワードだな」っと幽刻寺は少し笑って居たら春日に「何が面白いんだ」と怒られました。
「と・・とりあえず彩追いかけに行来ましょう?幸い目的の宝登山のルート向かっているし」
「・・そうだな、あんまりアイツが離れると少し厄介だからな!」
「厄介・・?」と幽刻寺は疑問に思いましたが今は彩を追いかける事にしました。
「所でお二人さんお代は?」
店主にそう言われ「ゲッ・・」と二人は口を揃えて言いました。
「おい、お前お辞儀してから行けよここ鳥居あるだろ・・」と春日に言われて、「ああ、これは失礼」と言って二人は駅前から横断歩道を渡った先にある一の鳥居をくぐっていた。
「それにしても彩さん見つかりませんね・・」
「・・どうせこの先の売店で何か食ってんだろ・・次会った時はげんこつだ。」
「なんかそれ、効果音とか有ってそれっぽいタンコブ出来てそう。」
そんな会話をしながら二人は宝登山に続く道を歩いていました。
コンクリートで舗装されていているが少し傾斜がある道。
その道はこれから目指す宝登山に続いていた。
「所で彩さんいなかったどうしましょう・・」幽刻寺は心配そうに、春日に聞きました。
「いや、心配する必要はない・・これから会いに行くアイツに見つけてもらうから・・」
「見つけてもらうってその人何者なんですか?手がかりも無いのに」
「いや、あるぞ」と言うと何か黒い物が春日の手に握られていて幽刻寺はすかさず「何ですかそれ?」と質問します。
「彩のニーソックスだ!」春日の自信満々な声に幽刻寺は驚愕した。
「は?何でもって居るんですか?てか自信満々に言わないでください!それにそれじゃ見つけられないでしょ!」
☆ ☆ ☆
暫く歩いていた二人の足元は次第に砂利道に変わり宝登山の麓にたどり着き、目の前には売店がありベンチやテラス席、観光客が食事する場所もありました。しかしそこには彩の姿は見えませんでした。
「しゃあない、アイツにお願いするか・・」
そう、春日は言うと神社のほうに向かって行きました。
幽刻寺も「アイツって誰ですか?」と小言を言いながら付いていくと、宝登山の麓にある神社に誰か履き掃除している人が居ました。
「よう、元気そうだな宝山ケンタ」
そう言うと、目の前で履き掃除していた装束をまとった少年はこちらを向いた。
その姿を見た、幽刻寺は驚いていた。
「まあ驚くのも無理ないっすよね、普通こんな耳なんて付いていないっすよね。」
「いえ・・こちらこそ、初めて会う人に失礼でした・・僕は幽刻寺って言います。」
「君が春日の言っていた新しい神様すね!僕の名前はケンタ、宝山ケンタと言いますっす。宜しくっす!」
そう言って、ケンタは手を差し伸べた。握手する前に幽刻寺は改めて彼の身なりを確認した。大正時代の学生帽に黄色の髪でショートヘヤー、黒いマントと白い着物、そして黄緑色の袴と足袋に雪駄。この神社の管理人なのだとすぐ解る格好でした。
幽刻寺もケンタの握手に応じる為手を差し伸べましたが春日が水を差すように何かを放り投げました。
「ほい。取ってこい」
「はい!ごしゅじん!」と言いながら春日の投げた丸い物を追いかけていきます。そして暫くした後にケンタは口に野球の硬球を咥えて帰ってきました。
「ごしゅしんこほおふひくらさいふ!」と言いながら、ボールを咥えた状態でケンタは手の平を春日に広げました。
「このワンちゃん飼い慣らされてんじゃん・・」と幽刻寺は小声を漏らすなか、春日は先ほどの黒いものを渡しました。
「なんすかこの黒い布?」春日から渡されたものに目を落とすケンタ。
「彩のニーソックスだ!この臭いをかいで彩を探すの手伝え。」
「ああ、春日が金髪の駄天使と言っていた女の子すね。その子ポイ子ならさっきロープウェイに続く道に向かって行くの見たっすよ、何でか味噌ポテト持ってましたね。」と、言ってケンタは春日に彩のニーソックスを突き返しましたが、そのままの流れで幽刻寺に手渡されました。
「おめえら、ロープウェイに行くぞ!」と春日は先導を切ると、ケンタも「解ったす!」と言って春日について行きました。
すこし、面を食らって呆然としていた幽刻寺だったが「あ・・返さなきゃニーソックス」と
言って二人を追いかけました。