ツギハオマエダ
前回は豆撒きの話で鬼姫様と節分をしました。
今回はさやか先生の指示である町に向かっていました。
「ツギハオマエダ・・」
その声に幽刻寺は飛び起きた。
気が付いた時、彼のいた場所は電車の中でした。
「扇風機ついてるじゃああの私鉄か、怖い夢だった・・」
「どうしたの?幽刻寺?かなりうなされていたけど・」
そう心配して彩は幽刻寺の顔を覗き込んでいた。
車窓から注ぐ光に少し彩の顔が眩しかった。
「大丈夫です・・なんか変な白い胴の長い化け物に襲われる夢を見ました・・」と幽刻寺が答えた時電車のアナウンスが鳴った。
「次は小前田、小前田です。」
そのアナウンスに幽刻寺はほっとした。
「なんだ、ただのアナウンスか・・小前田駅ややこしい名前だなぁ・・」
そういいながら左側を見ると春日が手すりを枕に眠っていた。
「そういえばあの豆撒きの後、さやか先生に三人指名されてこのメンバーで現地調査してくれって頼まれたんだっけ鬼百娘さんは個人の活動で忙しくて来れないとか言ってたっけ・・そういえば次行く場所はどこだったけか・・?まあ、この二人の誰か覚えているだろうし流れで降りるか・・」
幽刻寺はぶつぶつと呟いていると、彩は再び幽刻寺の顔を覗き込んだ
「大丈夫?お茶飲む?駅で買った狭山のお茶だけど・・」
「あ・・ありがとうございます。頂きます。」と幽刻寺は何気なく受け取ったが、内心は「何で狭山のお茶がピンポイントでお店に並んでいるんだ?」と疑問に思いました。
幽刻寺はお茶を口に含みながら何か違和感を感じました。特別お茶や電車内には特に異常はないのだが、何故か焼き肉の匂いがしたのだ。
幽刻寺は当たりと見渡すとその疑問も直ぐに解消された。彩の隣には七杯ぐらい空になった茶色い容器の牛丼弁当が積み重なっていました。
「なんで、彩さん牛丼食べているんですか?しかも七杯も・・?」
「へ?あっこれ?ついつい駅に乗る前に良いにおいがしたから買ってきちゃったよ!ほら通学とか階段降りたら直ぐにこの牛丼屋が目に入るからお腹すいちゃってね。皆で食べようと思っていたんだけど到着まで一時間あるから冷めないうちに全部食べておいたわ!うまい!うまい!って、えっと・・食べた感想いる?」
「ありがとう、お話聞いただけでお腹いっぱいになったよ・・」
「そう!良かった!」
幽刻寺は、彼女との会話は成立しているのかと心配になってしまった事と、もう一つ心配な事を呟きました。
「さやか先生はちゃんとお給料貰っているのかなぁ?きっと、彩の食費で全部消えちゃうよな・・。」
彩が先ほど言った言葉に少し気が付いたのかそういえば話の中で幽刻寺は気になったことがありました。
「この私鉄で一時間後に着く場所ってあそこしかないよなーたしか、あそこは川が有名だな流れが緩やかなのが地名にも関係してるし、上流から船で下るライン下りやラフティングなどの水辺のレジャーも盛んだなー、また近くに山もあってそこの神社はこの地域の三大三社と呼ばれているパワースポットだし、そこから頂上まで続く登山道もあるからハイキングにもいいな・・てかそこに行くんだっけか・・よく覚えてないな・・たしか降りた先にコーディネーターである春日の友人に任せてあるんだっけ・・」
幽刻寺は少しずつ今回の地域調査の目的を思い出していた所に彩から肩を叩かれて外の景色について聞いてきた。
「幽刻寺!見て見て!外の景色畑いっぱいだよ!・・ん?あれ何?」
「え?何ですか?」
彩は座席に膝立ちになっていて外の景色を見ていた。
電車の進行方向の左側の座席に座っていた幽刻寺と彩の目の前には、
田畑の向こうに小さく山が見えた。
「ああ、あれですか・・よく見えますね!金勝山かな?」
「きんしょうざん?って・・ん?知ってるかも?たしプラネタリウムのある山?んじゃあの山頂の銀色のあれプラネタリウムなの?というか小川町まで見えるのね・・この鉄道」
「はい、小川町の金勝山ですねー山の中に隠されたスタンプラリーも楽しいですよね」
「えぇ!あれは昔私も・・・・・」
「どうしました?彩さん?」
幽刻寺はあからさまに顔色を濁した彩を気にかけましたが「何でもないよ」と話をはぐらか
されました。
そのさなかに「次は、寄居、寄居になります。」と次の駅のアナウンスがかかりました。
「寄居だって!寄居って北条祭りの町だよね!私知ってるよ!」
「そうですよ、寄居には昔鉢形城っていうお城があってそこで起きた戦いを、今はお祭りとして再現しているんですよね。・・さてこの駅から次第に山の中に入り込んでいきますね景色も田畑から山間の景色に変わっていきますね・・。」
彩はずっと寄居を過ぎてからでも膝立ちのまま外の景色を見ていました。
外には、青々とそびえる山々と眼下には雄大に流れる荒川。
先ほどのどかな田園風景から車窓の景色も大きく変わりました。
そして、彩はふと疑問に思い幽刻寺に聞いてみました。
「あれ?もしかしていつも熊谷から見ていた秩父峰ってほんの氷山の一角だったのかな?だって反対側の車窓にも山見えるもんね・・ここさきたまよね・・?」
「ここもちゃんとさきたまですよ・・あの反対側の車窓に見える山の向こうがさきたまの向こう側になるのかな?」
「へえ・・いつも見える山の向こう側にこんな景色が広がっていたのね・・あの山の向こう側絶対さきたまの外だと思っていたのに・・。」
「まあ、そう思うのも無理もないかな…平地で暮らしていると思わずこの土地にこれ程までの山岳地帯が広がっているなんて思わないですからねぇ・・あはは・・」
「お前ら話はそこまでにしろ・・もうじき目的地に着くぞ・・降りる準備しろ!」
彩と幽刻寺は驚いて声のした方向に顔を向けるとそこには春日が乗車口付近の手すりにもたれ掛かりながらこちらを見ていました。
「いつの間に起きたんですか?全然気配感じませんでした。」
「あ?気配感じなかっただ?こんなプンプンキツイ匂いまき散らしているから寝ようにも寝られんわ!」
「ごめん、みんなの牛丼無くなって怒っているのかな?流石に臭うよねスプリングデイ」
「彩、お前今度何か有ったら絶対にお前だけは助けない・・因みに俺の名前は春日だからな・・」
その会話の最中目的地のアナウンスが列車内に流れました。
「次の駅は長瀞・・長瀞です!お降りの方は電車が止まってからお立ち下さい。」
そして隣の車両には彼ら三人の姿を覗く、
白いワンピースの女性が食い入るような姿で三人を見てました。
「私のアヤちゃん、今すぐたすけて・・あ・げ・る・・カァ・ラ・・ネェ・・」