第九話 ティアの様子がおかしい!
魔法照明が橙色に照らす大きな部屋に俺とティアは部隊長によって案内された。
「いいのですか、大元帥閣下。あの暗殺者たちを牢屋に閉じ込めておくだけで」
なぜ大元帥?と言いたいが先に話すことがある。
「あれでいい。死より牢獄で過ごしたほうがよっぽど効く。それに、宰相ラザルが俺を忌々しい存在なだけで、暗殺者を雇っていたことが分かった。まだ何か情報を持っているかもしれない」
「流石は大元帥閣下!」
そういうと男は頭を下げる。
「ちょっといいか? なんで俺の事を大元帥と呼ぶ?」
俺はついに知りたいという欲の限界で、そう聞いていた。
すると部隊長は皇帝リリーザ、あだ名はリリ、のサインが入った封筒を俺に手渡す。
「大元帥閣下! 帝都までの道のりを邪魔して申し訳ございませんでした。ですが、それはリリーザ様の手紙を渡すため! お許しを!」
帝国魔法部隊の厳しさと言うのは知っていたがクルザでは見ない銀色のフルアーマーを着込んだ部隊長のそのあまりにも畏まった態度にちょっと引いてしまう。それはティアも同じで苦笑いをしていた。
「なんだろう、普通でいいぞ、普通で」
「いえ! そういうわけにはいきません」
俺がそう言っても部隊長は聞かずに、ただ俺を見ていたので俺は封筒の中身を取り出す。
『ジークへ。手紙、感謝するぞ! 我が帝国に来てくれてありがとう! さて、ジークが要望していた私の護衛の任だが、却下! ジークにはやってもらわなければならない仕事が山ほどある。だから、クルザでいう宰相にあたる地位を授けよう! 私の次に偉いんだぞ! 喜べ! 追伸。初の仕事は偉大壁の防衛力の強化をお願いするぞ! リリーザより』
俺は18歳とは思えない幼い容姿のリリーザが銀髪のツインテールを揺らしながら書いている姿が容易に思い浮かんだ。
ルンルン気分で頭を振りながら、頭の中は物凄い速度で帝国のことを考え、俺の要望を却下しているところを。
俺としては目立ちたくないので、陰で暗躍する方が好きだったのだが、皇帝の命であれば仕方がない。
それに大元帥というのも表向きの話、2番目に偉いのなら陰で何かしても文句を言う奴はいないだろう。
「なんて書いてあったのかしら?」
ティアは覗き込むように、手紙を見ている。
「俺が大元帥だということと、この壁の防衛力の強化だと」
俺がそう言うとティアは子供っぽく顎に手を当てて微笑していた。
「聖女である私も帝国に来たからには、さらに防衛力の強化が必要ね」
「そのしぐさは謎だがそう言うことだ。帝国は過去のイメージのせいで敵が多いからな」
「そうね。それでもだめならジークが守ってくれるのでしょう?」
ティアは上目遣いで恥ずかしそうにそう言っていた。
「あ、ああ。もちろんそうだが...... ティア、最近様子が変だぞ! 昔のティアなら、『私がいれば大丈夫!』なんて自信満々に言ってたぞ!」
そう、ティアは聖女だがかなり強い。魔法で戦えば俺だって苦戦する。そんなティアがこんなことを言うのはおかしかった。
「なっ!! 方向の転換ってやつよ!! それに! ジークだって、昔なら、『ティアなら余裕だから必要ない!』って言ってる!!」
ティアは吐息が顔にかかるほど近づくと、むくれた表情で俺を見ていた。
やはり最近のティアは様子がおかしい。まるで鳥籠から解放された鳥のように、自由に飛び立っている。
方向性の転換と言っていたが、ティアは何か目指したい性格でもあるのかもしれない......
俺は驚きすぎて、ティアのむくれている顔をしばらく見つめていた。
長いまつ毛に、空色の瞳、柔らかそうな頬。やはりティアは美少女だ。本当にそう思う。
すると咳払いが聞こえてくる。
「閣下。私はどうすればいいでしょうか」
俺たちは冷静な部隊長のその言葉でハッとする。
「いや! よく言ってくれた部隊長! それに、安心したまえ! もう既に計画は頭の中にある! まずは魔法銃の改良だ!」
「流石です閣下!」
部隊長は拍手をしている。
俺はつい口にした帝国魔法部隊流の話し方に、恥ずかしさで悶えながら杖で魔法照明を消した。
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