第八話 暗殺者集団が襲ってきた
俺たちはアッティアの村を出ると、帝都に向かって物凄い速度で向かっていた。
これ以上、関わりがない人たちに迷惑をかけるわけにはいかないからな。
そんな俺たちはあっという間に、アーシス帝国の国境付近まで近づいていた。
木々が生い茂った中、国境に沿うように大人10人ほどの大きさの壁がどこまでも続いている。
その中央ではラザルの貴族と、帝国の魔法部隊がにらみ合っている。
「あれが偉大壁なのね。すごいわ! あんなに大きいのに、古代に作られているなんて」
リスティアは馬車から体を乗り出し目をキラキラさせていた。
「ああ、そうか。ティアは見たことないんだったな。この壁は古代に帝国がクルザの力を恐れて作った壁なんだ。帝国は魔力者に恵まれなかったからだな。それとだな、ティア」
俺はわざとらしく咳払いをする。
「なにかしら?」
ティアは風で金色の髪をなびかせながらそう言っていた。
「目をキラキラさせて見るのはいいのだが、その、あまりにも後方の部分が魅力的と言うか、なんというか......」
俺はティアをなるべく見ないようにしていた。体を乗りだしていたティアの後方の部分は突き出され、服が体のラインに沿って張り付いている。
いくら親友とはいえ、こういうのは良くない。そう思った俺は注意をしていた。
「え...... ああ、ごめん!!」
ティアはそう言うと、顔を赤くして席に素早く座っていた。
その反応は9年も付き合っている仲ではなく、どこか初々しい。
聖女らしい白い服を着ているせいもあってか、初々しさが強調されて、何とも言えない空気感があった。
そんなティアを可愛い、そんな風に思ってしまったのだ。
だから俺は空気を変えるべく、口を開こうとした。
その時だ。グレア時代に積み重ねてきた敵の察知能力が、ここは危険だと赤く点滅している。
馬車を5台分進めた先の両脇の森に、複数の人が隠れている、そんな音が聞こえてくる。
服と葉がこすれる音、荒い息、そして何より俺たちに向けられている敵意が感じられる。
ティアも俺の表情の変化を察したのか、表情は険しく、頷いている。
相手はどこのだれか、どれほどの強さを持った人たちか分からない。
これ以上進むのは危険だと判断した俺たちは、囲まれないように早々に馬車を降りる。
「気づいているぞ。茂みに隠れてるんだろ」
すると、左右から10名の黒ずくめのやつらが、杖を抜きながら飛び出していた。
暗殺専門の集団、血の夜明けだ。血の夜明けは全国各地に拠点を持っている大規模な暗殺集団。
ということは今頃アッティアでも戦闘が起こっているのかもしれない。
そんな彼等の怖い所は実力がある上に、それが未知数なところだ。
「正解だよぉ! ジーク・アルバート!!」
リーダー格の男はそう言うと、剣を抜き放ち俺に振るっている。
さらに周りの9人も、杖で攻撃しようとしていた。
俺はすかさず杖を取り出し、魔法を唱えようとしたが、奴らよりも後方から青く光るものが近づいていた。
「ジーク様に指一本触れさせるな! 撃て!」
そう、後方にいた帝国の部隊は魔法銃を放っていた。
魔法銃は魔法の力が弱い者でも戦闘で結果が出せるように、帝国が作り上げた兵器。その動力は魔力が与えられたクリスタルで、引き金を引くと微量の魔力が高速で放たれる。
それ故、帝国はラザルと互角に渡り合えたといってもいい。だが、たかが100名ほどが発砲したところで、10人の精鋭達を殺せるわけがなかった。
案の定、血の夜明けの暗殺者は後方から来た魔力の玉に気づき、素早く振り向いていた。
俺はその瞬間、彼らが助かる方法を模索していた。
遠方にいる彼らとは距離がある。だから魔法で壁を作り出すのは遅いだろう。
だとすれば、やはり10人を近接戦闘で倒すしかない。それが一番、素早い方法。
「ティア!! 土の壁を作り出せるか? なるべく強力なのを!」
「わかった!」
暗殺者たちは杖を構え、今にも魔法を放つ動きをしていた。
俺はそんな暗殺者集団に村でもらったボロ剣で突っ込む。
「おい! 舐めてんじゃねーぞ! いくらグレアの生まれだとしても、そんなボロ剣で――」
俺はリーダー格の男の剣を木っ端みじんに切り刻み、俺たちに向かっている6名にハデン流の青白い斬撃を放つ。だが、流石に6名の魔法に対してはこのボロ剣では厳しいのか、じりじりと迫りよるだけだった。
でもそれで十分だ。俺は残りの3人の杖を切り刻むと、柄の部分で頭部を殴り、魔法部隊を見る。
「くっ!! 一人肩に負傷か......」
一人負傷。普通ならば上出来すぎるのだが、俺は一人も傷つけたくはなかった。
「ティア! 念のため、後方で帝国の兵士たちを守ってくれ」
「わかった!」
ティアは後方に走ると、リーダ格の男は声を上げる。
「おい、間違っても聖女様には手を出すなよ」
後方の6人は武器なし、3人は気絶していることを知らないのかそう言っていた。
「かかってこないのか?」
俺がそう言っている間も、リーダー格の男は煙草をふかしている。
ようやく半分まで吸い終わると男は口を開いた。
「わかったよ、そんなに早く死にたいなら。死なせてやる」
すると、男は杖で魔法陣を書き、そこから人二人分ほどのゴーレムが現れる。
「どうだ! すげーだろ!」
「どうだかな」
俺は男の前で魔法陣を素早く書き上げる。イメージするのはタイタン。
ゴーレムにはタイタンがいい。
俺がイメージすると、魔法陣は赤く光りだす。そして、20メートルほどのタイタンが俺たちを見下ろすように現れ、俺の前にいたゴーレムをデコピンで弾き飛ばしてた。
ゴーレムはその衝撃で粉々になり、偉大壁にあたっていた。
「おいおいおいおいおい!! 嘘だろ!?!? なんだこいつは!?!?」
男は後ずさりしながら、焦っているのか顔が汗まみれだ。
「戦ってみるか?」
「ふざけるな!!」
「ふざけてはいないが。あと、後ろの仲間はもう戦えないぞ」
そんな言葉に男は素早く後ろを見る。
「いつの間に!? いや、待て、さっき俺の剣を斬ったときに......」
「その通りだ」
俺がそう言うと男は残ったタバコを残らず吸うと、口から大量の煙を吐き出し、空を見ている。
「通りで本部の奴らが動かなかったわけだ。ジーク・アルバート、お前は化け物だ。桁が違う。あの豚宰相に騙されたな......」
男はそう言うとタバコを地面に落とし、両手を上げる。
「さぁ、好きにしろ。殺すか?」
「いや、殺さないな。大事な情報源だし、帝都の牢屋に入ってもらおうか」
俺はそう言い、無抵抗の男を縛り上げると、偉大壁からは大歓声が上がっていた。
「流石は我が国の大元帥様だ!」「ああ、この国の勇者様だ!」
ん?大元帥? どういうことだ......?
読んでいただき、ありがとうございます!
おかげさまでランキング載ることができました。嬉しいです。
あとよろしければ、ブックマークと、↓の☆☆☆☆☆の評価を教えていただけるととても喜びます。
空中ででんぐり返しします