第六話 宰相と王のこれから
ジークがラッティアの村でガイアを捕えた時、大きな通路で煌びやかな魔法照明が宰相を明るく照らしていた。
そんな宰相ラザルの表情は険しく、歯を強く噛みしめている。
「おのれ! どいつもこいつも無能ばかりだ!」
宮廷内の通路で大声で叫ぶラザルに、通りかかったメイドや執事は怯えながら、頭を下げている。
コツコツとラザルの靴の音が近づくたびに、話しをかけられたくない彼らは目を伏せて、通りすがるのを待っていたが、ラザルは若い女のメイドの前に立つと口を開いた。
「おい! お前! 王は今どこにいる!」
ラザルの荒い声にそのメイドは体をピクリとさせると口を開いた。
「ラ、ラース王なら自室でお酒を飲まれています。ですが......」
「もういい! それ以上言うな!」
ラザルは再び大きな声を出すと、足早にラース王の自室まで向かっていた。
その表情は相も変わらず険しい。
理由は聖女と言う役割の空白と、ジークの後任にあった。
平民であるジークを追い出すことを前々から計画していたラザルは、前もって後任である者を用意していたが、その者は手紙を魔法によってラザルに飛ばしてきたのだ。
そして手紙にはこう書かれていた。
『ラザル殿。我が血筋を頼りにしてくれて、ありがとうございます。ですが、この件はなかったことにしてください。学院にいた頃ジークは私の後輩でした。といっても、話したこともありません。ですが、彼の実力は良く知っています。そんな彼の後を継ぐことなどできません』
だが、この手紙の内容は事実ではない。その者は最初は聖女の護衛と言う任を受けるべく、張り切って宮廷まで足を運んでいたが、宮廷に着くとジークがやっていた仕事の内容を知り、恥をかくだけだと辞退したのだ。
『僕にできるわけがないだろ』そうぼやきながら。
「陛下! おられますか?」
ラースの自室に着いたラザルは焦ったように額から汗をたらしながらそう言っている。
「ラザルか。入れ」
王の言葉が聞こえてきたので、ラザルは扉を開けると、部屋には酒の匂いが充満していて、ラースのそばには2人の女がいた。
ラザルはそんな二人に目もくれず、出ていくように手を払うと、女たちは出ていく。
「それで、宰相よ。何があった?」
「実は後任ですが、辞退されました......」
「なんだそんなことか。ならば、適当に次の者を探せばよい。たかが、護衛よ」
ラザルはラースのその言葉に、眉をピクリとさせ渋い顔をした。「ただの護衛ではない」なんて言えないからだ。
本来は王であるラースも聖女の護衛の役割である、全権委任された超エリート職ということを知っているはずだが、ラースは怠惰なせいで知らない。
そしてこのことを知るのは宰相ラザルとごく一部の高級貴族だ。
ラザルは自分の行いで、ジークが去ったなんて言えるはずもなく心の奥底にある感情を押し殺した。
「仰せのままに.....」
ラザルがそういった時だ。後方から、貴族の男が部屋に入ってきた。
「陛下!! お話し中、申し訳ありません。リース王がジークがいなければ交渉はしないと! リース国は我が国の大事な貿易相手です。もし、今後貿易が途絶えたら、我が国の食料事情は悪化どころではすみません」
「なにぃ!!」
これにはラースも大声を上げていた。そしてラザルも後方の汗まみれの貴族の姿を汗を滴らせ見ていた。
だが、これだけではなかった。ジークが退任したことは、既に王都内で囁かれ始め、悲しまれていた。
平民のジークはリース王国とうまく交渉していたのだ。
ラザルは平民のジークが有能だと言う事実に苛立ちのあまり、床を力強く叩いていた。
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