第五話 食用ナイフだって立派な武器
「ふむ、ハデン流か! 実際に見ることができるとは思わなかったぞ!」
ハデン流は山岳国家グレアで剣の才能があるものだけが、受け継ぐことができる流派。
そして、グレアから平地に赴くことは滅多にない。というより、禁止されている。
だが、俺はそこでも追放されたため、ここにいる。
だからガレフが驚いた顔をしているのを見て、理解できた。
村人たちも、ハデン流を知っているようで歓声が上がっている。
「なんと!! ということは、あのお方は!」 「かっこいいわ!」 「でも、食用ナイフでどうやって?」
そしてなぜか後方のリスティアも敬語で俺に語り掛けていた。
「ジーク様! どうか、頑張ってください。応援してます」
俺はわざとらしく乙女のように言うリスティアの声を聞いて、「なんで敬語なんだ、ティア!」と叫びたくなる。それくらいなぜか恥ずかしかった。体がポカポカする。
最も、俺たちが親友であるという事を知っている人はここにはいないので、意味がない思考なのだが、恥ずかしくなる。
「そうだ、俺はハデン流、継承者序列1位、ジーク・アルバート」
俺は剣の腕前だけはそれなりに自信がある。だから、自信満々でそう言うとガレフは急ににこやかに笑いだす。
「はははは!! 参りましたぞ!どうか、お許しください。魔法銀行にちょっとしたサプライズをさせていただくので――」
「いや、ダメだ! なぜならお前の本名は、ガイア。この地方の領主だろ?」
俺はこの男を知っていた。聖女の護衛役として務めていた時に、ガイアの悪い噂は中央の俺の耳にまで届いていた。
そしてここに今日来たのも、領民を虐げるために来たのだろう。ガイアが現れてからの、村人の顔からそれは容易に分かった。今でも、村人たちの表情は暗い。まるで、ちょっと前までの村長たちのように。
「ふむ! 流石は国の中央で暗躍するお方。もう耳に届いていましたか」
「ああ、だから中央へと連行する」
俺は元聖女の護衛だが、それは関係ない。中央にいた頃は、地方のごたごたに対応する暇なんてなかった。だから、今日という日はまさにチャンスだった。帝都に行くまで、捕まえておこう、そう思っていた。
「中央の平民が小うるさいとは聞いていましたが、まさかここまでとは!」
男はそう言うと、村人たちを指さす。
「あれは! 私のものだ! いいか、私のものだ! だから、なにをしようが勝手だろう」
そんなガイアの声に村人たちはみな怯えるように黙っていた。
俺はそんなガイアに腹が立ち、持っていたナイフで素早くガイアが持っていた黄金の剣を弾き飛ばす。
「村人は領主の所有物ではないぞ!」
「ふん、天剣も持っていないハデン流など恐れるに足りん!! それに、私も馬鹿ではない!! ヤレ!」
ガイアがそう叫ぶと、四方八方の窓から矢が俺めがけて飛んでくる。
俺は、なるほど、と頷く。能力が低いため、魔法より矢がより速い、そう判断したのだろう。
俺はそんな矢の群れを一本一本視認し、アサシンにナイフで全ての矢を反射させる。
そして、カキンと金属音が鳴る前に、未だに俺を殺せると確信しているのか、ニヤニヤと笑っているガイアに対して俺は急速に近づき、ガイアののど元にナイフをあてる。
「もう終わりか、ガイア」
俺の言葉でようやく今がどういう状況か分かったのか、ガイアは汗を滴らせながら目を丸くして俺を見ていた。
「ば、馬鹿な食用ナイフだぞ!! それに、どうやって......ここまで! いや、これは夢だ! そうだろ、そこの男!」
ガイアは首を何度も振っていたが、それはガイアの演技だと俺は気づいていた。
ガイアはこの期に及んでも諦めていないらしく、後方に落ちている剣をばれない様に必死につかみ取ろうとしていた。
「残念だが、現実だ。何なら、その剣を振るってみるか?」
俺は後方の黄金の剣を顎で指すと、ガイアは憤慨していた。
「ふざけるな! こんなところで捕まってたまるか!」
そう言って、座りながら剣を振るうが、俺は食用ナイフで黄金の剣を2度斬る。
すると、3つに分かれた剣が、床にカキンと嫌な音を響かせながら転がった。
「だから、いつの間に動いているのだ!!!」
そう言いながら、今度は至近距離で杖を取り出そうとするので、俺はその杖を今度は5分割し、相手をするのが面倒になったので、食用ナイフの持ち手でガイアの頭部を軽く叩く。
と同時に、ガイアはふらりと倒れ、一斉に大歓声が上がっていた。
「ありがとうございます! ジーク様!! あのガイア様をこうも容易く!」「強すぎますー、ジーク様!」「惚れちゃったかも......」
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