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第四十九話 帝国部隊は善戦する

 技術部隊元帥ヨセフ、魔法部隊元帥アロイスは空に輝く光の花を見た直後、野営地から部隊を出撃させていた。


 部隊総数は2万強。クルザ貴族を倒すためには圧倒的に少ない。だが、広大な帝国領を守るためには仕方がなかった。


 ヨセフとアロイスはジークを信じて偉大壁(グレートウォール)の門を2万の兵力で通過する。


 技術部隊の機械音と魔法部隊のカチャカチャと鳴るフルアーマーの音は、数キロ離れたところでも聞こえるだろう。


 規則正しく、圧力のあるその音は当然門を死守していたマーネ貴族も気づいていた。


 だが、慢心なのか5名の魔法騎士部隊は門を通過しようとしている彼らをクルザ領の道中に仁王立ちしながら、嘲笑っている。


「おいおい、なんだあのオモチャは!」

「アハハハ! しかもこの音から察するに帝国は小競り合いレベルの兵しかいないというのに、領土侵犯」

「だが、さすがに5名は無理だな」

「間違いない」


 その間にも刻一刻と近づいているというのに、呑気に会話できるのには理由があった。魔法使いが強力な理由で、空を飛行できるためだ。

 いざとなったらいつでも逃げられる。そう思っていた。


「隊長。一回、マーネリアまで撤退しますか?」


 若い騎士がそういうと、中年の隊長は、


「いや、戻るのは1名のみだ。我々は超高度から奴らに魔法をお見舞いする」

「おお、その作戦いいですね! 名付けるのなら魔法空爆作戦ですか! 前代未聞ですよ」


 名誉を重んじるクルザ貴族たちは、こと戦闘においては厳しかった。

 だから一人の騎士が隊長を皮肉っているのだ。


 当然中年隊長はその発言に頬をピクっとさせる。


「お前は、マーネリアに援軍を要請しろ さぁ、いけ!」

「は!」


 皮肉った騎士は聞こえないように舌打ちをすると、馬を走らせる。

 闘いたかったのだ。援軍要請は超下っ端の印。これは侮辱だった。


「さて、奴らは馬鹿なことに偉大壁(グレートウォール)の上に兵を配置しなかった。当然、我々を撃てる者などいない。さぁ、始めよう」

「は!」


 貴族と言っても、騎士団所属貴族は貴族階級が高くても上官には逆らえない。

 逆らえるのは中央貴族のみ。3人の騎士たちは敬礼すると、空中に浮遊する。


「城門を越えたらすぐに殺せ。やつらはただのクルザ領外の人間だ。躊躇うな」


 隊長の発言に3人は頷くと、帝国兵が近づいてくるのを今か今かと待ち受けている。


 重低音がドンドン近づいてくると、最初の数人は門を通過する。


「もういいですか?」

「いや、もう少し待て。まだ早すぎる」


 帝国兵はどんどん侵入してくるが、部隊全体がキョロキョロと見渡していた。

 敵がいないことを不審に思っていたのだ。


「限界だろう。攻撃せよ」


 隊長がそう言った時だ。先頭に立っていた魔法部隊元帥アロイスは空中に浮遊している帝国魔法騎士部隊を発見していた。


「上だ!!」


 アロイスはジークが改良した、改良魔法銃の照準を覗き込む。


 魔法騎士達も杖をふるおうとしてた。


 だが、魔法銃の速度にはかなわない。


 魔法部隊による青白い魔法弾は魔法騎士部隊の手を止めさせていた。


「あれ、こっち来るんじゃないですか。隊長」

「どうやらそのようだ」


 ジークが改良したおかげで距離が増したおかげだ。

 その瞬間、必死に回避行動や魔法の盾を出すが、そうしている間にも帝国兵はクルザ領内に侵入してくる。


 隊長含め4名の魔法騎士部隊の実力ではもう限界だった。

 盾は割れ、魔法によって回避している現状、杖を振るう隙さえ無い。


 隊長たちは必死に回避する。下から見ると、それはまさに地獄絵図だった。


 当然、耐えられるはずもなく、魔法騎士部隊はついに被弾。


 飛行していた鳥が突然空から落ちてきた時のように、ドサッと言う音が響いた。


 その瞬間、大歓声が舞台から上がるが、アロイスはそれを止める。


「まだ終わっていない。気を引き締め、南進するぞ」


 ヨセフ、アロイスの部隊はそのまま偉大壁(グレートウォール)を突破し、順調に南進を続けた。

 後手後手なマーネを統括するマーネリア貴族たちに援軍要請が届いた頃にはもうすでに遅かった。


 ヨセフ、アロイスの部隊はマーネリアまで直線的に侵攻し、マーネリアまで距離にして数キロのところまで迫っていた。


 恐ろしい進軍スピードにクルザ貴族はマーネリアの城壁の上で驚いている。


 マーネリア総司令官のバーグは城壁の上ですぐさま指示をする。


「あの野蛮な帝国人を全軍で討ち滅ぼせ! いいか、防衛戦をするのではない。さあ、早くいかんか」


 バーグは城壁の石を蹴る。その様子には貴族特有の慢心などなく、焦りが含まれていた。


 反乱分子に気づかずに、帝国の侵入をも許してしまったのだ。

 ここで失敗するわけにはいかない。失敗したら中央によって死刑になるだけでなく、家そのものがなくなる可能性があると考えていた。


 そんな焦りの中にも微かな希望もあった。帝国兵を見たところ、ジークたち反乱軍の様子はみえない。


 敵兵は2万強。マーネリア魔法騎士は700強。魔法騎士一人は50人を倒すことができる。しかも、マーネリア貴族はマーネの田舎貴族よりも魔力が高い。


 順調にいけば余裕だ。

 だが、時間はあまりかけられない。


 忌々しいジークとかいう糞野郎が来る前に、片付けるんだ。

 城壁の上から祈るバーグの言葉が届くように、次々と浮遊した騎士たちは城壁を越えて帝国兵が魔法銃を撃つ中、容易に地面に着地する。


「ハハハハハハ! 虫けらが消えろ」


 700強の魔法騎士は様々な魔法盾で魔法銃を防ぎながら、余裕があるのか笑っている。

 アロイスはそれにもうろたえずに、魔法騎士部隊を包囲するために囲むが、魔法騎士部隊も円陣を組みそれに対応してくる。


「やはり、相手にならぬな。今なら大人しく、故郷の田舎に帰れば許してやるぞ」

「あいつの言うことは聞くな! 撃ち続けろ! 技術部隊の準備まで耐えるのだ!」


 アロイスは額から汗を流していた。早くしてくれ、ヨセフ。


「ならば散るがいい」


 リーダーらしき男は魔法陣を描く。すると、2百名余りの魔法騎士たちも魔法陣を描く。


 描かれた魔法陣は赤、緑、様々な色で光り輝き、帝国兵からは魔法騎士部隊の姿などみえなかった。


「怯むな、撃て!」


 その声に闇雲に撃つ帝国兵。


 だが、魔法銃の弾はすべて防がれていた。


 召喚獣200体に魔法銃は確実に当たっていたというのに、威力がまるで足りない。

 召喚獣200体はピンピンしている。


 その様子に魔法部隊の士気は大幅に減っていた。

 恐怖で魔法銃が打てなくなった者、やけくそで撃ちまくる者。


 だが、削れない。死なない。1万強の帝国魔法部隊の攻撃では、700強の魔法騎士部隊の一人も倒すことはできないのだ。倒す隙が無い。



「さて、楽には殺すなよ」


 その命令に召喚獣たちはついに動き出す。

 巨体でのそのそと近づいてきて、踏みつけようとするタイタン。

 空を舞い、炎で焼き尽くそうとするフェニックス。

 同じく空を舞い氷でカチコチにしようとしているアイスエッセンス。


 様々な召喚獣は帝国兵に襲い掛かってくる。それを避けられるはずもなく、帝国兵はジワジワと死んでいく。


 1割が削れて、アロイスはたまらずヨセフに声をかける。


「その機械とやらはまだか!」

「罠です」

「いいから早くしろ」

「ちょうど今、設置が終わりました。すみません、時間がかかりました」


 ヨセフは指をさす。アロイスはその先を見ると、


「包囲している30か所に電流装置と呼ばれるものを設置しました。この電流装置は円内に電流を流します。召喚獣も動物ですから、きっと効果があるはずです。動けなくなるでしょう」


 ヨセフの言葉通り、30個の電流装置は円を描くように繋がり、そこから円心に向かうように電流が流れていた。


 その電流によって召喚獣たちは動きを止める。


「やったのか!」

「いいえ、まだです」


 円の中心にいた帝国魔法騎士部隊には通用しなかった。魔法を駆使して電流を防いでいる。


「ですが、我々の技術はこれだけではありませんよ」

「あの、筒か」


 アロイスの言葉にヨセフは頷くと、手を振る。


「撃て!」


 ヨセフの声に後方にあった長い棒状の先から無数の鉄の弾がマーネリア貴族に向かっていた。


 無数の鉄の雨が水平方向から押し寄せてくる。その波は一瞬で、呆然と立ち尽くす貴族もいた。


 だが、少数精鋭の魔法使い。即座に岩から純度の高い硬い岩をニョキニョキと出すと、何枚も重なっている。


 鉄の雨はそれらに吸収されるように当たると、威力をなくした鉄の弾は落下した。

 弾を再装填しても、それらの壁は現れる。


「驚いたな。貴様らごとき下等人種が、一人でも殺せるとは」


 壁の内側から声が響くと同時に、盾の上から様々な魔法が繰り出されている。


「さあ、お遊びはここまで、死ぬがいい」


 圧倒的戦力差。技術を培ってきたとしても、700の魔法使いに敵わない。


 その事実がヨセフを奈落の淵に突き落とすが、ヨセフは歯を噛みしめて耐えた。


「まだまだ。ジーク大元帥が到着するまで、耐えなくては」


 ヨセフは今にも襲い掛かってこようとしている魔法の数々を見て大声で告げる。


「技術部隊は鉄砲を捨て、各自魔法に対応せよ。だが、電流装置だけは死守せよ」


 その声に魔法技術部隊は各自逃げの姿勢を取るが、諦めてなどいない。

 みな、瞳は燃えている様だった。


 赤い龍のような火がある兵士を襲う。地面から現れた槍が兵士を襲う。水は魔法銃の弾のようになり、兵士を襲う。


 それでも帝国魔法部隊は諦めない。電流装置を守り、時には反撃と言わんばかりに魔法銃で盾を攻撃している。


 それでも限界はあった。


 戦闘開始からおよそ1時間。


 帝国兵は走り回っていることにより疲弊していた。


 たった700。たった700人だけなのに。


 そんな心の声が聞こえてくる。


 もうダメだ。


 そう思った時だ。


 何枚も重なっていた土の壁はすべて消えていた。


 誰もが疑問符を浮かべていると、


「ヨセフ今だ! その筒で攻撃だ」


 ジークの声が聞こえてくる。ヨセフはその機を逃さなかった。


 どういう理屈で壁がなくなったかわからない。

 だが、今が好機。


「帝国魔法技術部隊! 聞いたな! 配置につけ」


 ヨセフは黒いマントを翻すと、魔法騎士部隊を指さす。


「撃て!」


 その瞬間、無数の鉄の弾が魔法騎士部隊めがけて発射されていた。


 雨のように降り注ぐ鉄の弾に、魔法騎士部隊は対処できない。


 魔法が、魔法をだそうとしても、構築する前に消えてしまう。


「なぜだ!! なぜ消える!!」


 必死に唱える高度な魔法は構築するのに時間がかかる。もっともそれは使用者の度合いにもよるが。


 魔法騎士部隊は高度な魔法を駆使できず、やむを得ず小さな初級の魔法を繰り出すが、


 当然のようにそれらは貫通する。盾が700枚以上あっても無数の鉄の雨と魔法弾を防ぐ効果はなかった。


「なぜだ! なぜなんだ!」


 魔法騎士部隊からはそんな声が聞こえてくる。


 その声に答えるようにジークは城壁の上を指さす。


「波はやがて大きくなる。マーネリアの住民の力だ」


 クリスタル団より一足先にマーネリアに向かっていたジークとリスティアは、マーネリアの人々を説得したのだ。


 人々は城壁の上に立ち、繰り出す魔法とは別属性の魔法をだし、打ち消している。

 つまり、土の盾ならば水の魔法を上から降らせ相殺させていたのだ。


 一つ一つの魔法は取るに足りないが、積もり積もった結果だ。


「裏切ったな糞共が!」

「元から裏切ってたのはお前らだったって話だ」


 ジークの言葉に呼応するように、様々な言葉が魔法騎士部隊に向けられている。

 それは重低音でズーンと響く波の様。

 一定のリズムで聞こえてくるその音はマーネリアは魔法騎士部隊にとって地獄への入り口だった。


 焦っても、後悔しても、逃げても、何をしても今更遅い。


 ただ撃たれる時を待つほかなかった。

 反撃する者もいるが、それらの攻撃はジークとリスティアによって完全に防がれている。


 暗く重いおもりを吊るされたような魔法騎士部隊が最後に感じたのは重低音の声と、鉄の雨だった。


 円の中央にいた魔法騎士部隊は誰一人として立っていない。


 マーネリア住民とクリスタル団、帝国兵はマーネリア貴族に勝ったのだ。


「やったぞ! 勝ったんだ!」


 そんな声が四方八方から聞こえてくる。遅れて到着したクリスタル団からも同じような声が聞こえてくる。


 大歓声に包まれる中で、ヨセフはジークのところに向かう。


「やりましたよ、大元帥!」


 感情をあまり表さないヨセフは笑っていた。


「よくやったな。王都クリスタの民衆も救ってくれるか?」


 ジークはそれを察して、優しくそういうと、


「もちろんです。それがリリーザ様からの命令ですから」


 照れくさそうに言うヨセフの言葉の裏を読み取ったジークは笑い返すと、


 最終決戦の場である王都クリスタでナナたちと一緒に戦うために、クリスタル団にあることをお願いした。


『マーネはクリスタル団によって解放された。次なる目標は王都クリスタ。同志よ、立ち上がれ』


 その言葉を南と東で伝播するためだ。


 それを聞いたナナも必ず王都クリスタに向かってくれることを祈って。







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