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第四十四話 ライアの騎士ギースの末路1

 ライアに到着したアーシャは酒場で昼食を取ろうとしているギースを見て、安心した。

 良かった、どうやら間に合った。そう思っている。


 そんなアーシャ緊張しているのか、体を左右小刻みに動かしながら自ら行動はせずにじっとギースを見ている。


 ジークがアーシャに話した作戦内容通りにいけば、血の夜明け(暗殺者集団)に化けたリスティアがギースを襲うことになっているからだ。


 と言っても殺しはしない。手を負傷させる程度だ。


 だからアーシャは自分の鼓動が高鳴っているのを抑制しながら、リスティアが現れるのを今か今かと待っていた。



 そんな時だ。短剣を持った黒ずくめのティアはドアを蹴破り、物凄い速さでギースの真横に立っていた。


 目を凝らしながら見ていたアーシャは「え?」と間抜けな言葉を漏らす。


 無理もない。ドアからギースまでの距離はそこそこにある。

 一般的な男がギースまで全力で走っても2秒はかかるだろう。


 だというのに、ティアはそれをわずかコンマ台で行っていた。


 修道女であるアーシャから見ればリスティアは杖も使っていないのに、魔法を使っているように見えただろう。


 アーシャは真横に立ったティアを見て、喉を鳴らした。


 ちょうど唾液が食道を流れただろう時、ギースが気配を察してリスティアの方を向こうとした時、リスティアは短剣の柄でギースの額を打つ。


 鈍い音が静かな酒場に響き渡り、酒場の主がようやく事態に気づこうとしている。


 主はハッとした表情をしたと同時に、ギースは杖を抜く。


 だが、リスティア相手には遅すぎた。


 リスティアは杖を楽々弾き飛ばすと、床に倒れそうになっているギースの両掌を斬る。


「あああああああ!!」


 苦痛で声を出すギースにリスティアはさらに短剣で走れないように右太ももを軽く刺した。


「ああああああ!! 畜生! 誰にやとわれた!!」


 ギースの言葉をリスティアは聞くわけがない。リスティアは驚愕の表情をしているアーシャと目が合う。


 アーシャはリスティアに軽くうなずく。

 その瞬間、リスティアはもういなくなっていた。


 あまりの速さに混乱したままのアーシャはその場に立ち尽くした。


(えと! つ、次は何をするんだっけ?)


 やることを忘れたアーシャ。


「おい! そこの修道女! お前、回復魔法を!」


(あ! そうでした! 私の次の役目は、ギースに意地悪することです!)


「た、大変だ―! 騎士様が刺されましたー!」


 わざとらしく棒読みでそういうアーシャ。

 だが、効果はあったようだ。町にいた女、子供はアーシャの言葉に反応し、酒場に集まっていた。


「ったく! 使えない修道女だ! もういい、おい、誰か! 包帯をよこせ」


 回復魔法を使えないと勘違いしたギースは、町人たちに怒鳴る。


 だが、誰一人としてそうするものはいない。

 皆、心の中ではギースが怪我したことを喜んでいる様だ。


「はやく包帯だ!! よこさないと、お前ら全員マーネリア処刑台行きだぞ!」


 ギースの怒鳴り声に、町人たちはハッとし、現実に戻る。

 貴族には逆らってはいけない。町人として生きてきた知恵が、町人たちを現実に戻したのだ。


「ほ、包帯です!」


 一番最初に持ってきたのは、当たり前のことだが酒場の主だ。

 酒場の主は包帯を渡そうとするが、


「見ればわかるだろ! わしは掌を怪我してるのだぞ! 巻けるか、馬鹿が!」


 そんな言葉に主は嫌々包帯を手首と太ももに巻き付ける。


「畜生! 誰だ雇ったやつは! だが、妙だ。わしはまだ生きてる」


 ギースはゆっくりと椅子に座ると、町人たちをゆっくりと見た渡す。


「ふむ。私を殺そうと考える馬鹿な町人などいないか」


 ギースは町人が雇ったとは考えていないようで、


「いや、待て。確か今日、旅人が来ていたな! あいつらかぁ!」


 ギースは再び大声で叫ぶ。

 そんな声におびえる住民。


「お前ら、あいつらを見かけたか?」


 だが、ジークもリスティアもすでにこの街を去っている。

 住人は首を振ると、


「まぁ、いい。食事だ! 食事!」


 斬られた後だというのに、食欲旺盛なギースはそういうと、先ほどの経験からか、一人の町人はギースの口にパンを運ぶ。


「うむ。貴様、褒美を後でやろう」


 だが、町人はいつまでたっても褒美をくれないことを知っている。

 ギースという男は、忘れているのではなく、気分が変わったという理由で断るのだ。


 その時だ。アーシャは行動に移す。


 アーシャはギースのもとにゆっくりと近づくとギースのパンを取る。


 これもジークの作戦だ。

 異分子が発生すれば必ず影響される者が出てくる。そう考えたジークはアーシャに昼食時、食事を奪う任務を与えた。


「あー! おなかが減りましたねー! おや? このパン! 中央貴族が食べていたものじゃないですかー! 独り占めですかー? ずるいですよー? つけを返してもらいますよ!」


 実際のところ、修道女であるアーシャはギースに苦労させられたことはない。

 それはギースもわかっているようで、


「おい、修道女! 貴様、何をやっているかわかっているのか? 修道女とはいえ、これは看過できないぞ!」


 睨みつけるギースをみて、アーシャは町人の苦労を思い出させるようにパンをかじると、


「いいじゃないですかー! 毎日贅沢な食事をできているのだから、騎士として今日くらい食べ物を分け与えてもいいはずです! さぁ、皆さんもどうぞ! クリスタル教の修道女である私が言うんだから、大丈夫ですよ」


 そういうと、おいしそうにパンを食べるアーシャ。

 それを見て、我慢ができずに一人の子供はギースのパンを素早くとると、口に含む。


 それを見てギースは強く歯を噛みしめえる。

 ギースは不利な状況をさらに悪くするほど頭が悪くはい。

 ギースは噛みしめていた歯を緩めると、


「むぅ! 仕方がない! 半分だぞ! 半分だ!」


 ギースの言葉に顔が緩んだ町人たちは一斉にギースの食べ物を取り、食べる。


 所有欲が強いギースは食べ物ですら分け与えたくはなかったが、掌が使えない状況ではやむを得ないと考えているようで、しかしギースはアーシャのことは許さないようだ。


 モグモグ食べているアーシャに対してギースは声をかける。


「お前、ただで済むとは思うなよ。数日後に、わしはマーネリアで審問会を開いてやる」

「その頃にはギース騎士はただのギースになっていると思いますよ」

「どういう意味だ!」

「貴族の掟、第一条。貴族はクルザの民を守る使命です。それに、貴方は町人を我が物だと考えている。ギースさん、あなたは騎士として相応しくない」


 するとギースはアーシャの言っていることが、子供だましだと笑いだす。


「いいか、あんなのは大昔の掟だ。審問会でも開くか? それでもいいが、わしは絶対に貴族権を剥奪されないぞ」

「ラザル宰相はされたようですよ?」

「ああ、あの阿呆は国民に嫌われすぎたからな。自分が中心だと考えて贅沢三昧、さらに失敗ばかりしていては剥奪もされるだろう」


 アーシャの質問にギースは嬉しそうに喋っている。中央にいる、しかも中心だったラザルが失脚したことがとても嬉しいようだ。


「確かにその通りですね!」


 アーシャはニコッと笑うと、ギースは気分が良くなったのか、笑顔になる。


「修道女なのに、わかってるじゃないか! 俺たちに傲慢な態度で命令してくる中央の奴らが消えるのはすっきりする」

「本当にすっきりしますね!」


 アーシャが大声でそういうと、ギースだけでなく町人たちも一斉にアーシャに注目する。町人たちもアーシャの言っていることがわからないようだ。


「いいですか! ギースさんは自ら、中央に行けば貴族権が剥奪されるといってくれました。そしてギースさんが今までしたことはなんでしたか?」


 アーシャのそんな言葉に怒りが込み上げている町人は言う。


「私たちのお金で立派な屋敷を!」

「他には?」

「税を勝手に上げて、懐に収めた」

「私の娘を愛人に!」

「褒美をはぐらかす」


 一度言い出した町人たちは止まらなかった。それを見て、アーシャは作戦が成功したことにホッとすると、


「そして、ギースさんは貴族でありながら、この街も守ることができなかった」

「た、確かに、そうだわ!」

「中央へ! 中央に行けば解決できるぞ!」


 希望が湧いた町人たちは一斉に明るい表情になっている。


「ですが、ちょっと贅沢をした程度じゃ剥奪なんてされません。もう少しだけ、失敗が必要です。そこで、皆さんの力を貸してもらえませんか!」


 アーシャは手を組みながら、強い瞳で町人たちを見るが、これは演技ではない。

 本心からギースが追放されることを祈っている。


 そんなアーシャに町人たちの反応は様々だが、大きく二つに分かれた。

 やる気になる者、躊躇う者。


「いいか、そんな方法などない! あったとしたら今までに大勢のクルザ貴族が貴族権を剥奪されていただろ!!!」


 やる気になる者の意欲を削ぐ言葉。

 ギースは貴族権を剥奪されるような失敗を犯したことなどないと考えていた。

 だが、万が一もある。そう考えたギースは冷静に町人一人一人に言い聞かせるように言った。


 その作戦は成功したようで、やる気になった者まで躊躇うようになった。

 町人は険しい表情をしている。


 だが、アーシャはジークを信じて反論する。


「一つだけ! 一つだけあります! かつて聖女様は私に仰いました。『魔力の差が人の差ではないと』この意味を私は深く考えました。つまり、魔力の差こそ絶対だと思っている貴族が、町人にやられたら? メンツ丸つぶれです。中央も許してはおけないでしょう」

「お前馬鹿か!! 例え怪我をしていたとしても、杖くらいは持てるわ! 平民に負けるわけがない」


 ケラケラと笑いだすギースに町人たちも頷いた。


「そうだよ、修道女様。私たちはライアの生まれ。魔力も少ないってのにどうやって勝てっていうんだい!」


 だが、異分子は必ず発生する。

 やる気を維持したままの中年男性は、


「いや、やってみてもいいかもしれない。何か手があるんだろ?」

「もちろん! いいですかー。私が今から、実演して見せますねー。この距離からギース騎士のつるっぱげに岩を落としますよー」


 アーシャは天井を見た。

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