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第四十三話 エリート貴族はまんまと騙される

 時刻は朝の11時。


 ジークに作戦を教えられたアーシャの鼓動は早い。

 ジークの作戦が信用できないわけではないが、未知の、それも大事な任務を急に任されたアーシャは普段の数倍冴えわたっていた。


 だが同時に焦りから思考が時より停止する。


(心理作戦。人を扇動するだけの任務。だというのに、緊張が解けません。あ! 最初は貴族さんたちに出て行ってもらうんでした。なんでこういう時だけ、人って馬鹿になってしまうのでしょうか!)


 アーシャは自分の不出来さに嫌になるも、中央貴族たちとライアの老騎士がいる酒場まで走っている。


 もちろん、これも大事な演技の一環だ。

 走ることにより、より現実味を帯びるとアーシャは考えていた。


 そんなアーシャは息を切らしながら、中央貴族たちをを見つけるとさらに加速して酒場に突入していく。



「はぁ。はぁ。すみません! 騎士様!」


 息を切らしながらそういうアーシャに、騎士たちは何事かと一斉にアーシャは見る。

 酒の邪魔をされたことに対する不満。だが、あまりにも迫真の表情をしているアーシャを見て、皆怪訝な表情をしている。

 そのうちの一人、中央貴族の青年カイアは威圧感のある声で答える。


「どうした? 急いでいる様だが。私は邪魔をされるのが一番嫌なんだ。わかっているな」


 邪魔をされてイライラしていたカイアは、杖を触りアピールをしている。


 そんなカイアをみてアーシャは頼みごとを引き受けたことを少し後悔した。


 アーシャは無意識のうちに一歩後ずさってしまうが、勇気を出して口を開く。


(ジーク様の作戦です。きっと大丈夫なはず!)


「それが、先ほど魔法手紙が教会に届きまして......」


 どもるアーシャ。これも演技だ。


「魔法手紙? それで、内容は?」


 ただ事じゃない、そう感じ取ったカイアは怪訝な表情だ。ライアで犯した罪を確認するのに精いっぱいで、アーシャが演技していることに気づいていない。


(魔法手紙だと? もしかして、庶民への淫行がばれたか? いや、もしばれたとして、私には何の罪もない。では、なんだ?)


 カイアの脳内はフル回転していた。

 あーでもない、こーでもない。そう脳内で呟いている。


「それが......  聖女代理からです。クリスタルがカイア様たちを呼んでいると」


 難しい表情をしているカイアに恐怖心を抱くアーシャ。心臓の鼓動はさらに加速する。


 失敗したら殺されるかもしれない。アーシャの不安は最高潮に達していた。


 だが、


「おお! そうか、そうか! なるほど、そうだよなぁ! なあ?」


 カイアはクリスタルが人を呼び出すことなんてないことを知ってはいるが、アーシャの言葉を一切疑っていない。修道女とクリスタル教会との関係を知っているし、何かいいことがあるともわかっているからだ。


 カイアはお供の貴族に向き直りそういうと、お供はカイアに媚びへつらっている。


「ええ、カイア様は完璧なお人。クリスタルもお認めになったのでしょう」

「はは! うむ。その通りだ。私は完璧な貴族だ」


 そういって嬉しそうにしているカイアにアーシャは心の中で、ホッと一息つく。


(よかった。死ぬかと思いました!)


「そういうことなので、至急王都までとのことです」

「うむ! どんな褒美が待ち受けているのだろうな! 報告感謝するぞ」


 上機嫌なカイアは仲間を引き連れ足早に去っていく。この後、暗殺されるとは知らずに。


 そんなカイアを見送るアーシャの表情はスライムのようにとろけ切っている。

 困難を達成したことによる達成感だ。


(やりました! 私、ただの修道女の私が、今、クルザを救っています。もしかして、私は演技がうまいんじゃ?)


 やる気を出したアーシャはまだ酒を飲んでいるカイアの老騎士ギースに一礼して、マーネリアから送り込まれた貴族たちがいる川辺に行こうと走った。


 川辺には中央貴族のことをよく思っていないマーネリア貴族たちがいるからだ。

 マーネリア出身貴族というプライドと、中央貴族たちへの羨望で彼らは現実から逃げるようにほぼ毎日川辺にいる。


 そんな川辺にはやはり今日もマーネリア貴族たちは仲良く昼食を食べている。


「中央の金だけ持っているボンボンに指揮られるなんて、屈辱だ!!」


 一人の青年貴族がそういうと、


「気持ちはわからんでもないが、仕方がないことだ。これはルールなんだよ。お前だって、俺よりもいい家の出じゃないか。俺はあんたレベルでも羨ましいぜ。いずれ、敬語を使わなくてはいけないなんてな」


 中年貴族は嫌味を言う。

 その言葉を聞いて、もう一人の女貴族は


「私が一番じゃない! あんたたち男と違って女である私には、結婚という武器があるのよ。私はいつか、中央のお偉いさんと結婚して――」

「はいはい、若い二人は夢があっていいねえ! 俺はこの街の女で十分だよ。まぁ、ちょっとばかし退屈なところだけどな」


 中年貴族がそういうと、三人はどっと笑いだす。


「ほんと退屈だ! マーネリアのように奴隷商もいないし、食事だってまずい」


 青年貴族はそういって支給されているパンを川に投げ捨てた。


「同感。早く帰りたいわ。おしゃれもできないし、買い物だってできない。あるのは、ダサい物だけ!」


 女貴族がそういうと再び笑いが起こる。


 そんな時だ。


「すみません! 騎士様!」


 テンプレを用意していたアーシャはさっきと同じ言葉を言う。


「ああ、田舎修道女。どうした?」


 マーネ帰属意識があるのか、カイアよりも口調は優しい。


「それが、先ほど魔法手紙が教会に届きまして......」

「「「魔法手紙?」」」


 その言葉を聞いたとき、カイア達同様にこの三人も焦っている様だ。


 それも、自分がしでかした悪事のことだと思っているようだ。


 焦りと不安で脳内を支配されている中、そんな三人は同時に言っていることにも気づかず、再び同時に発声する。


「「「それで、なんて内容だ?」」」


 焦っている彼らを見て、アーシャは内心ニコニコだった。


(ジーク様の言った通りなのです。案外貴族もちょろいですね!)


「それが......  聖女代理が、マーネリアクリスタルがカイア様たちを呼んでいると」


 先ほどよりも演技に磨きがかかったその言葉を怪しむ貴族はいない。


 三人はまるで教師に悪事がばれなかった時のように、急にハイテンションになる。


「まぁ、そうだよな! 庶民生まれのかわいい子の彼氏を殺してしまったなんて大したことないよな!」

「ああ、マーネリアでやった庶民ボコボコの刑のことだと思ったぜ、冷や冷やさせんなよ、修道女」

「私も、男あさりがばれたのかと思ったわ。親にばれたら殺されちゃう」


 3人はアーシャが聞いているというのに、自らの過去を恥もせずにさらけだすと再び大笑いをする。


 アーシャはそんな彼らをみて、人間じゃない。そう思っていた。


(私も、使命感というものが湧いてました。 絶対に許してはいけないんですね、こういう人たちは。 もう何度目かわからない悪事を、今日で終わりにしてやるのです)


 使命感が増したアーシャは少し気合が引き締まったのか、凛々しい表情で笑っている三人に口をはさむ。


「ですので! 早く! きっと、道中いいことがあるのです! バイバイー、貴族さん!」


 アーシャはスカッとした。

 未だかつて貴族に対してこんな言葉遣いはしたことがない。きっと何度も罪を犯しているこいつらが暗殺されるのはいい気分です。


 そんな気持ちと同時に、後悔もしていた。

 勢いで発言してしまったが、明らかに言いすぎだったからだ。


 アーシャは恐る恐る三人を見ると、


「ああ? 修道女。口の聞き方には気をつけろよ」


 中年貴族は気に障ったようで、険しい表情でアーシャに近づいている。


 アーシャはそんな中年貴族を見て、殺される、そう思ったが、


「まぁ、今回はいい。なにせ、俺たちは機嫌がいいからな! クリスタルに祝福された騎士! 昇進待ったなしだ。さあ、行くぞ」


 残りの貴族たちも中年貴族についていったところで、アーシャは大きく息を吐いた。


「あ、危なかったです! 調子に乗るのはもうやめよう......」


 困難を乗り越えたことで一つリーダーらしくなったアーシャの呼吸は荒い。


 まだ余韻があるようだ。


 だが、時間はない。


 アーシャはガッツポーズをすると、まだ心臓の鼓動が収まらないうちに、次の任務である老騎士ギースの貴族権剥奪任務を行うために再びライアまで戻るのだった。

読んでいただきありがとうございます! 


そして『お願い』したいことがあります。

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