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第四十一話 クリスタル教会の修道女は天然系

 

 クリスタル教会の中は奇麗だった。

 ところどころにクリスタルが飾られており、不況だというのに協会だけは小奇麗だ。

 流石に貴族共もクリスタル協会に圧はかけられないらしい。

 罰当たりってものだからな。


 そんなことを考えながら、俺たちは中央にある大き目のクリスタルまで歩く。


 どこにでも生えているクリスタルとは違う輝きを放つレアなクリスタルを眺めながら、近寄ってくる修道女は俺たちに声をかけていた。


「あら? 旅人さん」


 俺たちと同じくらいの歳の女だ。


「ああ、そんなところ」


 俺はフードを少し開けると、修道女はかなり驚いていた。


「もしかして、ジ、ジーク様?」

「声! 声が大きい!」

「すみません......」


 教会を訪れている人たちが気づいていないらしい。よかった。


「とにかく、俺たちは教会に用がある。横にいるのはリスティアだ。時間もらえないか?」


 しょんぼりしていた修道女はハッとした表情で俺たちを見ると、


「聖女様も...... わかりました。ついてきてください」


 聖女の効果はやはり抜群だ。悔しいが。


 ティアが着ていたような白い服を着た修道女は大きなクリスタルの横にある扉へと俺たちを案内する。


 そこは生活感がある空間で、どうやらこの修道女のリビングといったところだ。


「どうぞ、座ってください」


 そんな言葉に俺たちは隣合わせで座る。


 修道女が深くフードを被る俺たちを怪訝そうに見ているので、俺はフードを脱ぐ。


「すまない急に。だが、手伝ってほしいことがある」

「わかっています。でも、本当にジーク様なんですね。魔法紙に載ってるお姿そのものです。でも、英雄様にお会いできる機会ができるなんて、光栄です」


 そりゃそうだろう。あれは映像そのものだからな。


 俺がそう心の中で突っ込んでいると、ティアの声が聞こえてくる。


「ごほん。そんなことより、本題です」

「ああ、すみません。リスティア様。ですが、大体把握しましたよ!」


 修道女はそういうと、無い胸を張っている。

 だが、話が早いのは助かる。


「助かるよ。えっと、名前は?」

「あ、すみません。私はアーシャ・ダンドリーと言います。ライア唯一の教会であるここの主というんですかね? まぁ、とにかく生まれも育ちもここライア! だからこそ安心してください」

「ん?」


『安心して』とはどういう意味だろうか。

 このアーシャという女はなにかとんでもない勘違いをしているような気がするぞ。


「はい?」


 この返事で分かった。アーシャは完全に天然系の人物だ。

 話し方が若干ラフになった時点で気づくべきだった。


「念のために確認するが、頼みはどんな事だと思う?」

「王都というステータスを捨てて、ジーク様とリスティア様は駆け落ちを決意。誰にもばれないように過ごしてきたけど、リスティア様は言う、『私、どうしても教会で愛を誓いたいの』。そういうことですよね? わかっていますよ。修道女は口が堅いです」


 名演技をしてくれたアーシャは再び自慢げにない胸を張っている。

 うん、違う。


 なんだろうな、調子が狂う。


「アーシャ! け、結婚なんてまだ、は、早いわ! そういう事はね、お互いが長い年月をかけて愛を育んだ後にするものなの!」


 ティアまで......


 俺は気づかれないように小さくため息をついた。



 それからは、二人の話は弾む、弾む。

 俺が一度、離席した後も話しているのだから驚いたが、二人はようやく落ち着いてくれたようで。


 ティアとアーシャは俺に謝っている。


「ですが、そのクルザ弱体化計画に私なんか役に立ちますか? 私、ライア出身ですので、弱いですし......」

「いや、戦闘をしてほしいわけではない。教会の力を貸してほしいんだ」

「といいますと?」

「そうだな。最初はライアに駐留している貴族の人数と、マーネ出身貴族を教えてほしい」


 あまり乗り気じゃないようで、アーシャの表情は少し険しい。

 そりゃそうか。いきなりそんな話を聞かされれば、神からの頼みだって怪訝な表情になる。


「うーん。そうですね。中央から来ている貴族さんは、3人。若い貴族さんと、多分ですけどその人の護衛騎士かなんかの貴族さん二人。あとはライアの騎士さんが一人と、マーネリアから派遣されている騎士さんが3人! こんなもんですかね! 田舎ですし!」


 田舎の人数じゃない。予想していた人数より若干多いな。

 どこにでもあるはずの田舎町に7人も魔法騎士がいるというのは十分異常な状況だ。


 そして、ライアみたいな町はおそらく100はくだらない。

 さらに中規模な都市もあるだろうし、最後はマーネ地方都であるマーネリアがある。


 少なく見積もっても、3000人はいるだろうな。うん、厳しい。


 こりゃ、小さな町にいる貴族共から権力を奪ったら、強引に動くしかなさそうだ。


 そして、やはり時間がない。今すぐにでも行動する必要があるな。


「なるほど。アーシェ。頼みたいことが決まった。中央からの3人、マーネリアから派遣されてきた3人の二グループ、別々に嘘をついてほしい」

「嘘ですか!! 私は一応、神聖な職に就いているのですよ!! む、無理です!!」


 予想通りの反応だ。そしてそれを解決する鍵はティアだ。すまん。


「聖女様の、教会一の権力者ティアの頼みだとしたら? クリスタルの意思なのかもな」

「くっ! 痛いところをつきますね......」


 よし、いい反応だ。後は、この街の現状を説明したらきっと引き受けてくれる。


「それに、貴族共の搾取によるこの街の状況をアーシャも知っているだろ。こんなことが許されると思うか?」

「アーシャ。お願いするわ。あんなことが許されるわけがない」


 俺たちの言葉が心に響いてくれたのか、アーシャは肩をすくめた。


「わかりましたよ! そもそも私に決定権なんてないですし! でも、嘘ってどんなうそを言えばいいのですか?」

「クリスタルが呼んでいるとか、適当な嘘を言ってくれればいい。さすがに、貴族とはいえ『クリスタルが呼んでいる』なんて言葉を無視できないだろうからな」


 俺がそういうとアーシャはジト目で俺を見ている。


「うげっ..... 私、ジーク様のこと悪人を切り倒し、民衆を奇妙な魔物から救うヒーローだと思ってたんですけど、やり方が汚いですね......」


 仕方ないだろう。ばれるわけにはいかないんだ。

 俺はそういう代りに、


「中央貴族には中央へと、マーネリアから派遣された貴族にはマーネリアに。その道中、いなくなってもらう。これで俺たちの邪魔者はいなくなる」

「やり方がせこいですー! 私のジーク様像を返してー!」


 バタバタと手を振っているアーシャに思わずニヤッとしてしまう。

 アーシャはリリーザみたいな感じだな。

 リリーザが清純派だとしたら、アーシャはちょっと絡みやすい幼馴染系。


 あれ? もしかして、物凄く気持ち悪いことを考えているんじゃないか、俺。


 まぁ、とにかく俺はアーシャをからかいたい衝動に駆られていた。


「ジーク! からかわないの」


 ティアは呆れたように俺の手を握りながら揺らしている。

 俺はそんなティアに囁く。


「いや、暗殺するしかない。マーネには100以上の町がある。敵の親玉がアラン失踪に気づかないなんてことを考えてはいけない。やるしかない」

「そ、そう。は、初めての暗殺ね」


 急に挙動不審になったティア。その様子は決意と迷いが天秤にかけられている様だ。


 だから、俺は首を横に振る。


「これは俺がやるよ。ティアはライアの騎士を頼めるか?」

「わかったわ! いや、待って!」


 ティアは矢継ぎ早に、


「私はどうすればいい? 作戦ね?」


 俺たちを見てニコニコしているアーシャと、ティアを見ながら茶を一口飲んだ。

読んでいただきありがとうございます!

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