第四十話 下から上までクズ揃いだ
「おい! 酒のつまみがねれぞ! 早く持ってこい!」
「そ、そんな! 無理です!」
「あぁ? いいか、近く戦争が起こると父上が言っていた。そうなったとき誰がこのマーネを守ると思ってんだ? 我々貴族だぞ! 昨日狩ってきた猪の肉で勘弁してやるから」
「しかし...... 我々も食べなければ――」
「安心しろ。貴様らの分もちゃんと考えている」
明らかに中央出身らしき俺より年下だろう男はそういうと、取り巻き達と醜い笑いを浮かべている。
こんなにわかりやすい悪人というのもそうそういない。ここクルザの貴族共を除けば。
「でも、カイア様。いいですなー。中央出身で魔力も高く金もある」
カイアと比べて、服が明らかに質素になった老貴族がそういうと、
「お前馬鹿か? 王都になぜ巨大なクリスタルが生えているかわかるか? 我々が選ばれたからだよ。そうじゃなきゃ、クリスタルはどこにでも生えているだろ? そして、俺たちはそんなクリスタルを守る大事な使命がある。きつい労働に比べれば、なんと安い褒美だろうか」
「はぁ、すみませんカイア様。ただ、私はカイア様のお気に入りの一人を貸していただきたくて」
姿勢を低くして媚びへつら老貴族は、ニヤニヤと笑っている。
気持ちが悪いな。今すぐにでもあいつらの喉元を切り裂きたくなってくる。
「ははーん。そういうことか。この私のお気に入りを使いたいと」
「いや! そんなことでは!」
「いや、よいよい。どうせただの一般人だ。北部に近いこのライアの町の住人は魔力量も低いしな」
カイアは大笑いをしていたが、それを聞いていたマーネ出身の貴族達がカイアを睨みつけている。
カイアはそれを知っているようだ。横目に見ていたカイアは肩をすくめ、
「まぁ、苦労が多いだろう、マーネ出身の田舎貴族も。だから仕方がない。これも上官としての務めというものよ。弱いものを守る義務があるからな」
「さすがは中央出身のエリート様。我々田舎貴族とは違いますな」
馬鹿にされてもなお媚びへつらう田舎貴族。
前言撤回だ。無理に捕虜にする必要もない。
悪人はクルザの超上級貴族だけだと思っていたが、上から下まで全然変わらない。
ラザルやアランのような考え方をしている。
今すぐ切り倒したい衝動に駆られるが、今ここで正体がばれるわけにはいかない。
俺は無意識に握りこぶしを作っていた手を緩めると、ティアの方を向く。
ティアも同じようで険しい表情をしている。
「まずは教会だ」
俺はティアの手を取り、強引に引っ張る。
気持ちはわかるが、今ここで動くわけには絶対に行かないんだ。そう思いながら。
しばらくすると、ティアはフードを深く被ったまま話し始めた。
「私、知らなかったわ。地方の田舎はこんなにも悲惨な状況だったって。これじゃ、聖女失格かも」
「気にする必要ないさ。ティアはよくやっていた。それは聖女の護衛として傍にいた俺だからわかる。そんな時間なんてなかったんだ」
「そうかな?」
「そうさ。以前、田舎町を何度か訪れたこともあるだろ? そういう時だけはしっかりするものだから、なかなか気づけない。忙しい上に気づけない状況なんだ」
自分にも言い聞かせるように言った。
「もし」なんてことは考えるだけ無駄だ。
俺は深呼吸をし、頭を切り替えると、クリスタルが描かれたステンドグラスが何枚もあるクリスタル教会の扉を開く。
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