第三十八話 クルザ弱体化計画
昨日あんなことがあったというのに、よく眠れたのは睡眠不足だったからだろう。
あの出来事の後ベッドに直行したというのに、今はもう昼の12時過ぎだ。
予定していたリリーザ命名の「今後の展開会議」まであまり時間はない。
確かに何も話し合っていないし情報もないから会議は必要だが、命名センスがちょっとな。
そんなことを考えながら自宅を出ると、アシスヘイム城へと続く大通りの雰囲気はこの国にティアと来た時より良い。
自然と口角が上がってくる。
食料を輸出してくれたアリアに感謝しなければな。
俺は通行する人々が満足そうにしているのを見てそう思いつつも、緊張しているという状態は変わらない。
常に頭の片隅にあるそれは、俺を生きた心地がしない状態へと導いている。
だが、あいつらだけは倒さなければいけない。
俺はそんなことを感じつつ、足早に会議室へと向かうと、全員揃っていた。
「遅れたか?」
俺は同時に時計をチェックするが、そうじゃないらしい。
みんな気合が入っているようだ。
「いえ、大元帥。私と魔法部隊のアロイスはついさっき到着したばかりで。リリーザ様は30分前には。ティア様も早かったようで」
ヨセフは淡々と言う間に俺は自分の席に座ると、リリーザはまるで遠足前の子供の用に笑顔で口を開いた。
「さて! 全員が揃ったところで会議を始めるが、戦争の話だからほかの元帥は呼ばなかったぞ!」
その笑顔に癒される。リリーザだってきっと内心は笑っていない。
場を和ませるためにわざとやっているのだろう。
えらいぞ、リリーザ。
俺はリリーザを見ながらそう考えていると、リリーザはそれを感じ取ったのか、ニコリと笑っている。
だから俺も精一杯努力して作り笑いをするが、リリーザはそれを無視すると、
「さて、ジーク! アランがクルザに戻らないのは、なんで好都合なのだ?」
首を傾げながら聞いている。
「その前に話したいことがある」
そういうと、みんな不思議そうな表情で俺を見ていた。
「ジーク、どうしたの?」
ティアは心配そうにしていた。
俺は昨日の弟子であるナナを信用しているから大丈夫だと言ったことを、皆にも信じてもらいたいだけなんだが、余計な心配をさせているようだ。
実際に根拠はないからその通りなのだが、俺はグレアのときからナナを信用している。
ナナは優秀で、俺の頼れる弟子だ。
クルザ弱体化計画まで必ず民衆を守ってくれると信じている。
俺は自分が思っていることを力説するが、その必要はなかったようで、
「私は説明される側として数えられていないよね?」
リスティアはそういい、
「ジークのことは信用してるぞ! だから安心していいぞ!」
リリーザも同調してくれている。さらに、ヨセフも頷いていた。
残るはあと一人、魔法部隊元帥、アロイスだけだ。
俺はアロイスを見つめると、アロイスは怪訝そうな表情をしている。
「ジーク大元帥。私は貴方の部下であり、その忠誠を疑うようなことを私はしましたかな」
としょんぼりしているので、俺はすぐさまそれを否定する。
「ところで、ジーク。クルザ弱体化計画ってなんなの?」
「ここでリリーザの疑問に繋がるわけだ」
疑問そうにしている面々だが、無理もない。
俺だってクルザ弱体化計画の具体的な内容を知らないからな。
考える間もなく今日を迎えたのに具体的な内容まで考えていたとしたら、それは人間じゃない。
と言っても全く考えていないわけでもない。大まかな内容は説明できる。
人間である俺は具体的な内容はおいおい考えればいいわけで。
「リリーザたちは知らないことだ。クルザの軍事力は帝国が想定している遥か上だ。偉大壁の防衛力向上の報告書を読んだ人ならわかるが、本気を出したクルザ魔法騎士部隊にはあんな壁意味をなさない。帝国、リース、蛮族とも余裕で戦えるだろう」
「ばかなっ!! じゃあ、なぜ今まで一度も破られたことがないのです!」
ヨセフは珍しく感情的になっていた。
俺はそんなヨセフに謝りつつも答える。
「クルザ中心思想だろうな。ピラミッド構造の2番目に位置する帝国やリース。衛星国家のように考えていたのだろう」
悔しそうに歯を噛みしめているヨセフに再び心の中で謝りつつ、
「だから、俺達には時間が必要だ。むしろ好都合なんだ」
そういうと、リリーザは
「して、クルザ弱体化計画とは?」
「クルザ弱体化計画は俺とティアのみで行う計画で、二つの大きな項に分かれている。一つ目は、地方の弱小貴族たちの名誉を傷つけ、地に落とすこと。二つ目は、金だ。屋敷やその他重要な物を奪い取る。そうすれば、金・名誉・領地が大事なクルザ貴族は地位も何もかも失い、戦争に参加できなくなる。クルザ魔法騎士部隊は貴族のみの部隊だからな」
「だが、そうすれば徴兵したときに厄介ではないか?」
「いや、そうはならないだろう。そうなったときはすでに計画は次の段階に移るからな」
「戦争か!?」
リリーザは正解がわかったときの子供のようにそう言っている。
「そうだ。その段階までくればもう遅いと絶望しているだろう。そして、この計画で重要なのは俺とティアだということを悟られないように実行することだ。俺は天剣を使える機会は少ないだろうし、ティアだって表にはでれない」
「だとしたら、帝国の人間が最適では?」
ヨセフの質問に俺は首を横に振る。
ヨセフ達には魔法部隊の指揮を執ってもらわないといけない。ほかに信用できる部下を俺は知らないしな。
「偉大壁を乗り越えられるのは俺たちしかいない。そしてヨセフ、アロイス。クルザの連中が気づいたときには、偉大壁をぶち破り進行してくれ。そこからクルザの崩壊は始まる」
俺がそういうとアロイスは白髭を絨毯の毛ざわりを確かめるように何度も触っている。
「なるほど。アロイス、承知しましたぞ」
「これでようやく大元帥のお手並み拝見といったところですか」
ヨセフはニコリとしながら、俺のことを若干煽っていた。
いつものヨセフ節だ。ヨセフはこうじゃなくちゃな。
俺も微笑み返すと同時にリリーザの明るい声が耳に入ってくる。
「民衆と悪しき王朝の戦いは今日を持って始まるということだな! 私もクルザ貴族のしたことを許すことはできないぞ! ジーク、頼むぞ! 悪逆非道のクルザ貴族からクルザの民を救出するのだ!」
リリーザはすでにクルザの人々を自国民だと思っているようだ。
ちょっと気が早いが、リリーザの統治のほうが百億倍マシだ。
俺はリリーザに頷く。
「ああ、任された。絶対に救出してみせるぞ!」
俺もその空気感にいつの間にか飲み込まれたらしい。
普段は絶対言うことはない言葉を、大声で言っていた。
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