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第三十六話 ラザルは懇願する

「宣戦布告しようじゃないか」


 アランはまるで今までため込んでいたストレスを声に出して一気に開放するように話す。


 ジークたちは不敵な笑みを浮かべたままそういうアランに驚愕している。


 だが、一人だけ話すことができる人物がいる。ラザルだ。


 今までじっとしていたラザルは汗をかきながら、血眼になり口を開く。


 ラザルは獄中生活にうんざりしていた。

 毎日が退屈で朝も寒いし、苦痛が多すぎる。そんな生活を変えるチャンスが遠のいた今、ラザルの心の奥底の気持ちが覚醒する。


「待て! 待て!」


 そういうとラザルは目をキョロキョロさせながら立ち上がり、


「す、すまなかったジーク。どうか、許してくれ! この私を許してくれ! もうあんな生活はうんざりだ!!!」


 そんな迫力ある謝罪にジークの心は若干揺らいでいた。

 そこまで言うには理由があるに違いないと思っている。


 ジークは顎に手を当てて何やら考え出した。

 リスティアたちはその様子をみて、互いに頷いている。


 その間にもラザルは行動することを止めない。ラザルは土下座をする。


「ジーク様、この私が無能なせいでブラックな職場環境にしただけでなく、意地悪もした。だが、私はジークの代わりを務めてからジークにしかできないことを知ってしまった。悔しいが、あんなことはお前にしかできない。認める、私は認める! だから、お願いする!」


 頭を床に擦りつけながら言うラザルにジークは迷う。

(もしアランが俺が考えてくれた条件を飲んでくれれば、戻るのもありだ。それが一番犠牲が少ない)


 ジークがそう考えた時だ。


 リスティア、リリーザ、ヨセフは迷ってるジークに代わって一斉に断った。


「無能であるせいで、有能なジークは追い出された。その結果を知っているな。責任は重いぞ! 我が帝国ならば、そんなことはさせないぞ!」

「リリーザ様の言う通り。ここまで言われたのなら、我々でクルザの民を悪しき王政から救い出しましょう」


 リリーザとヨセフがそういい、リスティアはそんな二人の言葉を聞きながらジークに優しく微笑む。


「そんなに背負い込む必要はないわ。ジークの意思というのも時には大事だと思うの。それに、ラザルの『もうあんな生活はうんざりだ!!!』って言葉聞いたでしょ。たとえ本心だったとしても、そんなことを考える余地があるということ」


 リスティアのそんな言葉にラザルは冷や汗を流しながら弁解をする。


「ち、違う! ジークが私より有能だと認めとる! さあ、私をコキ使ってくれ!!」


 ラザルのその言葉にジークはハッとした表情をした。


「どうやら俺はこういうことが依然として苦手のようだ」


 そういってリスティアに微笑み返す。


「ラザルの焦点は常に自分に向いている。そして今もだ。クルザの民衆のことを考えてなどいない。そんな奴らと交渉事などできるわけがない」


 ジークは険しい表情でそういい、ラザルの胸倉をつかむ。


「忘れていたが、すべての元凶はお前と王だった」

「それが賢い選択か? お前は帝国にいる今よりも莫大な富と権力を得ることができ、私も普通の貴族生活に戻ることができる!! もう平民と呼ぶやつもいなくなるだろう!!」


 唾を飛ばしながら迫真迫る表情でいうラザルは当然というように握手しようと右手を出していた。


 そんなラザルをジークはゴミを見るような目で見ると、手を払いのけた。


 手を払いのけられたラザルは呆然と立ち尽くしている。


「哀れな男ですね、クルザ貴族という連中は」


 ヨセフは席に戻ろうとしているジークにそう言うと、リリーザも同調する。


「特にこのラザルとかいうのは群を抜いて馬鹿なのだ!」


 ヨセフとリリーザのそんな言葉にジークは笑顔になり、着座する。

 

 が、ラザルはジークを追っていたようで、


「い、いやだぞ! 私は二度とあんな生活をしたくはない!! ジーク様の靴でも舐めよう。そうだ! それがよい!」


 ジークの足にすがりつくラザルにジークはラザルを蹴とばす。


 だが、ラザルは離れない。


「なんでもくれてやる! そうだ! 我が領地をすべてくれてやろう? 女もだ? どうだ?」


 ジークは再び蹴とばす。


「なぜだ! 何が欲しい? 私はお前より劣っていると認めているんだぞ?」


 そういってジークの足をホールドしたところで、リスティアは今までにないくらいの怒った表情でラザルに魔法をかける。


「ふざけるな!」


 風魔法だ。それによってラザルは後方にあった壁に激突する。


「聖女様の言う通りなのだ。この国には恥さらしという言葉があるのだ」

「そうですね、ここは他国ということをお忘れか。まさに無能ですね」


 呆れた声で言うヨセフに、リリーザは頷く。


「ジークは私の大事な人。友だ。アラン殿わかっているな?」


 リリーザはあまりの酷さに、ラザルのことが急に許せなくなっていた。

 そんなリリーザはラザルを帝国で拷問しようとしているのだ。

 リリーザはアランを睨みながらそういうと、アランは頷く。


「こちらとしても、ゴミはもういらないのでね。むしろ引き取ってもらいたい」

「俺は別に望んでない」


 ジークのそんな言葉にリスティア、リリーザ、ヨセフは首を横に振る。


「大元帥、あなたは」


 ヨセフはいつものようにため息をつくと、


「リスティア様に愛され、リリーザ様にも気に入られている。だから彼女たちは怒っているのです」


 ヨセフのそんな言葉にジークはどもっている。


(前半の発言は置いておいて、ラザルがやったことの罪は重いか)


「まぁ、二人がそう思うのなら」


 やがて出た言葉と同時に、ラザルは泣きわめきながら帝国兵に捕らえられる。


「いやだ! はなせこの愚民が!! うわぁぁ」


 泣きながら捕らえられているラザルはまるで小さい子供の様だ。


 だが、ラザルは大人。誰も許してくれる人など存在しない。

 ラザルは手錠をかけられると、帝国兵に叩かれながら王座の間を後にした。





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