第三話 ラッティアの村に立ち寄る
アーシス帝国に向かうべく、俺たちはクルザ王国の王都をゆっくりと東進んでいた。
というのも、俺たちは金こそあまりないが、時間なら少しあった。
クルザ王国で、孤軍奮闘していたころは睡眠時間は平均4時間程度で、休みなんてものも当然なかった。
だから、ゆっくりと進んでも罰は当たらないだろうとリスティアと話した結果決まった。
「気持ちいいわねー」
リスティアが馬車の開いている馬車の窓から顔を出しながら、そう言っていたので、俺は頷く。
「ああ、そうだな。久しぶりにこんなにゆっくりしたよ」
暖かい日差しと、木の匂いが馬車の中まで入り込んできて気持ちがいい。
「ねえ、たしか、もうしばらく進むとラッティアという村に着くよね」
リスティアは窓の外の光景を見ていたが、飽きたのか俺を見るとそう言っていた。
そんなリスティアの表情は、ラッティアに立ち寄りたそうな表情をしていたので、俺は「そうだな。まだ数時間しか経っていないが、立ち寄るか?」と言うと、リスティアは嬉しそうに微笑んだ。
「そうこなくっちゃ! 私もしばらく王都を出ていなかったから、どこか寄りたかったのよ。クルザに帰ってくることも少ないだろうし」
リスティアはそう言うと矢継ぎ早に、
「ねえ、本当に私が皇帝に仕事を貰えると思う?」
リスティアは皇帝がまだ悪逆非道だと思っているのか、表情が曇っていた。
なので、俺はバッグから一枚の魔法写真を取り出す。帝都で撮った集合写真だ。
「ティア、これを見てくれ。この中央に位置するツインテールの子が皇帝だ」
俺は写真中央で何度も笑顔を繰り返す銀髪ツインテールの女の子を指さす。
「え! 聞いてる話だと、皇帝は頬に切り傷が出ているほどの武闘派だと聞いていたのだけど。それに、女の子?」
リスティアは驚いていた。
「ああ。その噂は全部クルザのプロパガンダだよ。実際は18歳ほどの少女で、とても優しい。だから、俺たちが帝都で働いたとしてもクルザのような労働環境にはならない。休日は3日あるし、寝る時間だってある。衣食住も用意されていて、まぁ、とにかく困るようなことは何もない。それは俺が保証するよ」
俺はクルザ国には恩があった。だから王たちに仕えてきたが、自分自身の発言を改めて聞くと、如何に俺の扱いが酷かったか客観的に分かってしまうな。
「そっか...... まぁ、もらえなかったとしたらジークに頼ろうかしら」
リスティアは俺の顔を覗き込むようにそう言う。
「ああ、もちろんいいぞ」
「なっ! いつもなら、冗談はよせ、なんていうのに、なんで......」
俯きながら小声でなにかぶつぶつと呟いているティアを、横目に俺は窓の外を見ると、もうすでに馬車はラッティアについていた。
「おい、ティア。ついたぞ!」
俺は俯いているティアの肩に手を置くと、窓の外を指さす。
すると、リスティアは俺の指さす方を見る。
「本当ね。でも、こんなに寂れていたかしら」
リスティアのその言葉は正しく、馬車の窓から見るラッティアの村は暗かった。
レンガ造りの通りには人が歩いていなく、店の看板でもある魔法掲示板は光っても動いてもいなかった。
「前はこうじゃなかったのか?」
「ええ、前はもっと華やかだったはずなのだけど......」
俺たちがそんな会話をしながら、窓の外から村の様子を眺めていると一人の老人がこちらに近づいてきていたので、俺たちは馬車から降りた。
すると、その老人は俺たちに近寄り跪いていた。
「おお、聖女様!! 私はこの村の村長です。 それと、あなたは......従者でしょうか?」
「違います! 彼はジーク。私の、その、親友です!」
リスティアは被せるようにそう言うと、
「もしかして、帝国と一人で戦い、衰退しかけていた王都を急激に改善し、北の蛮族とも交渉したというあのジーク様ですか?」
「ああ、一応は、そうだな」
俺は苦笑いをしていただろう。まさか、こんなところでその話を聞くとは思ってもいなかった。
「おお!! そうですか! 聖女様と、ジーク様! ですが、なぜこんなへんぴな地に?」
男は急激にトーンダウンすると、怯えているような表情を見せた。
だから、俺は無害だと証明するために笑顔を作る。
「ただ立ち寄っただけさ。だが、なんでこんなにも人がいない?」
「税です、ジーク様。そのためにこの村の主要産業であるクリスタル鉱山に籠りっきりでなければならないのです」
俺は、なるほどとうなずいた。
地方の行政を行うのは地方貴族の仕事だ。加えて、王や宰相はどんな内政を行っているのか知ることができる。
ということは、地方貴族の内政を知りながら無視していたのか、それとも単純に知らなかったのかは知らないが、あの王と宰相が原因だろう。
地方単位の細かいところに関われない役職だったことが悔しくなる。
「ジーク、それって......」
リスティアも気づいたのか、険しい表情をしていた。
「ああ、間違いなくあいつらの仕業だろうな。何にも考えていないんだろう」
俺はそう言うと、カバンの中からクリスタルを取り出し、自らの魔力をクリスタルに分け与え、老人に差し出す。
せめて、この村だけでも良くするべきだろう。
「ジーク様。どういう事でしょうか?」
「このクリスタルを、魔法掲示板や、それ以外の魔道具につなぐと良い。5年は持つだろう」
「ご、五年ですと!! 普通は1か月持つかどうかというのに。しかし、我々には払う事なんてできません.....」
「その必要はない。受け取ってくれ」
そう言うと、村長は恐る恐るそれを受け取り、魔法掲示板やそれ以外の魔道具に魔回線と呼ばれる魔法の流れをクリスタルにつなげていた。
すると、つなげた順から煌びやかな魔法掲示板の光や、エールが入ったジョッキの絵などが動き出す。
おそらく、この村の生活道具にもクリスタルで拡散した魔力が送られているのだろう。
つなげた村長の表情はもはやさっきまでの暗い表情ではなかった。
「おおー!! 素晴らしい!! 流石はジーク様! ありがとうございます!!」
村長はそう言い、その変化に気づいた少数の女性村人と子供たちは、何度も頭を下げていた。
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