第二十八話 優しい拷問をはじめる
薄暗いぐらいレンガ造りの、この辺りではよく見る町人が住む一軒家。
ナナはもう誰も使っていないその家にユーフェを担ぎながら入っていき、ユーフェをイスに降ろすと戸棚から茶葉を取り出し紅茶を作り出しかき混ぜる表情は少し柔らかい。
常に無感情に見える表情のままのナナだったが、内心は違う。
ナナはクルザ王国内で宮廷貴族の活動を調査していたり、ユーフェのような下劣な輩を掃除していた。
そんなナナは疲れが溜まっていた。
ナナは紅茶を一口飲むとほっと一息つき、家の中にあった本を読み始める。
最近のナナにとってはこういう隙間時間だけが唯一の癒しだった。
そんなナナは黙々と読書を続ける。ユーフェの様子など気にせずに。
だが、しばらくするとその癒しはユーフェの声によって消される。
数時間気絶したままだったユーフェは目を覚ますと、辺りをぼんやりとした目で見る。
(ここどこだろう? なんで私はこんな場所に?)
「気が付いた?」
ナナは抑揚のない声でそう言う。
本を読みながらそう言うナナを無害だと判断したユーフェは、安心していた。
(きっと、急に具合が悪くなったんだわ。ここはきっと病院)
そう思ったユーフェは急に安心し、背伸びをしようとするが、手が縛られていてできない。
「なにこれっ!! え、どういうことよ!!!」
驚いたユーフェはパニックになり手を何度も何度も動かすが、当然縄が外れることはない。
「なにって、拷問。好きなんでしょ」
抑揚のない声で、無表情でじっと見つめているナナにユーフェはブルっと震えて、ようやく事態を認識する。
(こいつ、やばい奴だ。でも、どうすれば...... そうだ。私が偉い奴だと思えば、簡単には手が出せない)
「は? 意味わからないんだけど! 好きなわけないでしょ! それにね、私を誰だと思っているの? こんなことしてただで済むと思わないでよ」
「誰って外交担当のユーフェ・ミズーリ。歳は23歳で王都の高級貴族の生まれで、父は魔法騎士部隊の将。恵まれた生まれと才能で、自らを世界の中心だと考えるようになったユーフェはあるとき、ジーク師を追い出そうと計画しているラザルに肉体関係を持ちかけられる。そして、貴方は外交のトップになった」
淡々と言うナナにユーフェは再びブルっと震えた。
(この女。ジークの仲間? それに、なんで私の過去を知っているの)
「で、ジークを追い出した私が憎いからやったこと?」
ユーフェはナナを威圧するために平静を装ってそう言う。
そんなユーフェの感情の動きを全く感知していないナナは首をゆっくりと横に振る。
「師は大丈夫。私の心配なんていらない」
「じゃあ、なんでよ!」
ユーフェはナナの言っている意味が分からず大声を出していた。
「師はよく『俺は陰で動く方が似合ってる』というけど、ナナは違うと思ってる。陰で動くのが私の役目」
(は? 意味が分からない、分からない、分からない。陰で動くって何? 仮にあの女が言っている言葉が正しいとして、それであの人に何の得があるの?)
ユーフェは自らの損得でしか物事を考えられない様になっていた。
それは幼い頃からクルザの王都で甘やかされて過ごした結果。
だから、ユーフェはナナの言っている意味である、クルザの民衆を救うということを少しも理解していなかった。
「意味が分からないんだけど、いったい私を捕えて何がしたいわけ?」
ユーフェは自暴自棄になっていた。
「拷問」
ナナがそう言うと一人の町人が入ってくる。
「ユーフェ。レネーヌに来る途中で、ある街に立ち寄った」
「ええ、確かに立ち寄ったわ」
「そこでその街の備蓄していた食料を食べた」
ユーフェはナナの言っていることが、まだわからなかった。ぽかんとした表情をすると、口を開く。
「それの何が悪いの? 私はクルザ王都の高級貴族なのよ? お腹がすいたら食べるでしょ」
ユーフェがそう言うとナナは嘆息する。
「やっぱりただの馬鹿」
「馬鹿って何よ!!!」
ユーフェの大声に対してナナは反応しない。
ナナは持っている短刀を出すと、ユーフェの腕に当てる。
「ちょっと! 何する気?」
「怖い?」
「怖いに決まってるじゃない。さあ、早くやめなさい!」
だが、ナナは少しだけ短刀で切る。
「これは領主や拷問された蛮族たちの痛み。と言っても百分の一ほどだろうけど」
ユーフェは短刀で切られた切り傷を見て、パニックになっていた。
「血が出てるわ! どうしたら?」
「ただの切り傷。それにまだまだ聞きたいことや、しなければいないことはある」
ナナはパニックになって暴れているユーフェに呆れていた。
(たった切り傷を作っただけなのに、この暴れよう。頭がおかしくなって情報が聞き出せないと困るし、短刀はダメか)
ナナは短刀を鞘にしまった。
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