第二十二話 太陽のように輝くのはなかなか大変
無事に反対路線の奴らを倒した俺は、その功績が認められて長期的な休暇を貰えた。
クルザでティアの護衛を任されていたころとは大違いだ。
1週間以上の休暇を貰えたのはリリーザが優しいというのもあるが、腐敗したクルザ王朝のせいで休暇を取れなかったというのが正しい。
そう言うわけで俺とティアは帝都アシスヘイムの色々なところに行ったのだが、入る店全てで『お代はいらないよ』そう言うんだ。
暗躍していたクルザ時代とは違い、日向にあたるとこうなるのかと言うのを実感する。
なんでこんな話をしているかと言うと、現在進行中でそんな場面に直面しているからだ。
「おや! ジーク様とティア様じゃないかい! しかし、二人は仲良いねー。アシスヘイム中で付き合ってるって噂だよ。実際のところどうなんだい?」
俺とティアは昼食をとるために適当な店に入ると、人が良さそうなおばさんに話しかけられていた。
「ち、違いますから! 私とジークは昔からの幼馴染みたいなもので、それで、ほら、仲がいいのです」
ティアはなぜか顔を真っ赤にしながら、身振り手振りで必死におばさんに伝えていた。
必死になって否定しているティアにはちょっと残念だが、特にいう事もないので俺はただ黙って二人を見る。
「あら、そうだったの。ごめんねぇ、こんな話しちゃって」
おばさんは俺を見ると、申し訳そうな顔でちょっと頭を下げていた。
「いや、ティアの言う通りだから、気にしなくても大丈夫だ」
たしかに勘違いされるほど、俺とティアは仲がいい。
近すぎず、遠すぎず。そんな距離感で俺たちは付き合ってきたのだ。
おばさんが勘違いするのも無理はない。
「否定してくれてもいいじゃない......」
ティアはむっとして何かを呟いていた。
「なんか言ったか?」
すると、ティアはむっとした表情のまま俺をみて、
「せっかく、方向転換したというのに! 全然気づかないからもういいの!」
ティアがそう言うと、おばさんもにやにやと微笑んでいた。
なんだろうか。この俺だけ分かっていないような感じは......
何も悪いことをしていないというのに、責められている感じがして思わず目をそらす。
すると、おばさんの声が聞こえてくる。
「若いっていいわねえ! まあ! お二人とも料理を食べに来たんでしょう? お代はいらないよ!」
そうだった。俺たちは昼飯を食べに来たのだった。
俺はおばさんに頷くと、おばさんは大声を出していた。
「ジーク様、ティア様がご来店だよ! お前ら、最高の品々をお出ししな!」
俺とティアはまるで海賊の姉御のように言うおばさんに目を合わせて驚きつつも、回れ右をする。
急いで変装をすると、俺たちは扉を開けて店を素早く出る。
後ろからは店の中にいた人たちが、大声を上げながら追いかけていた。
「ジーク様がいるのー。ジーク様どこー!」「ジーク様! 俺にも奢らせてくれー!」
そんな声の主が徐々に後ろから迫りつつあるからだ。
だから俺はティアを抱えながら走る。見つかると面倒なので、サイハスとの戦闘の時のような走りで俺は逃げた。
「疲れたな......」
俺はティアをおろすと、俺は建物の上を向く。
「ナナ! 降りて来いよ」
するとナナは屋根から飛び降りると、俺たちの横に着地する。
「ジーク師とティア殿は随分と仲が良いのですね」
相変わらずの無表情に、ティアは困惑する。
「もしかして怒っているのでしょうか......」
二人は初対面ではないが、あまり話したこともないので、ティアはナナがどういう人間か分からなかった。
「いや、ナナはこんな奴なんだ。でも悪気はないので許してやってくれ」
俺がそう言うとティアはうんうんと頷く。
「それで、ナナ。何か情報があったのか」
ナナは俺にしか分からない、微妙な頷きをする。
「クルザは今大混乱です、師よ。ラザルはリースとの国交を断絶させ、蛮族とは戦争状態。そんなラザルは投獄されました。さらに、民衆の不満は爆発寸前です」
ナナは淡々とそう言う。
「そうか、ラザルは責任を取らされたか」
ラザルが投獄されたと聞いて、俺はざまぁないなと思った。
だが、そんなラザルを放置していたのはラース王だ。
こいつを王座から引きずり降ろさない限りクルザの民は苦しむのだろう。
「他には何かあるか?」
「はい、師よ。ラースは師に戻ってもらおうと何やら企てている様子」
ナナのその言葉に俺はため息をついた。
今さら戻れと言われても、もう遅い。
崩壊寸前のクルザ王朝を助ける気などなかった。
だが、それはクルザ王朝の話だ。罪のない民衆は今まさに苦しんでいる。
「ナナ。お前がここに来た理由は、民衆があまりにも苦しんでいるからか」
「はい、師よ。クルザの地方では既に反乱がおきています」
俺にしか分からないが、ナナのそんな言葉には少しだけ怒りが混じっていた。
そうか、そこまでか。
クルザは相当荒れているようだ。
だが、俺はもはや帝国の人間。
そんな状況をどうにかしたくても、できなかった。
「ナナ。俺だってクルザの人達を救いたい。見知った顔だって沢山いる。だが、俺は帝国の大元帥だ。だからできる限りのことはするが、全てはリリーザと側近たち次第だ。分かるな」
俺がそう言うとナナは頷いた。
「もちろんです、師よ」
「悪いな、ナナ。俺もできる限りのことはする」
ナナは再び頷く。
「では、師よ。私は再びクルザに戻らなければならないので」
『ご飯でも一緒にどうだ』
俺はそんな言葉を飲み込んだ。
ナナは一生懸命なのだ。
だから、俺はそんなナナの後姿をいなくなるまで見ていた。
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