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第二十話 宰相は蛮族との戦争を引き起こしてしまう

 ラザルは怒りが引いた後、南方の国境沿いで自分が無能なのではないかと思い始めていた。


(私はもしかしたらジークよりも無能で、他の貴族よりも無能なのではないか?)


 ラザルは南方の蛮族を抑えるための砦に入っていく。

 下級貴族たちが声をかけてもラザルはまだ放心状態だ。


「ラザル様!!」


 砦にいた長の男がラザルの肩をゆする。

 ラザルはその言葉で現実に戻る。


「どうした?」

「ラザル様が蛮族共を何とかしてくれると聞いて、この日を楽しみにしていました」


 長は引きつった笑顔でそう言う。ラザルが不機嫌なのを見て、怒られると思ったのだ。


 だが、ラザルはそのことに気づかない。

 ラザルは長の媚びに一気に自己肯定感が高くなり、いつものラザルに戻る。


 そう、ラザルはとても単純な人間なのだ。

クリスタルに守られたクルザ王国は世界の中心で、その中心の中心が自分だと考えている。

 



「おお! そうだったわ! そうだったわ! 私に任せて、お前たちは後方で見ておれ!」


 ラザルはガハハハと笑いながら、長の肩をポンポンと叩く。

 長や、他の魔法騎士達はその様子に苦笑いしかできなかった。


『宰相が来れば、状況はより厄介になる』


 この言葉は地方に派遣された魔法騎士ならば誰でも知っている言葉だった。





 自信を取り戻したラザルは砦の部下たちと共に、国境沿いで蛮族を待っていた。


 そんなラザルの狙いは、最初に蛮族に警告し、聞かなければ撃退するというものだった。

 そんな短絡的な作戦だったが、ラザルはそれでいいと思っていた。

 

 世界の中心にいるクルザが負けるわけがない。


 クルザが龍だとしたら、蛮族はゴキブリくらいの強さだ。そう考えているのだ。


 ジークでさえ一番苦労した蛮族の対処に、ラザルは最大の悪手を打とうとしていた。

 蛮族は言語が通じない、好戦的、数が異常に多い、運動神経が高すぎる。


 そんな彼らの特徴はまさに、野獣。下手に攻撃していい相手ではなかった。


 自信満々に腕組をしながら仁王立ちしているラザル達の元に、蛮族たちが馬で近寄ってきている。


「ヒョロロロロロロロロロ!」


 奇妙な音を出しながら、全速力で近づいてくるとラザル達の前で急停止する。


「アフン。ハモサ、ジーク、ナラ?」


 全裸の蛮族の長は身振り手振りでそう言う。長はジークと話がしたかった。


 しかし、ラザルはきつい表情になる。


(またジークか! またジークだ! クソ! どいつもこいつも私よりジークを評価しよって!)


「おい! 蛮族共! 言うことを聞けば見逃してやるぞ!」


 ラザルは杖を取り出し、長の男に勝ち誇った顔でそう言うと、部下たちは顔をしかめる。


 その瞬間、蛮族の長は右手に持っていた槍でラザルを突こうとする。


 が、当然のようにラザルはそれを土で出来た防壁で防ぐと、火球を放ち蛮族の長を倒す。


「はははは!! この程度で死ぬとは! 雑魚が!」


 ラザルはガハハハと大声で笑う。


(野蛮人ごときが、この私に歯向かうからだ! さて、残りも片付けるか)


 だが、ラザルは知らない。ここにいる騎兵1000人のほかに、国境沿いにある丘の裏に数万の蛮族が隠れていることを。


 ラザルはとんでもない、間違いを犯してしまったのだ。


 ラザルは交渉の失敗に続き、蛮族たちも止めることができなかった。


 ラザルは失敗したのだ。


 もはやこれは小競り合いではない。戦争だった。


 数万の蛮族は「ヒョロロロロロ!」と奇妙な笛を吹きながら、猛速でラザル達がいる砦に向かっていた。


 ラザルもそれに気づき、冷や汗を流しながら必死に魔法陣を描き、召喚獣を出したり、魔法で敵を倒す。


 だが、あまりにも敵が多い。

 にらみ合いの意味合いが高いこの砦には50名ほどの魔法騎士しかいない。


 敵が死ぬのを恐れずに向かってくるのを見て、ラザルは唖然とする。

 蛮族は魔法を喰らっても、召喚獣に攻撃されたとしても、向かってくる。


 まさに、野獣だ。


 たちまち砦が包囲されそうになると、ラザルは部下を残して逃げる。


 (私が悪かったというのか? いや違う。アルベールが悪い。こんなにも少ない人数で砦を守れるわけがないだろうが! あの、たわけ!)



 ラザルはそう言い訳しながら、走る。死に物狂いで走る、顔に大汗をかきながら。


(クソ! ジークより無能だと認めてたまるか! あの蛮族どもめ! 王都に戻ったら、全軍で蹂躙してやる)


 ラザルは汗まみれの服を脱ぎながら、次の作戦を考えていた。


 だが、ラザルは知らない。


 王都では、全てを知ったラース王と、それを密告したアルベールたちが待っていることを。














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