第十八話 宰相と同志は仲間割れする
ジークがアーシス帝国で、サイハスを倒し英雄として迎え入れられた1週間後。
クルザ王国のとある一室。
魔法照明が淡い橙色で輝く大きな一室で、4人が円卓を囲んでいる。
ラザル達だ。
ラザル達は問題を解決するために話し合っていた。
「宰相殿。私から報告させていただきます」
そう言うのは魔法騎士部隊の頂点にいる男、アルベール・ハラル。
「うむ。話せ、騎士長」
「我が国の魔法騎士部隊は南方の蛮族の襲撃を絶えず受けていて、補給も少なく、疲労困憊です。それに、リースとの国境にも兵を動員しなければならず......」
「ふむ、それは困ったな」
宰相が顎髭を触りながらそう言うと、今度は外交担当のアラン・ウォードが手を上げる。
「宰相殿。リース王国との食料交渉はもはや不可能です。リースは我が国と国交断絶。さらに、その期に乗じて、東方にあるガリアも、我が国との貿易を閉ざすと......」
「ふむふむ。それは困ったな」
相変わらず呑気に髭を撫でる宰相。
だが、内心は無能な二人に怒り狂っていた。
「私からも、報告があります」
そう言うのは内政担当のユーフェ・ミズーリ。
「ジークと聖女様がいなくなった影響は国内のもあります。王都クリスタの民衆は皆、今にも不満が爆発しそうで、さらにそれは地方にも広がっています。地方では、ジークがアッティアを救った話が瞬く間に広がっていて、内乱の危機かと。さらに、国内の食糧事情は悪化する一方で――」
「ユーフェ内政官! 君がそれを解決するのだろ!」
宰相ラザルは怒りを抑えることができなかった。
ユーフェを指さしながら、怒っている。
「騎士長アルベール! 貴様もだ! その程度の統率力では困るのだよ! 貴様が、魔法騎士部隊を正しく率いないから蛮族ごときに苦労するのだ」
ラザルは今度はアランを見る。アランはラザルを見ることができずに目を背ける。
「アラン外交官! 貴様も、今まで何をやってきた! 貴様は何年ここに務めているのだ?」
ラザルがそう言うと、他の3人は一斉に俯く。
アルベールや他のメンバーも聖女の護衛役であるジークの役割を知ってた上で、自らの利益のために追い出した張本人たちだ。
そんな彼等だったが、ジークが一人抜けただけで、ここまでの惨状になるとは思ってもいなかった。
それもわずか2週間足らずで。
ジークさえ最初からいなければ。そんな声を心の中で何回も何回も言っている。
だが、この現実を直視する利口さはあった。
悔しいが、悔しいが、彼らはジークをこの国に戻すことを提案しようとしていた。
「宰相殿」
アルベールが意を決して口を開いた。
「話してみろ」
「ジークの件ですが、この国に戻ってもらいましょう」
アルベールがそう言うと、宰相はテーブルにあったコップを投げる。
「ふざけるなっ! あんな平民を聖女の護衛役として任命するなんてことはできんぞ!」
ラザルも分かっていた。ジークを戻せばこの状況は一気に改善するという事を。
だが、プライドがそうすることを許さなかった。
(ジークは確かに有能な平民だった。だが、今更それを知ってどうする? 私が無能だと言っているようなものじゃないか!)
「ですが、この件は我々だけではもう無理です。せめて他の貴族達にも手伝ってもらいましょう」
アルベールの弱音にアランもユーフェも頷く。
だが、ラザルはそれを鼻で笑う。
「いいか! もし他の貴族にこのことを話してしまったら、我々の立場はないぞ。下手したら死罪だ」
ラザルはそう言うと矢継ぎ早に話す。
「まぁ、お前たちの考えは分かった。だから、もう私が何とかする!」
ラザルは無謀にも、今報告されたことを一人で解決しようと考えていた。ジークのように。
「ですが、宰相殿。あなたはこの2週間何も成果を出していません」
アルベールのその言葉に、ラザルは再び憤怒する。
「だまれぃ!!! 貴様に言われたくないわ!! いいから、私のやり方を黙ってみておれ!!」
ラザルはそう言うと部屋を出ていく。
ラザルはリース王と交渉しようとリースに向かおうとしているのだ。
だが、残った3人は呆れながら、宰相のいなくなった部屋で目くばせをしていた。
彼ら3人はジークに「戻ってきてくれ」と乞おうとしているのだった。
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