第十話 防衛力を向上させる
さっきのことを頭から消し、部屋を出ると俺たちは魔法の昇降機で、偉大壁の上に上がっていた。
ここから見渡すとこの壁の高さが改めて分かる。遠くを見ればクルザ、アーシスの都市が見える。
だがそれでも魔法を巧みに操るクルザ王国の貴族達にはこの壁を超えるのは簡単だ。
空を飛んで乗り越えればいい。
クルザ王国内にある、天にも届くほどのクリスタル。
その加護を受けたクルザは大昔から魔力が強い者が多かったが、今までに偉大壁が超えられたことはない。
しかしそれはクルザがあまりにも平和でかつ、慢心していたから本気を出す必要がなかったかだ。
やはり、リリーザの言う通り偉大壁の防御力を高める必要がある。
「部隊長、偉大壁にはどれほどの兵がいるんだ?」
「およそ1万が待機しており、各門に1000人ずつ配置されています」
予想していた人員より少ない。この数では容易く突破されてしまう。今まで小競り合いで済んだのは奇跡だと思える。
「食料は? 戦時にはどれだけ持つ?」
そう言うと部隊長は言いづらそうな表情をする。
「2ヵ月です! そして、パンと芋のみ。週一で肉が出る予定です」
予想通りだ。アーシスは戦闘部隊や技術に人員を割かなければいけないからな。
それにかつて全ての隣国に喧嘩を売っていたせいで、なおさら人員が必要だ。南にはクルザ、西にはリース、北には俺も知らない国、東にはガリア。
これらすべてに喧嘩を売って、未だに国家として成り立っているのが不思議なくらいだ。
「なら、リースに使者を送ってくれるか」
リースの貴族や王と親しくなれてよかった。これで栄養がある食事を末端の兵士にも届けることができる。
お金の心配もあるが、まぁ、それはリリーザが何とかしてくれるだろう。
「使者ですか?」
「そうそう。『帝都まで来てほしいとジークが言っていた』そう伝えてくれるだけでいい」
「は!」
「さて、いよいよ。本題だ。魔法銃を改良しよう!」
俺は部隊長が持っていた両手持ちの魔法銃を手に取ると、鉄の重さがズシリとくる。
「魔法銃はクリスタルを設置することにより、魔法の力で動くんだったよな?」
「はい! 安価なクリスタルを使用しています。そうすることでコストを削ることができ、我々が使うことができます」
なるほど。魔力を分け与えもせずに使っているからこの威力だったわけか。
「なら、これからは加工前の大きなクリスタルを俺かティアのところへ持ってきてくれ」
俺はそう言いながら、クリスタルを外すと銃を壊さない程度の魔力を分け与える。
「試し打ちしてくれないか?」
「は、はい」
部隊長は銃を受け取ると、引き金をいつも通り引く。
すると、銃から発射された青白い魔力の塊は、さっきの戦闘のそれよりも2倍は大きくなっていた。
予想より大分小さいが、銃が壊れては困る。これくらいでいいだろう。
「こ、これは!! いいのですか、魔力をお借りして、大元帥様!」
「ああ、2年は持つだろう。あと、予備の加工前のクリスタルはないか?」
「加工前のでしたら、あそこの倉庫にあります」
部隊長は門横にあるレンガ造りの倉庫を指さしていたので、俺は杖を取り出しその門を開ける。
「おっ! あったぞ!」
魔力で他のクリスタルより魔力が高い物を探すと、それを杖で持ち上げる。
すると、下にいる魔法部隊から恐れが混じった声が聞こえてくる。
「おおー! クリスタルが宙に浮いてる!!」 「これが大元帥様の力!」「だがちょっと恐ろしいな...... クルザの奴らもこんな力を持っているなんて」
帝国の大多数の人々は魔力が生まれつき弱い。
俺は「普通だ」なんて思ったが、すぐにその思考を消しさる。
「さて、このクリスタルに魔力を注入し......」
俺は杖でクリスタルを近くに寄せ、魔力を注ぎ込むと、偉大壁の床に魔法陣を描く。
そして魔法回路でクリスタルと魔法陣を繋げれば完成だ。俺の魔力を消費することなく、誰でもクリスタル経由で召喚獣を召喚することができる。
「今度はクリスタルに触れてみてくれ」
「は!」
部隊長は魔力を使い魔法陣に触れると、目の前にある魔法陣が赤く光り出す。
ゴオオっと魔法陣は燃えて、その中からフェニックスが飛翔する。
「これを私が出したのですか」
「ああ、そうだ。魔力を持つ者なら誰でも可能だ。だが、クリスタルの魔力が弱くなれば使えない。その時は俺かティアに連絡だ」
「ありがとうございます。ジーク様!」
本来であればもっと色々と追加したいところだが、魔道具を作ることができないから兵士たちに十分な武器を与えることもできない。
まぁ、それについては後でも大丈夫だろう。これだけ強化すれば、後方からの援軍も間に合ってくれるはずだ。
俺はティアと手分けして残り9つの門に魔法陣を描いた。
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