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劇中群像 Dramatis Personæ  作者: Robert Browning (翻訳:萩原 學)
ジェイムズ・リーの妻 James Lee’s Wife
9/15

IX.—甲板上 On Deck

I.

思い残すことも無く。

 提言した事などない、

期待に応えた事もなく、

 私の居場所がある筈もない

あなたの心に。立ち去ろう、自由にしてあげる。

THERE is nothing to remember in me,

Nothing I ever said with a grace,

Nothing I did that you care to see,

Nothing I was that deserves a place

In your mind, now I leave you, set you free.

II.

降参!するから、そっちも譲って?

 と何だか煽り返す炎みたいだったと。

魂固くとざされつつも、鍵を求め、

 緩めることもあったのかな。私が同じになったものと

あなたの目に見え、私にはあなたがそう見えるように。変な言い訳!

Conceded! In turn, concede to me,

Such things have been as a mutual flame.

Your soul’s locked fast; but, love for a key,

You might let it loose, till I grew the same

In your eyes, as in mine you stand: strange plea!

III.

それじゃ一体、私にとって何が問題?

 私が一方的に不利な立場とでも?

2人して同じさやのエンドウ豆だったでしょうに。

 世界の始まりから、ずっと。

それよりもう少し、夢想にふけらせて頂戴。

For then, then, what would it matter to me

That I was the harsh ill-favoured one?

We both should be like as pea and pea;

It was ever so since the world begun

So, let me proceed with my reverie.

IV.

物凄く変だったかも、私のすべてがあなたに有ったら、

 なにしろ私の心と頭はあなたでいっぱいだったから、

あなた、その言葉が花婿や歓喜を齎した、

 無駄に手を上げたことのない……

というか今なお私の手をとる、海の向こうから!

How strange it were if you had all me,

As I have all you in my heart and brain,

You, whose least word brought gloom or glee,

Who never lifted the hand in vain—

Will hold mine yet, from over the sea!

V.

変ね、あなたが私の顔とか考えたら、

 あなたそっくりなバラが出て来て、

然るべき程度に親しげな目やら、

 いい感じの口元に広い額やらが付いて、

結局は自分を見て「彼女だ!」と叫ぶとか。

Strange, if a face, when you thought of me,

Rose like your own face present now,

With eyes as dear in their due degree,

Much such a mouth, and as bright a brow,

Till you saw yourself, while you cried “’T is She!”

VI.

あなたならやる、するに違いない、私を記すに

 愛の人生だった、人生が愛だったと。

息をするのもあなたの唇次第、

 我慢できなさ加減もあなたの予想通りと、

有頂天で落ちる先はあなたの足を差し出すところに。

Well, you may, you must, set down to me

Love that was life, life that was love;

A tenure of breath at your lips’ decree,

A passion to stand as your thoughts approve,

A rapture to fall where your foot might be.

VII.

だけど1度もあったかしら、そんなに私を愛して下さるとか

 言葉に、或いは表情に出したことなんて。

あなたの言葉と視線は彷徨さまよい、落ち着かず

 私の周りをくるくる回ってばかり、生きている間ずっと、……

これで想像できますか「私が感じるように、彼はかく感じる」と?

But did one touch of such love for me

Come in a word or a look of yours,

Whose words and looks will, circling, flee

Round me and round while life endures,—

Could I fancy “As I feel, thus feels he”;

VIII.

ちょっと、あなた消えようとしてるの、私みたいなものに、

 あなた髪までこんなゴワゴワした髪束になって、

あなたの肌、この節くれだった木の樹皮……、

 私を変身させるんじゃないの!……これで私に察しろと

いつ私は喜びのあまり死んだら良いの、ジェームズ・リー?

Why, fade you might to a thing like me,

And your hair grow these coarse hanks of hair,

Your skin, this bark of a gnarled tree—,

You might turn myself!—should I know or care

When I should be dead of joy, James Lee?

2.mutual flame:William Shakespeare "The Phoenix and Turtle"(不死鳥と雉鳩)から引用。常套句として18世紀に流行したが、1820年迄には終わっていた。本節には他にも影響が見られる(W & K)。

3.pea and pea:pea は「グリーンピース」として知られる豆の単数形、すなわちえんどう豆をいう。しかし「豆と豆」では意味不明なので意訳。

4.from over the sea!:"Time's Revenges" の一節

6.A tenure of breath at your lips’ decree,:以下、簡明な言葉遣いでR18を避けつつ熱情を表現している点は見習うべきであろう。その分、訳が面倒で仕方ないが。

7.come in:専ら「入る」と訳すが、「(顔に)出る」の意味でも使われる。

You might turn myself!:"The Grove"に名前だけ出てきたオウィディウスの『変身物語』を想起させる。恋した男に追いかけられた女が草木に変わったとか。

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