顔 A Face
本作は詩人 Coventry Patmore の妻 Emily を歌ったもので、夫妻はブローニング夫妻と親しく、当初はプライベートな贈り物であった。しかし1861年にブローニング夫人が儚くなって次の年にパトモア夫人も死去し、その2年後コベントリー再婚に及ぶや詩の持ち主が居なくなり、収録に至った。期せずして追悼文となった本作は、急遽追加されたのか、詩集の終わり近くに位置する。
彼女の可愛らしい首をしてよもや
淡い金色の背景に描けた者有りや
トスカーナ初期の画家よろしく!
比類なき金型に陰影の侵す余地なし
IF one could have that little head of hers
Painted upon a background of pale gold,
Such as the Tuscan’s early art prefers!
No shade encroaching on the matchless mould
2つの唇、柔らかく開かれようそれは
純粋な横顔にあり、但し笑うときを除く、
色々台なし、 飛んでもないというか
あそこのヒヤシンス、彼女が大好きな、支えに凭れる
Of those two lips, which should be opening soft
In the pure profile; not as when she laughs,
For that spoils all: but rather as if aloft
Yon hyacinth, she loves so, leaned its staff’s
蜂蜜色の蕾の重荷に口付け
このために離した唇の中に捕えて。
Burthen of honey-coloured buds to kiss
And capture ’twist the lips apart for this.
すると彼女のしなやかな首、指3本が取り巻こう
淡い金色の地面に、どのようにそれは揺れよう
Then her lithe neck, three fingers might surround,
How it should waver on the, pale gold ground
すっかり果実の形となるまで、顎を上げ!
解ってる、大衆へ向かうコレッジョ、仲違いして
Up to the perfect fruit-shaped, chin it lifts!
I know, Correggio to mass, in rifts
天国の、天使の顔という顔、球体に球体
突き出すはその輪郭、燃える陰影が吸収。
Of heaven, his angel faces, orb on orb
Breaking its outline, burning shades absorb:
これはそこだけ密集したものと考えるべきか、
待っているのは何か不思議な瞬間を見ようと
But these are only massed there, I should think,
Waiting to see some wonder momently
むくむく膨らみ、立ち上がり、ゆっくり消えるは空を背にして
(その淡い地からしてこの愛しい顔が見えること)、
Grow out, stand full, fade slow against the sky
(That ’s the pale ground you’d see this sweet face by),
すべての天国、そのうちに、一つの目に凝縮された
その不思議を失いたくない、目配せされても。
All heaven, meanwhile, condensed into one eye
Which fears to lose the wonder, should it wink.
a background of pale gold:聖母子像などの聖画は、背景に金箔を貼り威厳を高めるのが一般的であった。
the Tuscan’s early art:13~14世紀フィレンツェやシエナの聖画をいう。エミリーは、ラファエル前派を支援した美術評論家 John Ruskin の友人でもあった。
not as when she laughs,:見た目に似合わず豪快な笑い方をしたのか、不評とはいかないまでも、トスカーナ風ではなかったらしい。(本作はビクトリア朝、卑猥なものを見せてはならぬと食卓の足にも靴下を履かせた偽善的時代の産物である)つまりはブローニングなりの内輪ネタであって、受け取った夫人はさだめし豪快に笑ったことであろう。
Yon hyacinth:yon は「あちら」を指す古語、yonder とも。水栽培できるヒヤシンスは当時、チューリップを凌ぐ人気であった。
perfect fruit-shaped:初稿に fruit-shaped perfect とするのは理解し難い。また初稿ではこの後、行分けが入る。
Correggio:モデナ近くコッレッジョ生まれでルネサンス期パルマの画家、本名は Antonio Allegri。聖画を多く残す。ブローニング夫妻が殊の外愛好し、パルマへ見に行った。
his angel faces:おそらくパルマの聖ジョバンニ・エヴァンジェリスタ教会大キューポラに描かれた『聖母被昇天』のイメージ、天使の大群。画像は Wikipedia から。
orb on orb:『聖母被昇天』では雲塊を球体の重なりのように描く。
Breaking its outline:『聖母被昇天』は丸天井から四隅にはみ出して描かれている。




