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5.一つの事件を終えて。







「パパ!?」

「え、安藤さんが――お父さん?」


 避難所に戻ると、そこではちょっとした騒ぎが起きていた。

 どうやらボクがいなくなったと、サナたちが自衛隊の人たちに相談したらしい。でも、そこにひょっこり、安藤さんと一緒に現れたものだから、みんなびっくり。

 というか、安藤さんがサナの父親で――あぁ、なるほど。


 ボクは一人納得して、何度か頷いた。


「サナ、ケガはないのか!」

「大丈夫だよ。ほら、リクも!」


 少女が示すと、チワワのリクが可愛らしくほえる。

 その姿を見た安藤さんは、心底ほっとしたように息をついた。そして優しく、娘であるサナのことを抱きしめるのだ。

 そんな光景に、ボクはふと少し離れた地区に住む母さんを思い出す。

 病院にいるから、危険はないと思うけれども。


「おい、間宮じゃねぇか!」

「え……?」


 タイミングを見て、様子を見に行かないと。

 そう考えていた時だった。聞き覚えのある声が、後方から。

 振り返るとそこにいたのは、あまり会いたくはない人物だった。


「あ、今田くん……」

「お前、まさか生きてるとはな……」


 彼の名は、今田ハジメくん。

 ボクの同級生であり、柔道部の次期主将と言われている男の子。そして、ボクのことをイジメてくる人たちと仲が良い人だった。

 坊主頭を掻きながら、今田くんは大きくため息をつく。


「おい、どれだけ周囲に迷惑かけたか――」


 そして、心の底から呆れたように。

 ボクに向かって嫌みを言おうとした。その時だった。



「ん、どうしたんだ。今田?」

「ひっ、コーチ!?」

「コーチ?」



 安藤さんが、今田くんを見て話しかけたのは。

 すると同級生は震え上がり、ピンと背筋を伸ばすのだ。

 コーチ? そういえば、安藤さんは赤城の柔道部出身だったっけ。そうだとしたら、コーチをしていてもおかしくないのかもしれない。


「間宮くんと、友達なのか?」

「あ、いや。ははは……」


 安藤さんに問われて、小さくなる今田くん。

 頬を掻きながら、大粒の汗を流していた。ものすごく緊張している。


「間宮くんは、俺の命の恩人だ。お前も彼を見習うんだぞ?」

「は、はい! 分かりました!!」


 そして、まさしく体育会系といった返事をしていた。

 どうやらボクは嫌みを言われずに済んだ、ということらしい。



「間宮くん、あの……!」

「ん、サナ。どうしたの?」



 さて、そんなことをしていると。

 唐突にサナが、そう声を張り上げるのだった。

 見ればそこには顔を真っ赤にして、瞳を潤ませる少女の姿。


「ありがとう……!」

「え……!?」



 そして、彼女はボクの胸に飛び込んできた。

 抱きついて離れようとしない。



 それを見て思った。

 そうだよな、と。父親の安否が分からないのは、不安で仕方なかったはずだ。

 ボクはそっとサナの頭を撫でてあげる。すると、少しだけ恥ずかしそうに上目遣いでこちらを見てきたが、彼女はゆっくりとそれを受け入れるのだった。



 こうして、慌ただしい一日が終わる。

 ボクは少しだけ疲れた身体をゆっくりと休ませた。



 でも、この原因不明の事変。

 それはまだ、始まったばかりだった。



 


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