第7話
本登録出来た!ようやく!
第7話
卒業式でコーネリアのお父さんと話す機会があり、パトロンを探している事を告げると2つ返事でオッケーを貰えたので、翌朝意気揚々と部屋の荷物をインベントリへ片付けて、イエストルダムの街へと向かった。
馬車に乗ってまた襲われても嫌なので今回は徒歩だ。
「(コーネリアさんに何も言わなくて良かったんですか??脈がありそうでしたけど?)」
「(ん?もうオッサンの出番は終わったよ。コーネリアの事だから誰よりも貴族らしく生きるだろ。)」
「(ふーん?でもパトロン見つかって良かったですよね!まさかメリディアス公爵がパトロンになるとは!)」
「(確かになー。パトロンの事はよく分からないが、珍しい素材とかお土産を見つけたら公爵家に贈らないとな。)」
「(ほとんど持ってると思いますけどねー。)」
「(お?そろそろイエストルダムの街だ。)」
前回と同じように門番に名前と来訪目的を告げて、中に入れて貰い、冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドに入ろうとすると丁度中から数人の神父が出て来たので道を譲って祈りを捧げる。
コーネリアもルーファスも宗教関係者を見たら祈りを捧げるべきと教えてくれたので、それ以後はこうしてキチンと祈りを捧げている。
ともあれ、神父たちは「汝に祝福あれ」と挨拶して、足早に去って行ったので、俺は冒険者ギルドの中に入り本登録をする為の手続きをする為受付に並ぶ。
受付は以前来た時には全て男性だったのに、今では全て女性へと変わっていた。
当然俺の事も知らない為、ギルドマスターに確認します、と言われて併設している酒場で待たされた。
昼時なのでやはり酒場にもギルドにも人は居ない。いや、早朝とか夕方に来た事が無いので実は普段から人が少ない可能性あるが。
どれくらい掛かるかも分からないのでコーヒーを飲みながら待っていると、丁度飲み終わる頃にはギルドマスターの部屋へ呼ばれた。
俺はテーブルにコーヒーの支払い分の銅貨を置いて、職員の女性と一緒にギルドマスターの部屋へ向かった。
相変わらず厳つい顔のギルドマスターだが、俺を見るなり嬉しそうな表情をしてくれた。
「いやぁー良かった!キミSクラスで卒業したらしいじゃない?しかも、パトロンはメリディアス公爵と来てる!もしかしたら、王都でそのまま本登録したり別の仕事に就いたりしちゃうかもって不安だったんだけど戻って来てくれて嬉しいよ!」
「一応そういう約束で学園に推薦して貰いましたので、筋は通すべきかなと思いましてね。」
「そういうところが大事なんだよ!しかも、キミ学園に大金寄付したり、学園の職員に気前良くチップ渡してたらしいじゃない?」
「えぇ、まぁ、ご迷惑をお掛けする事が多いかと思いまして。」
「いやぁ、君のお陰でうちの支部は学園の覚え良いんだから、ホント感謝してるよ!」
「そうですか、それは良かったです。それであの、本登録なんですが?」
「あっ!そうだった!この書類に名前書いて貰えれば後は下の受付でドッグタグを受け取るだけで終わりだよ!」
そう言われて、俺は出された書類にサインした後、ドッグタグを受け取りに一階へ降りた。
ドッグタグへ名前を刻印しなければならないらしく、それを待つ間受付の女性と世間話をして過ごした。
神父は何しに来ていたのか気になったので何となく訊ねると、俺が学園に行った頃からどうもこの辺りでアンデッドが増えているらしく、土葬から浄化の炎という魔法での火葬に切り替えるべきか、冒険者に墓守とは別に駐屯して貰うべきか相談していたらしい。
この国では、遺体の身を清めて土葬し、再び訪れる復活の時を待つというのが一般的な宗教観で、火葬にする場合はそうしなければ清められない程の悪しき魂の持ち主が死んだ場合のみ行われている、と学園に通っている頃にルーファスに教えて貰った記憶がある。
つまり、反感を買うのを承知で火葬しなくてはならない程の事態になっているという事だ。
そうこう話をしているうちに刻印が終わり、俺は受付の女性に礼を言ってギルドを出た。
久々のイエストルデムの街を満喫しようと思った矢先、チッチキが声を掛けて来た。
「(本登録は出来ましたが、これからどうするんですか?)」
「(とりあえず、露店巡りかなぁ。良さそうな装備があるかもしれないし。)」
「(また散財!?冒険する気無いでしょ!?)」
「(見知らぬ新しい売り物を買う、それもまた冒険さ!)」
「(うまくないから!!)」
そんなやり取りをしながら露店を見て回って居ると、黒いロングコートと帽子と軍服とグレーのシャツとベルトとネクタイとブーツを1セットだけ取り扱っている店があった。
中世らしい服以外もあったのか???
「店主、これは一体なんだ??」
訊ねると、店主は少し自慢げな顔で語り始めた。
「これはですね、隣のヴルダル帝国の軍服と同じデザインの服なんですよ!機能性も高く見た目も洗練されているでしょう?」
「ほぉ、帝国の軍服はこのようなものなのか。ところで同じデザインとは?」
「実は、帝国軍の横流し品として軍服を手に入れましてね。その、職人として作ってみたいと思って分解して型取りし、私がイチから製作してみたものなんですよ。」
「かなり金が掛かったのでは?」
「いえ、その三年前たまたまワイバーンとシーポクスの死体が落ちているところに通りかかったんですよ!なかなか作り上げるまでに時間は掛かりましたが素材は帝国のものより良いはずなのでどうですか?」
「店主の運にあやかれるかもしれんからな!買おう!!いくらだ?」
「そ、その……金貨2000枚です。」
「良かろう!受け取るが良い!」
「(それ!!最後のお金じゃないですか!?)」
「(うるさい!ロマンが分からん奴め!!)」
俺はご機嫌で金を支払い、店主から服を受け取り、さっそく着替えの為に宿に向かう。
「(ホントにお金あるんですか?)」
「(心配性だな。インベントリを見て……無くてもポケットに……。あ、無いわ。)」
「(無いわじゃあないんだよ!無いわ、じゃあ!どうしてすぐ散財しちゃうんですか!?)」
「(苦労せず得た金ってすぐ使っちゃうよね。不思議。)」
「(不思議じゃないですよ!?装備も何も整えないうちから一文無しってバカじゃないですか!?)」
「(まぁまぁ、落ち着いて。ね、私もこう言ってるんだし。)」
「(何が!?反省してないでしょ!?)」
「(よーし、じゃあそんなに言うなら働いてやるよ!)」
「(下水路以外で!!!)」
こうして俺は仕方なく、依頼を受けに再びギルドへ戻る事にした。
ギルドへ戻るとすぐに受付の女性に「忘れ物ですか?」と訊かれたので、「依頼を確認し忘れてました」と涼しい顔で答えた。
「現在、Cランクの方がソロで受けられるのはこの近辺ですと、やはりアンデッド討伐ですね。魔法は使えますか?」
「はい。まぁ、簡単なものなら。」
「では、大丈夫ですね。初めての外部依頼なのでウェンデリア教会の神父と教会墓地の見廻りで宜しいでしょうか?」
「外部依頼?」
「はい、常時依頼等冒険者ギルドからの依頼ではなく、外部からの依頼を冒険者ギルドが仲介する形の依頼の事をそう呼んでおります。初めてですとトラブルも起き易い為、依頼人側の人間と共に行動して貰うのが一般的ですね。」
「そうですか。では、それで。」
「本契約は基本報酬は金貨10枚、午後7時から仮眠を含め翌朝6時までを期限とし、アンデッドの討伐数に応じて特別報酬あり、また教会神父の護衛も任務に含まれており神父死亡または重傷の場合、報酬はゼロになります。宜しいですか?」
「はい。問題ありません。」
「では、クエスト受注書にサインを。」
俺は出された受注書にサインをする。
「本契約は冒険者ギルド事務員カーメルが承りました。本日午後7時までに教会墓地へ向かって下さい。時間までに到着しなければ依頼放棄扱いとなりますのでご注意を。」
カーメルの言葉に頷き、俺はギルドで部屋を借りて買ったばかりの服に着替えた後、ギルドを出て街外れにある教会墓地へと向かった。
「(まだ昼前ですよ?さすがに早過ぎませんか?)」
「(分かってないな。早過ぎるくらいじゃないと事件は起きてしまうんだよ。俺は様々なゲームをして来たから分かる。)」
「(現実と虚構の見分けが付いてない!?)」
街外れとは言っても、高台にある街の麓にあるのでそこまで遠くはない。
30分程歩いて教会墓地に辿り着いた俺は空を見上げて日がまだまだ高い事を確認した。
「(全然夜じゃないな。)」
「(ほら!だから早過ぎるって言ったでしょ!)」
「(遅刻より良いだろ!大体墓地には教会も併設してあるんだし、そこで祈りでも捧げて時間潰せば良いんだよ!)」
「(祈りを暇つぶしに使うな、不信心者!)」
「(祈らない人よりマシだからセーフ!)」
「(もう!いつか天罰が下りますよー!)」
そんなこんなで俺は教会に入った。
教会の中は宗教画が並んではいたが、王都の教会よりはこじんまりとしており、祭壇も大きく豪奢なものではなく、少し段差の付けられた舞台の上にテーブルがありその上に小さな祭壇が置かれているだけだった。
神父は見当たらないが、とりあえず俺は神に祈りを捧げておいた。
亡者を相手にするのだし、祈っておいて損は無いだろう。
「おや?本日は葬儀の予定はありませんが、どなたかお亡くなりに?」
しばらくすると、教会に入って来た神父に声を掛けられた。
「いえ、俺、いや、私は冒険者をしているケントと言います。」
そして、俺はアンデッド討伐の依頼を受けた冒険者である事と早く来すぎたので祈りを捧げていた事を話した。
「なるほど、依頼を受けてくれたのが貴方のように熱心な方で良かったです。私は今回同行する神父のジョイスです。ところで、珍しいお召し物ですね。」
「あぁ、はい。ヴルダル帝国の軍服と同じデザインの服らしいです。珍しかったので買ったんですよ。」
「ほぉ。帝国というとそういえば、異世界人を集めて色々先進的なものを作らせているらしいと聞きますね。恐らく、その軍服のデザインも異世界人が作ったものでしょうね。」
「異世界人を集めてるんですか!?」
「はい。まぁ、帝国はウェンデリア教を信仰していないのであまり正確な情報では無いかもしれませんが。」
「へー、信仰も違って、異世界人も多いって何か得体が知れなくて怖いですね。」
「えぇ、本当に恐ろしいことです。」
そんな話をしていると、突然、人とも獣とも知れない何かの咆哮が響いた。




