第10話
次で一旦終わり!
第10話
気付くと丸一日眠っていたらしく、起きたら朝だった。
身支度を整え、宿の一階で朝食を食べていると珍しくチッチキから声を掛けて来た。
「(レベルも上がりましたし、別の土地へ行きませんか?)」
「(ギルドから動くなって言われたろ?どうした急に?)」
「(いや、何となく嫌な感じがしたので……。)」
「(分かった。じゃあギルドにこっちから出向いてとっとと街を出ようか。)」
「(すいません。ありがとうございます。)」
「(いいよ。外で射撃の練習もしたかったし。)」
存外悪い事が起きそうな予感というのは馬鹿に出来ない。
俺には分からないがチッチキが感じ取れる何かがきっとあったのだろうと思い、宿を出てギルドへと向かった。
少し遅めに起きたからか昨日ほど人は居らずスムーズに受付に辿り着けた。
街を出たいので事情を説明する必要があるなら早くして欲しい旨を受付嬢に伝えた。
「儀礼的なものなので外へ出る必要のあるクエストを受ければ問題無く出られますよ。」
「じゃあ、その外に出るクエストを受けさせてくれ。」
「かしこまりました。現在残っているのは、メリディアス領までの商人の護衛がございますが、かなり遠いですよ?大丈夫でしょうか?」
「構わない。それで達成報告はどこで?」
「えー、メリディアス領のギルドでお願いします。報酬は金貨40枚。野営道具はギルドから支給致しますが、食材等、その他のものはご自身でご用意下さい。クエスト内容は商人たちの荷をメリディアス領の領主の元まで運ぶ事。また商人たちが全員生存した場合、金貨40枚上乗せだそうです。出発は本日昼。宜しければ書面にサインを。」
「了解した。」
そして、俺が書面にサインをしてギルドを出ようとした時、ギルドマスターが二階から降りて来た。
「これより、イエストルダムの街は厳戒態勢を取る事になった。冒険者はこの街から出る事は許されない。各自街の巡回にあたり不審者や不審物への対処を求む。以上だ。」
そう言った後、ギルドマスターは俺の方に向かって手招きをした。
逃れられなかったか。と思いつつもギルドマスターに続いて階段をのぼり二階の執務室へ入る。
「えー、俺は先程護衛任務を受けたんですが?」
「今回、外に出る依頼は全て取り消しだ。お前さんの情報と教会からの情報で下水路を地上から魔法で探らせた結果、何らかの化け物がいる事が分かったからな。」
「場所が分かっているのなら討伐へ向かえば良いのでは?」
「いや、それは危険だ。お前さんも知っての通り、下水路は暗く足場が悪い。そんなところで得体の知れない化け物と戦って勝てる奴はAランク以上の冒険者だがうちにはお前さん含めてCランクが5人居るだけだ。」
「あれ?そういえば学園でギルドの職員はAランク以上の冒険者だって聞きましたけど?」
「いや、それも変わってしまった。初めてお前さんを案内して男もそうだが優秀なAランク冒険者だった職員はクビだそうだ。誰に吹き込まれたのか王都の本部連中は受付はギルドの顔だからと受付は女にするようにと言ってな。」
「えぇ!?そんな事あるんですか!?」
「あぁ、あるさ。そんなわけでうちにはAランク以上の冒険者は居ないんだ。そこで相談だが、お前さんたちCランク5人で討伐してくれないか?」
「討伐ですか……。」
「戦力は多い方が良いだろう?特にどんな敵か分からない時には。」
「確かに。分かりました。では、どこでその4人に会えば良いですか?」
「感謝する。4人には既に隣の部屋で待って貰っている。」
チッチキの予感もありあまり乗り気では無かったのだが、まんまと討伐をさせられる事になってしまった。
諦めて俺は隣の部屋へ向かう。
部屋の中には円卓を囲む4人の男女が居た。
部屋に入って来た俺を見るなり、まずは派手な女が口を開いた。
「あら?ようやくおでましね。逃げちゃったかと思ったわ。」
「逃げても構わなかったのか?ならば今からでも街を出るんだが?」
売り言葉に買い言葉と分かってはいるが、出るつもりだったのに足止めされたのだイラッと来ないはずがない。
これを言い訳にこの街から出ようかと思った矢先、
咄嗟に白髪混じりで片目に傷のあるゴツいおっさんが割って入って来た。
「よせ、ケリー。すまないが、コッチが悪いのは分かっちゃいるが、あんたの方も抑えてくれ。」
死ぬほど出て行きたかったが、おっさんの顔を立てて席に着く事にする。おっさんの見た目にビビったわけでは断じてない。
「すまんな、ケリーは下水路に行くって事で苛立ってんだ。っと、そうだ、自己紹介がまだだったな。俺はジャドソン、剣士だ。このパーティーでリーダーをやってる。」
ジャドソンが、そう自己紹介を切り出すとそこから順に自己紹介が始まった。
ジャドソンの次に自己紹介を始めたのは、金髪ロン毛でヒョロっとした感じの軽薄そうな兄ちゃんだ。
「野郎に名乗るのは気が乗らないけど、仕方がない。俺はセス、盗賊だ。おっと、本職じゃないぜ?あくまで冒険者の役割としての盗賊だ。」
この世界では何故か盗賊という役割がある。というか、元々は斥候と呼ばれていたそうだが罠を仕掛けたり騙したりと小手先の技が多い為、卑怯者と見られるようになり盗賊と呼ばれるようになったらしい。
そんな風に学園で学んだ事を思い出していると、次はモスグリーンのローブを纏った陰気な男が自己紹介を始めていた。フードで顔は見えないが聞こえる声からして若い男だ。
「僕はディラン。魔法使いだ。姉のケリーが失礼した。」
ケリーの弟ディランが自己紹介を終えた後、俺も簡単に自己紹介を済ませ、結局ケリーは不貞腐れたまま自己紹介をしなかった。
このまま行くのか、と不安に思ったのは俺だけじゃなかったらしい。
「まぁ、突然で準備もまだだろ。」
とジャドソンが建前を用意してくれたので、
俺たちは夕方に再び下水路の前に集まる事にして、解散した。
宿に戻った俺は早速、下水路で使う為の銃を作り始めた。
「(射撃訓練出来てませんけど、銃を使うんですか??)」
「(甘いなチッチキくん。射撃を外していたのは私が原因では無かったんだよ。)」
そう、実は教会からの帰りに確認してみて気付いたのだが神様が持たせてくれた銃にはライフリングが無かった。
ゲームで知っただけなので小難しい説明は忘れたが、ライフリングの無い銃での射撃はとにかく命中精度が期待できないのだ。
「(なるほど、神様が銃を使う事なさそうですし、何より異世界の神様ですから見た目は知ってても機構は知らないかもしれませんね。)」
「(恐らく、そういう事だと思う。魔法とはいえ物理法則を完全に無視できるわけじゃないだろうからな。)」
「(あれ?でも、その割に命中率高いってことは。)」
「(それ以上はいけない。とにかく銃を作るのに集中したいから静かにしていてくれ。)」
都合が悪くなりそうな会話を切り上げ、作る銃をイメージする。
狭い場所での戦闘が予想されるので、まずはハンドガンからだ。
ダブルアクションはさすがに不便なのでオートマチックピストル、出来れば最新のものが良いな。
9mm弾を使用したポリマーフレームで錆びにくいステンレス鋼、そうそうアタッチメントを装着出来るようになっていると尚良いな。
という事で、俺は目を閉じてM17を強くイメージしながら作成のスキルを使う。
10分ほどイメージを維持していると手の中に重みを感じ、目を開けて見ると黄土色のピストルが出来ていた。
確認してみるとライフリングやセーフティ、着脱式のマガジンはもちろんグリップにシグ・ザウアーのロゴまであった。
早速魔力を込めて弾を補充し、試し撃ちでもしてみようと立ち上がろうとするものの目眩がして座り込んでしまった。
「(恐らく、魔力が欠乏しているんですね。)」
「(嘘だろ?!メインウェポンにアサルトライフルを作ろうと思ってたのに!)」
「(考えてみて下さい。そんなにポンポンと無から何かを生み出すことが出来るわけ無いじゃないですか。)」
言われてみると確かにそうだが、魔法がある時点であまり納得がいかない。
だが、結局のところどうしようも無いので新たに銃を作るのは諦めた。
これまで魔力欠乏になった事は無いが、どうやら回復が早い方だったらしく1時間も休めば少しダルさは残るものの動けるようになった。
念の為、身体のダルさが無くなるまでもう1時間休んだので結局2時間動けなかったが、これからのことを考えると仕方ないことだろう。
ちなみに、回復した後にレーザーポインターやフラッシュライトなどのアタッチメントを作ろうと思ったのだが、銃では無いからか作る事は出来ず、泣く泣く俺は買い物に出る事にした。
とはいえ、遠出するわけでもないので大して買うものがあるわけでもないが、予定がある時は外に出て居ないと落ち着かないのだ。
俺はフラフラと店を見ながら歩いて時間を潰した。
せいぜい買ったものと言えば、松明と万が一に備えて露店で売られていた安物のナイフを買ったぐらいだ。




