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死んだら異世界転生  作者: 110
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淡々とした従者

4人に感謝と別れを告げて自室に戻ると、浴槽に水を浅く張り水属性の魔法を練習し始めた。


「泡が浮いて、上に向かっていく。」


シャボン玉の弱々しさをした玉ができる。

これではダメだ。もっと強い魔法を使えるようにしなくては。と何回もイメージし直すが水の膜が破れるばかりだ。

時間の存在を忘れるほど長い間ひたすらに続けたが昼光(ちゅうこう)を透かす膜を最後にガス欠になった。身体が床に沈んでいきそうになりながら浴室から出るとクランニヒが昼食を用意している最中だった。


「何をしていらっしゃるのですか。」


彼女はそっけない口調で言いながら実をベッドまで連れていった。


「魔法の特訓をしてたら魔力がつきちゃって。」


実はそれが癖なのだと分かるほど自然に世を渡るための表情を見せた。そんな実を尻目にクランニヒは窓際に並べた食器を実の横に運んだ。


「食事はご自分で食べられますか?」

「あ、はい。」


返事を聞くとクランニヒはさっさと部屋を出ていこうとしたが、コンッと背後で音がして振り返る。実を見ると木製のスプーンを落としてしまったようだ。

取り換えますと食事を運んできたワゴンから替えのスプーンを取り出した。申し訳なさそうに実が受け取ろうとするがクランニヒは渡そうとしない。


「手が疲れて持てないのでしょう。」


ベッドに浅く腰をかけて、トマトの酸味をふわりと香らせる豆のスープを一掬いして実の口元に運んだ。


「え、あ、自分で食べますよ。」

「食べにくいと食欲も滅入ってしまいますし、何より食事が冷めて美味しさも半減してしまいますよ。それから食事と睡眠は魔力を回復させる助けにもなります。今は恥ずかしがらずに大人しく食べて、よく眠ってください。」


そう言われて実はすごすごとスプーンに口をつけた。

気恥ずかしい時間が過ぎ、クランニヒが空の食器を片付けていると実が話しかけた。


「あの!」

「何ですか。」

「何属性の魔法が得意何ですか。参考までに魔力の使い方を聞きたくて。」


1秒にも満たない時間、部屋が静まると咄嗟に言葉を繋げる。


「話せなかったら別にいいんです!王様につくような人ですから話せないことは多いですよね。」


隙をつくようにクランニヒの顔を伺うと少し当惑している。


「いえ、返答に少々困ってしまって。私は魔法が使えないんです。私だけではなく警備隊の殆どは魔力を持っていなかったり、持っていても自治をするには力が足りません。そういった者達が剣を取っているんです。お力になれず申し訳ありません。」

「そんな、謝らないでください!こちらこそ、すみません。」

「....以前、街の視察に行ったときに話せなかったことがあります。実様が眠るまでの間、お話させていただいてもいいでしょうか?」

「勿論です。是非聞かせてください!」


彼女は初めて実の前で柔らかい表情をして、無駄のない動作で食器をワゴンに乗せてドアの外に出したらベッド脇に椅子を移動させて座った。


「実様は今、保守派の自治領にいらっしゃいますから保守派が追いつめられた小動物のように見えるでしょうか。でも紛争がなかった頃も弱者は声をかき消され血と涙を流していました。あの時の少年のように虐められたり、なりたい職業につけなかったり、やっとありつけた職では魔力を持つ者達に馬鹿にされ、剣を持たされて娯楽のために戦わされたりしていました。数年前まではこんなに大きな戦争は起こったことがありませんでしたが森にいる狂暴な野生動物を殺すのは剣を持つ警備隊の仕事で、地方で労働力が足りないとあれば向かうのは魔力の無い者ばかり。そうやって現在の革新派の不満は溜まっていきました。」

「クランニヒさんは革新派になろうと考えたことはないんですか?」

「無いと言えば嘘になります。しかし私が革新派になったら、親が保守派で仕方なく保守派にいる魔力の弱い子供達を誰が守るのかと思いました。」


そう言うと彼女は窓の外を見た。当然2階の部屋からでは人でごった返す商店街も、のどかな街も見えないが彼女には何かが見えているのか窓から入る風に睫毛を(しばた)かせて笑った。


「レッカー様の話を覚えていらっしゃいますか。あの方はずっと城から出ることなく生活してきていて、まるで革新派の主張を理解しようとしていません。この世界は本当に実様のいた世界よりも狭いのでしょうか。世界を狭くしているのはもしかして...。」


ここまで言葉を続けてしばらく顔を伏せた後、誤魔化すように笑った。


「愚痴っぽくなってしまいました。今日はこれ以上話すと余計なことまで話してしまいそうですから、ここまでにさせてください。」

「また、何か聞かせてください。話すことがなければ俺が話します。話すことがなくても話しましょう。お互いの世界を広げるために。」

「是非。」


クランニヒはそう言ってドアの向こうに消えてしまった。

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