憧れた君に
あれから実は部屋に一人で籠ってレッカーとの会話を思い出していた。
あの時、うなだれるレッカーを見て同情はしたが自分にはどうすることもできないだろうと思った実は本当は断ろうとしていた。そう意を決したとき真と昔にしたの会話がふと甦ってきた。
「そんなに人と関わって疲れないの?いつも自分のことは二の次って感じでさ。」
「まぁ疲れないってこともないよ。でもさ誰かの力になれるって凄いことだと思うんだよ。漫画の登場人物達みたいに俺達は魔法とか超能力とか使える訳じゃないけど誰かの力になることはできるんだ。だから俺は誰よりも沢山の知識を吸収して、それを使って誰かを助けたいって思ってんだ。それに俺の話はお前が聞いてくれてるじゃん。そんなに苦しくないよ。」
損な性格してるなと思うと同時に実は真に憧れた。こんな人になれたら。人生をやり直せるなら真になりたいと思った。
実はレッカーを見て今がその時なんじゃないかと考えた。これまでの自分を知る人間はこの世界にはいない。きっと真なら最大限にレッカーの力になろうとしただろう。これは真のようになれるチャンスじゃないか。
そんな考えが頭によぎった。すると不思議なことに断るために準備した言葉ではなくさっきまで思ってもいなかった言葉が口からこぼれていた。
自分は真になれないことは十分に理解してる。今だって叫びだしたい程に未来が恐ろしい。それでも実は自分を変えるために真の真似事をすることにした。
「ずっと籠ってても、何も変わらないよな。」
行動を起こそうとドアを開けると目の前にはクランニヒがいた。
「ずっとそこに居たんですか。」
「貴方の護衛でもありますから。」
「....街に行きたいんですが...。」
「護衛いたします。」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
馬車に乗って人が集まる商店街に向かった。
商店街は部屋の窓から見えた通り賑やかな場所だ。ここだけ見たら暴動か起こるなんてとても信じられなかった。
「窃盗や暴力が日々行われているようには見えませんね。」
「実様、民衆の腰を見てください。」
言われた通り視線を落とすと何人かの人が腰に大きな剣を携えているのが見えた。
「剣を持っているは警備隊です。あのように剣を見せて牽制するんです。当然、暴動が起これば剣を抜くこともあります。これだけの警備がいてここはやっと平和な日常が守られるのです。警備隊が少ない地域にも行ってみましょう。」
商店街を通り抜けると警備隊の人数も段々と少なくなり簡素な街に出た。店はあるが商店街のように外に商品を並べることは無いようだ。賑やかな声から遠ざかっていくと子供の怒鳴り声がした。その声を聞くやいなやクランニヒは馬車を降りて声のする方向へ走っていった。実も後をついていく。
「何をやってるんだ。」
クランニヒが睨み付けるようにして言うと、路地裏から3人の子供が逃げていった。取り残された少年は座り込んで泣いている。所々にアザや擦り傷があることが分かる。あの子供達にやられたであろうことは容易に想像できた。
少年に簡単な手当てして頭を撫でるとそのまま何も言わず戻っていった。再び馬が走り出すとクランニヒは話し始めた。
「魔法は本人の先天的な才能に依存します。15歳から多くの者は体内に保有できる魔力量が延び始めますが、産まれたときには既に使える魔法の属性が決められていて魔力が強いものと弱いものに別れます。弱いものはあの少年のように幼少気から虐げられ、大人になっても職業が限られます。
この現状を変えようとしたのが革新派でした。科学の力を使って魔力の差を埋めようとしたんです。」
「少年もいつか革新派に加わるんでしょうか。」
「分かりません。しかし革新派には虐げられてきた人間が多いようですから保守派にいるより安心して過ごせるでしょうね。」
何と返したらいいか分からない実は黙ってしまう。
自分もこの世界に産まれていたら革新派にいたかもしれない。今は転生者として存在してるからクランニヒに守ってもらっているだけの木偶の坊の自分を恥ずかしく思った。
悶々と考えているとまた馬車が止まった。
「ここは革新派が攻めてきた街です。さらに先に進めば革新派の領域に入ります。科学の力はまだ調査中で未知数。危険を避けるためにこの先にはレッカー様の許可無しには行けないようになっています。」
城周辺とは比べようもないくらいに荒廃した街が冷たい風を吹かせて二人の前に広がっている。空を見上げるとその街の上には黒くて厚い雲がかかり太陽の光を遮っていた。
「あの雲は....。」
「1年前から革新派の街に現れました。原因は分かっていません。」
夕暮れの空と暗闇に分けられた対照的な空を見つめて立ち尽くしていると声をかけられた。
「もう帰りましょう。夕食の時間になります。」
我に返り大人しく踵を返してその場を後にした。