ネガティブな青年
昼下がりの午後、大学生の藤原実は授業が終わると誰かと言葉を交わすこともなくすぐにリュックを掴んで講義室を出た。人と人の間を縫うように早歩きで校門に向かうと、幼馴染みの小鳥遊真が友達と門近くのベンチに座っていた。
「ごめん、待たせた。」
そう言うと真は「じゃあ明日な。」と友達に声をかけて実の横に並んだ。ふと真の友達に目をやるとこちらを怪訝そうに見ている。思わず勢いよく顔を背けてしまった。
「会話遮っちゃった?」
「いや?何も話してなかったよ。」
では何故あんな顔で見られたんだろう。何かしただろうか。嫌われてるのか。話したこともないのに?とグルグル考えていると気分が落ち込んできてしまった。
「真はいいな。他人とすぐに仲良くなれて。羨ましいよ。」
「お前、人付き合いが本当に苦手だもんな。」
そう笑う真が恨めしい。
「誰かと仲良くなりたいなら相手の話を聞いてあげたらいいよ。自慢話とか愚痴とかさ。相手を誉めると仲良くなりやすいぞ。」
「まず初対面の人に話しかけられないんだって。」
「挨拶からだな。」
実の眉間にシワが寄って苦虫を噛み潰したような顔をしたかと思えば、何か思い出したような表情をして言った。
「あ、漫画の新刊出るから本屋よっていい?」
「今度貸してよ。」
「読み終わったらな。」
中身のない話をしてしばらく歩いていると後ろからクラクションの音がした。あまりの大音量に振り向くと二人のすぐ後ろには大型トラックが迫っていた。危険だと思う間もなく実の身体は弾き飛ばされアスファルトに打ち付けられる。
あれ...身体が動かない。痛い。何で俺の腕あんな曲がってんだ。ぼうっとする頭で考えるが状況が上手く飲み込めない。
実の記憶は青い空を最後に途切れた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
気がつくと冷たい地面の上に寝ていた。目を開けても暗闇のなかで何も見えない。自分が本当に目を開けられているのか疑わしいほどだ。頭はまだ鈍器で殴られたように痛み、身体を起こそうとしても全身に力が入らない。かろうじて呻き声のような声を出すことができた。
「起きましたか。気分はどうですか?」
「身体に負荷がかかりすぎてしまったみたいだね。」
コツコツとなる足音が女の声と共に向かってくる。
何も答えられないでいると別の誰かが肩を組んで実を立たせた。
暗い部屋から出るとランプの光が石畳の道を照らしていた。
鈍痛のなかで何時間とも感じられる時間を引きずられるようにして歩いた。身体の痛みが引き始めた頃には石畳の道は青いじゅたんがひかれた通路になっていた。広い部屋に通されると実の身体はベットに投げ出された。
「自分の名前は言えるかい?」
「....み.....の..る。」
「そう。実、今日はもうお休みなさい。また明日。」
女はそう言うとまたコツコツと足をならしながら部屋から出ていくと、実は焦点の合わない目をゆっくりと閉じた。