転生
えーと……ここはどこだ?
真っ白で明るくて何もない空間に一人でいるようだけど……。
なんでこんなとこにいるんだ?
思い出そうとしても何も思い出せない。
いつも通りに過ごしてた……ような気がするけどいつも俺って何してたんだっけ。
何も思い出せない。親の顔すらって……親がいたかもわからない。
『それはあなたが死んでしまったからですよ。』
!?どこから声が……?というか死んだって……。
『そんなことは気にしなくていいですよ。今からあなたは転生するんですから。』
待ってください!なんで俺は―――
『死んだのかって?そんなこと聞いても意味ないでしょう?未練になるような記憶は残ってないはずですから。』
確かに生きていたころの記憶なんてほとんどなくて覚えてることと言ったら一般的な常識や言葉くらいしかない。不思議と違和感はほとんどなくて思い出したいとも思わないのが本音だ。
でも、記憶がなかろうとこの状況を素直に飲み込んだりできるわけがない。
『なぜですか?前世に未練なんてないでしょう?何よりあなたにできることなんて私の質問に答えることだけです。』
……確かに言うとおりだ。動こうとしても動けないし心の中で考えるだけで声を出すこともできない。慌てる理由もなければ急ぐ必要もない。そもそもとしてこの状況から抜け出したとして困るだけなのだ。
なんて冷静にいられるのも記憶がないおかげなのか?
『はい、だいぶ落ち着いたようですね。質問をしたいのですがよろしいですか?』
えーと……それはどういった質問ですか?
『簡単に言うとどんな世界に転生したいかって質問です。他の世界でしてみたいことでもいいですよ?』
んー……。
なら魔法を使ってみたいですね。
あと獣人とか見てみたい……つまりはラノベみたいな世界に行ってみたいです?
『了解です。まあ、私には何であんな危険な世界に行きたがるのか理解できませんがね。』
そんなに危険なんですか?
『当り前じゃないですか。成人になれるかどうかも怪しいですもの。』
えー、じゃあ変えたいな。
『無理ですよ?ここでは前言撤回が不可能です。』
理不尽だ……。
ま、多少危険でも行ってみたいことには変わらないからな。
魔法と獣人。剣や戦闘か。
楽しみだなぁ。
『え?何言ってるんですか?ここでの記憶なんて消えるにきまってるでしょう?もちろん今残ってる前世の記憶もです。悪影響が向こうの世界に怒ったら責任を取らされるのは私なんですよ?』
え!?ちょっちょっと待ってください!それじゃわざわざファンタジーの世界に行っても意味ないじゃないですか!
それに今の俺はどうなるんですか!?きれいさっぱりなくなってしまうんですか!?
そんなの嫌ですよ!?
『はい、このまま転生するときれいさっぱり今の自我は消え赤ん坊として危険な世界に放り出されます。』
どうにかならないんですか!?
『そんなあなたにぴったりな世界があります。今残ってる記憶を持ったまま行くことができ、赤ん坊からではなく向こうでの成人……つまりは十五歳ではじまり、さらにさらにチートが二つももらえるという世界が。』
う、胡散臭すぎる……というか明らかにこの世界に誘導しに来てるよなこの人。
この話に乗っていいものなのか……?
『乗っていいも何もあなたは乗るでしょう?あなたに都合のいいことしかないじゃないですか。』
なんでこんなことをするですか?
『私にとって必要なことだからですよ?』
なんで俺なんですか?
『あなたなら確実に話に乗ってくれる。あとはたまたまですよ。』
じゃあ――――
『ああもう!まどろっこしいですね!行くんですか!?いかないんですか!?』
い、行きます……。
『それでよろしい。何か聞きたいことはありますか?』
向こうの世界ってどんな世界ですか?
『たぶん想像通りのファンタジーせかいですよ?』
じゃあチートってほんとにもらえるんですか?
『もちろんです。ほしいチートを宣言してくれればすぐにでももらえますよ?』
じゃあ不死になりたいです!そして空を飛べるようになりたいです!
『早くないですか!?普通もっと考えるところですよ!?』
え?でも危険なとこですよね?俺は死にかけて戦闘なんてしたくないですから町で細々と生きていきますよ。せっかくファンタジーの世界に行くのにトラブルで死んじゃうなんてやじゃないですか。
あ、ただ歳はとる用にしてください。
死ねなくて絶望なんてのはごめんですから。
『そ、それは問題ないですよ。じゃあ空を飛ぶってのは……?』
それは単純に飛んでみたいっていうのと空を飛べば大体何からも逃げれるじゃないですか。
『そ、そうですか。宣言してしまったなら仕方ないですね。ではチートはそれで。』
ありがとうございます。ほかに何かすることはありますか?
『補足としていくつか説明があります。』
なんですか?
『いきなり過酷な世界に身を投じるので怪我などを多くすると思います。なので痛覚は一定以上感じないようになっています。これも一応私の力なのでチートともいえるでしょう。その気になれば痛覚を感じないようにもできます。』
おお……俺の不死にぴったりな能力じゃねぇか。
『向こうの世界に行ったら案内する人がいます。最初はその人が助けてくれると思うのでその人から話を聞いてください。』
それは助かる!というか一人で草原にでも放り出されたりしたらどうするかなんて考えてなかった!
『最後に、だいぶグロいと思いますので感覚を麻痺らせておきます。でないとまともに生活できないでしょうし。』
た、たしかに生活のために生き物を捌かなきゃいけなくなるかもだし人も死ぬ世界だもんな。
そこらへんの配慮もしてくれて助かります。
『では向こうの世界に飛ばしますが何か聞きたいことはありますか?』
いえ、とくには。
『ではさよなら』
意識がスゥーっと遠くなり視界が暗くなっていく。
真っ暗になったとき俺の意識が途切れた。