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プロローグ


この国はとても豊かで、みんな笑顔で、みんな仕事があって、助け合って暮らしている。

みんな幸せだって言ってるーーーー


だけど、エレナにとってはどうだろうか?


今エレナは10歳だ。産まれたばかりの弟を抱えて暗い、吹雪が吹き荒れる険しい森の中を進んでいた。


一緒に逃げた親友のオルガは大丈夫だろうか...

そんなことを考えていた。


凍てつく風が木の間を縫ってエレナの頬をかすめていた。寒さなんてどうにもない...

だって、それよりも悲しいくて辛いことはすでに起きたからだ。


エレナの父は優秀な財務官僚だった。父のおかげで裕福な生活を送ってみんな幸せだった。エレナは国立バレエ団への入団を夢見る踊りが好きなごくごく一般的な少女だった。

エレナの母は建国の父と呼ばれた人の孫にあたる人で、元国立歌劇団の歌手で頭が良くて料理が上手い人だった。エレナの身近にいて一番憧れる存在だった。


幼いエレナには理由は分からなかったが、暗い闇が迫ってそれを壊したのはわかった。

父が突然やってきた秘密警察に捕まり、死刑になった。処刑台で銃殺される父を見たエレナは何が起こっているか分からなかった。


だけど、そのあと近所の人や学校の同級生から

”裏切り者“と呼ばれ色々な嫌がらせやイタズラを受けた。


雇っていた召使いや侍女のみんなの離れていった。母とエレナと弟の三人になって、家に石が投げ込まれるようになり母が子供を連れて逃げ出すことにした。


行き先は教えてもらえなかったが、母の弟で将校のヴラドと言う人が助けてくれると聞いていた。


だけど、吹雪の中道を進んでいると軍隊に見つかって、逃げ回ることになった。

この国では定められた街以外は許可された人だけしかいてはいけないという法律があるのをエレナは知っていた。

そして、母が逃げようと目指したのは国境の先だった。


吹雪の吹き荒れる風の音の中、誰もいない凍てついた森の中をエレナと弟、母は必死に歩き続けた。


風は冷たい。街にいた時とは違う冷たくていたい風がエレナの頬を通り抜けて言った。

弟はスヤスヤと眠っていた...


ダンという音が聞こえたあと、後ろを歩いていた母がずしっと音を立てて雪の上に崩れ落ちた。


赤い血痕が真っ白い雪の上にポタポタと落ちていた。


「逃げなさい...エレナ。弟をしっかり守って」


「お母様!?」


エレナはそう叫んだーーーー

母親の最後に笑みが頭の中にこびりついて行く。


これがエレナにとって最後の母親の記憶だった。


ーーーー


目覚ましの音で、

大人のエレナは目を覚ました。


都会の喧騒の中で、通り過ぎて行く車のエンジン音が耳に入ってきてふと現在に戻った気がした。


目を開けるとそこはいつもの自分が借りているアパートの一室だ。


「ママ!おはよう。もーお寝坊さん」


そう、娘の6歳になるソフィが前歯の抜けた生え変わりかけの歯を見せてニコニコと笑みを浮かべていた。


「あ、ごめんね。ソフィ。ママすっかり寝ちゃってた」


「いいの。ロビン兄さんがちゃんといろいろしてくれたから大丈夫!」


「それなら良かったわー」


エレナはそう言って、ベッドから起きてリビングルームに向かった。リビングルームでは弟の18歳になる大学生のロビンがエプロンをつけてエレナを迎え入れてくれた。


「ねーさん。おはよう。昨日は疲れ切ってたけどまた。お仕事が忙しかったの?」


「ええ、そうなのよ。ここ最近、色々多くって...」


エレナはそう言いながら、弟が作ってくれた。朝食に食べ始めた。

うっと一瞬、眉を潜めるような顔をしてしまう味だったが、大学で忙しい弟が時間を押して作ってくれた物だと思い飲み込んだ。


「ねーさんもしかして...」


「いいえ。ありがとうロビン」


「まずい!」


子供は正直だということは、こういう事をいうのだというのを体現するかのごとく、ソフィは叫んだ。


「ごめんね。ソフィ。兄さん料理は苦手なんだ...

今度は上手く作るから今日は我慢してね」


頰を膨らませてたソフィに対して、ロビンはそう優しい声で謝った。それを聞いたソフィは顔を元に戻して大きく頷いた。


「うん。今度は美味しく作って!」


「いい子だね。ソフィ」


ロビンはそう言って、ソフィの頭を撫でた。

それを見ながら私は無言で残りの朝食の処理に取り掛かった。

今日も仕事が忙しいからだ。


支度を済ませた各自は、それぞれ目的があるので一緒に家を後にする。エレナの運転で車に乗ってソフィは小学校へ、ロビンは郊外の大学へ行くために最寄りの地下鉄に乗る...


2人を送り届けた後、エレナは車を走らせて職場へと向かった。



エレナの仕事は一瞬でも気を抜けば身が危ない仕事だ、家族には前の仕事だったパトロール警官から新聞記者になったと説明してるが少し違う。


エレンは地下にある射撃場でいつも自分が愛用する自動拳銃を手に取った。

射撃は今は亡き夫カイウスから習った。彼は海軍将校で海兵隊に所属していたが、ある任務で失踪している。

表向きはジャングルでの作戦中に戦闘で爆死したとしているが、エレナは信じていなかった。


呼吸を整え、的に向けて狙いを定め引金を絞った。

弾丸は狙いをつけたところへ飛んで行き人を形取った的のちょうど眉間あたりに命中した。


エレナ・レナホバ・スチェッキナ。法律上の本名は亡き夫の貴族の苗字をもらっている。ジャンダル伯爵夫人とでも言おう。


彼女の仕事は、表向きは製薬会社ヴェルア・ロゼが発行する雑誌の記者だが、それは仮の姿....


コードネームはナタリア。


普段は弟とひとり娘を支える姉であり母親であるが、

秘密組織として存在するヴェルア・ロゼの諜報組織に所属する凄腕エージェントだーーー


今回の依頼は、

隣国の王女が失踪した事件でタレコミ情報で住んでいる街にニューアムステルの郊外にある小さな島のとある貴族の宮殿に王女がいるとの不確定な情報が入ってそれを確かめ、王女がいれば救出するというミッションだ。


方法は、今夜そこの島で家主の主催するパーティに潜入して捜索を行うという魂胆になっている。


エレナはそれに向けて準備をしていたーーーー


空になった薬莢が地面に落ちてカランカンと乾いた金属音が射撃場の中で響き渡り、それと同時にエレナはリズムよく引き金を搾ろ続けた。

心の切り替えができたところで銃を下ろした。


「ふー。まーまーね」


to be continued.....

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