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<落下耐性:Lv999>しか持っていない最大Lv99の魔法使い、恋人が俺の代わりに勇者パーティーの一員になったので、追放された俺は前から気になっていた『世界の大淵』に身を投げました(のプロローグ)


「ルイン、お前にはパーティーを抜けてもらう」


「……え?」



 目の前で、足を組みながらふんぞり返っているパーティーのリーダー、勇者マルスが俺を嘲笑うかのように言った。

 マルスの両脇では、パーティーメンバーである武闘家シーラと僧侶クラリスが媚を売るようにマルスの腕に抱きついている。


 ここは冒険者たちが集まる王都の酒場。

 突然のパーティー追放宣言に、他の冒険者たちの注目が集まる。

 マルスは注目を浴びて嬉しそうだった。



「なに不思議そうな顔してるのよ? あんたみたいな無能魔法使い、勇者パーティーにふさわしくないって気づかないの? ねぇ、マルス様」


「いくらレベルが高くたって、特別なスキルの1つも持ってないようじゃ足手まといになるに決まっているじゃない。 ねぇ、マルス様ぁ」



 言葉を失っている俺に、シーラとクラリスが笑いながら言い放った。

 その言葉を肯定するかのようにマルスは大きくうなずいた。



「まぁ、そういうことだ。 俺たちの足を引っ張らないよう必死に努力をしたのは褒めてやる……ククッ、ご苦労様。 だが、凡人のお前がいくら頑張ったところで、俺たち天才の足下にすら及ばない、お前は勇者パーティーにふさわしくないんだ」



 そうだ……俺は勇者パーティーの魔法使いとして必死に努力した。


 マルスたちが酒場で楽しそうに騒いでいる間、俺はダンジョンに潜って1人モンスターと戦っていた。


 報酬の取り分はほとんどマルス、シーラ、クラリスの3人で分配され、俺の取り分は最低限、生活に困らない程度。

 ポーションを買うお金だって惜しい。

 俺は体に傷を増やしながらもモンスターを倒し、地道にレベルを上げていった。


 ……傷が増える件については、僧侶のクラリスが俺に回復魔法を使ってくれないというポーションとは関係のない理由もあるが。


 気づけば俺は、王都で……世界で1番レベルの高い冒険者になっていた。

 

―――レベル99

 

 人類史上、レベル99に到達した冒険者はいない。

 なぜ分かるって?

 

 俺が冒険者の最大レベルが99であることを世界で初めて証明したからだ。

 俺の冒険者カードの経験値メーターはMAXと表示されている。


 ……特別なスキルがあれば99を超えるかもしれないが。 


 勇者であるマルスだってレベル34、王国の史実に名を残す英雄でさえレベル60にしか到達していない。

 レベル99なんて、伝説になってもいいくらいの偉業だ。

 

 ……が、特別なスキルを持っていない俺はレベル34のマルスよりも……特別なスキルを持つ駆け出し魔法使いよりも弱かった。


 哀れみと嘲笑の混じった視線を向けられる日々。

 そして突然のパーティー追放宣言。


 俺の人生は散々だ。


―――だけど俺にはマリーが……。

 


「マリー、こっちにこい」



 マルスが俺から目を離し、酒場の隅っこで1人座っていた女性に声をかけた。

 女性はゆっくり立ち上がり、マルスを愛おしそうな目で見つめながらこちらに向かってきた。 


 

「な、なんでマリーが!?」



 その女性は俺の恋人、マリーだった。


 1年前、王都の本屋で魔導書を買った時にたまたま会って、それからちょくちょく一緒にご飯を食べたり、買い物をするようになった。


 勇者パーティーの魔法使いの肩書きよりも……。

 マリーは僧侶を目指していて、無事に僧侶になれたら2人で一緒にパーティーを組もうと約束をしていた。

 

 

「ごめんなさい、ルインさん。 これを見てください」



 マリーはそういって、1枚の冒険者カードを俺の前に置いた。

 

 冒険者カードに記載された名前はマリー。

 そして、職業は……『魔法使い』だった。



「な、なんで魔法使いになったんだ!? 僧侶になりたいんじゃなかったのか!?」


「……確かに、初めは僧侶になりたかった。 でも冒険者登録をして初めてステータスを見た時、とても困惑したんです……『魔法攻撃:Lv58』、わたしは回復魔法を得意とする僧侶よりも、攻撃重視の魔法使いが合っていた。 それで―――」


「それでちょうどギルドにいた俺が、マリーに魔法使いになるよう言ったんだ。 魔法使いになって俺のパーティーで活躍するように」


「そういうわけで、ルインさんとはパーティーを組むことが出来ません。 わたしは、マルス様と一緒に冒険をすることにしたんです」



 マリーは座っているマルスの背後に行き、後ろからマルスに抱きついた。

 そして自らマルスと濃厚な口づけを始めた。

 マリーの目にはもう、俺の姿など映っていない。

 

 俺の前で見せつけるかのように舌を絡めあう2人。

 マルスは十分に楽しんだ後、俺の方を向いて見下したように言った。


「そうだ、宿のカギを置いていけ。 お前の持ち物を売ってマリーに新しい防具を買ってやらないといけないからな」


「どうせなら今持っている装備や金も貰いましょうよ。 無能魔法使いには必要ないもの」


「とっとと持ち物全部わたしたちに渡して、目の前から消えなさい!」


「ルインさん、私のためによろしくお願いします」



 俺は持っている物すべて投げ捨て、酒場を出た。

 酒場から聞こえてくる冒険者たちの笑い声。

 俺はこの世界の理不尽さから逃げるように、王都を後にした。














―――ここから落ちれば、さすがの俺でも死ぬだろうな。


 垂直な絶壁が左右に延々と続いている。

 絶壁の向こう側には何もなく、ただただ底の見えない深淵があるのみ。


 ここは『世界の大淵』。


 大陸を切る取るように存在する、長くて広大な穴。

 どこまで穴が続いているかは誰にも分からない。


 以前、王国の調査団が飛行<フライ>の魔法を使って穴の中に入っていったが、誰一人として帰ってくることはなかった。

 また、気配探知<サーチ>で穴の中を調査したが、結局なにも分からなかったらしい。

 なんでも、穴の途中から魔法の効果が無くなったんだとか。


 そんな謎多き『世界の大淵』の前で、俺は冒険者カードを眺めていた。



==========


名前:ルイン


職業:魔法使い


冒険者ランク:A


レベル:99


次のレベルまでの経験値:MAX


パラメーター:

体力:183

魔力:247

筋力:120

耐久:136

俊敏:171

持久:162


スキル:

<落下耐性:Lv999>


==========



 俺は特別なスキルなんか持っていない。

 あるのはただの<落下耐性>。

 ……まぁ、Lv999だが。


 <落下耐性>

 落下時のダメージを減らす。

 1Lvにつき0.1%軽減。


 つまり、俺は落下時のダメージを99.9%カットすることが出来る。


 こんなスキル、冒険じゃほとんど役に立たない。

 魔法使いなら、マリーの持っていた<魔法攻撃>や、<魔力回復速度>、<同時演算処理>といったスキルが重宝される。


 これらのスキルを持っていない俺は必死にレベルを上げて、マルスたちの役に立てるように頑張ったのだが……。


 パーティーを追放され、有り金も装備もすべて奪われ、挙句の果てに恋人のマリーも……。


 俺には何も残っていない。

 いい機会だ。


 <落下耐性:Lv999>を持っている俺は、昔から世界の大淵に興味を持っていた。

 もしかしたら、俺だったら生きたまま底にたどり着けるかもしれない。


 それでも俺には冒険者の仕事があるし、愛する恋人もいたから、結局いままで試すことは出来なかった。


―――だけど、今なら


 俺は勢いよく、深淵の中に飛び込んだ。








 



 



 世界の大淵に身を投げてから30秒。

 周りの空気が変わった。

 何かが無くなってしまったような空虚な感じ。


 そういえば、穴の途中で気配探知<サーチ>の効果が消えたとか言っていたな。


 俺は落下しながら初級魔法の火球<ファイヤー・ボール>を唱えた。



「火球<ファイヤー・ボール>!」



 魔方陣を描くために、魔力を手に集中させ体外へと放出したが、魔力は手から出た瞬間に霧散して消えていった。

 これでは魔方陣を描くことが出来ない。


 ……なるほど、飛行<フライ>で穴の中に入っていった調査団たちは、途中で魔方陣を描いていた魔力が霧散して魔法を維持できなくなり、真っ逆さまに穴の底へと落ちていったんだろう。

 


 世界の大淵に身を投げてから4分。

 今まで真っ暗だとばかり思っていた穴の底に、小さな光がポツンポツンと灯っているのが分かった。

 ……まるで、夜空に輝く星々のようだった。

 

 その1分後、その光の正体が分かった。

 世界の大淵の底には、光り輝く木々が生えていたのだ。

 

 真っ暗なはずの穴底のところどころに、光を放つ木が集まって生えている。

 これが星々の正体だった。


 ……だがそれが分かったということは、あと数秒で地面に到着することを意味する。


 案の定、数秒後に俺は硬い地面に激突した。

 途中から空気抵抗で速度が一定になったものの、落下の衝撃はものすごかった。

 発動する<落下耐性:Lv999>。


 体に激痛が走る。

 目の前が赤く染まった。

 足がまったく動かない。

 かろうじて動く左手でポケットの中から冒険者カードを取り出した。

 カードを目の前に持ってくる。


 体力……1


 すげぇな。

 ギリギリのところで生きているのか。


 冒険者カードに表示されている体力は1だった。


 奇跡的な生存。

 だが、俺はもうすぐ死ぬ。


 ポーションなんて持っていないし、回復魔法も使えない。

 誰もいない世界の大淵で助けを呼んでも無意味だ。


 ……回復魔法を覚えていても、ここでは魔法が使えないのか。


 逃れられない死がすぐそこまで迫っているというのに、俺の心は自然と穏やかだった。

 俺は心のどこかで、死を望んでいたんだ。

 

 『世界の大淵』の謎を暴いてやる。


 正直、そんなのどうでもよかった。

 

 俺はただ、この残酷な世界から逃げ出したかっただけだ。

 ……最後に、俺を苦しめた無能なスキルに復讐をして。


 ……いや、それもただの逃げだ。 

 俺が本当に復讐したかった相手は……。


 消えていく意識、赤く輝く木々たち、何かの羽ばたく音、鈴の音のような少女の声。


 俺は深い眠りについた。











 


「…………うう」



 俺は、どこにいるんだ?

 ……そういえば、世界の大淵に飛び込んだんだっけ?

 

 そして、地面にぶつかって体力が1になって。

 ……なんで俺は生きているんだ?


 そういえば、気を失う直前になにかの羽音と少女の声を聞いたような。

 ……そんなはずはない、こんなところに人がいるわけがない。

 きっと幻聴だろう。



「目が覚めた?」



 ほらまた幻聴が。

 いや、死後の世界とかだったらあるいは。


 しかし、やけに近くから聞こえたような……。

 あと、なんか頭の下に柔らかな感触が……。

 それに、頭を何かに撫でられているような気が……。


 俺はゆっくりと目を開けた。


 目を開けると、息のかかるようなすぐ目の前に少女の顔があった。 

 青色の瞳が、俺の様子を(うかが)うように見つめている。

 


「うおっ!? ―――いたッ!」


「え? ―――あぐっ!」



 俺は驚いて跳び起きた。

 そのとき、俺の額が少女の鼻にジャストミートし、2人とも地面にうずくまる。


 なんで少女が目の前にいるんだ?

 さっきの頭を撫でられている感覚は、この少女が俺の頭を撫でていたからなのか?

 頭の下の柔らかい感触は膝枕……?


 それはそうと、おでこが痛い……。

 

 ……あれ?

 おでこ以外はぜんぜん痛くない。

 

 俺はおでこを手で押さえながら体を見渡した。

 落下の衝撃でできた傷はおろか、冒険でできた古傷もすべてなくなっている。



「な、なんでいきなり頭を上げるのよ……?」


「す、すまん……つい驚いてしまって」



 俺はおでこを手で押さえながら、少女の方を見た。


 鼻を押さえていて良く分からないが、白い透き通るような肌、青いきれいな瞳に長い艶やかな銀髪、そしてその銀髪から覗かせている長く尖った耳。

 銀髪のエルフ……初めて見る。


 ……って、鼻を押さえている手から赤い血がしたたり落ちている。



「ちょ、鼻血でてるぞ!?」


「え……ホントだ!?」



 少女は赤く染まった手を見て素っ頓狂な声をあげた後、その辺に生えていた草を掴み、丸めて鼻の穴に差し込んだ。



「そ、その草だいじょうぶなのか?」


「もちろん、これは治癒効果のある草だからすぐに鼻血もおさまるわ!」



 少女は腰に手を添えて、仁王立ちになりエッヘンとした。

 少女は得意そうだったが、鼻の穴には治癒効果のある草がぶっ刺さっている。

 鼻の下の白い肌は、血のせいで赤く染まっていた。

 

 ……鼻血の原因である俺が言うのもなんだが、マヌケな絵面だな。 

  

 

「えっと、色々と申し訳なかった。 助けてくれたのは君なのか?」


「そうよ! 血だらけで倒れていたあなたを助けてあげたのはこのわたし、レミリアよ!」



 レミリアと名乗る少女は、より得意げにエッヘンとした。

 いや、だから救ってもらった俺が言うのもなんだけど、マヌケな絵面だな。


 ん?

 レミリアの背後に、不思議な黒い光沢のある壁があった。

 なんなんだ、あの壁は?



「―――と、我だ」



 とつぜん、頭上から低く唸るような声が聞こえてきた。

 おどろいて上を向くと、そこには禍々しい黒龍の頭があった。

 黒い壁だと思っていたもの……それは黒龍の体だったのだ。



「こ、黒龍!?」



 俺はとっさに杖を構え……ようとしたが、そういえば勇者マルスに投げつけたんだった。

 というか、世界の淵の中では魔法を使うことが出来ない。

 

 俺がどうしようかあたふたしていると、



「そう驚くでない、我の名前はガイウス。 我に敵意があったら、とっくの前にお前は死んでいる」



 黒龍……ガイウスが話しかけてきた。


 そ、それもそうだな。

 体力1の俺を抹殺するのなんて、この巨大な黒龍ガイウスにとっては朝飯前だろう。

 いや、誰にでもできるか。


 

「死にかけてたこの人に口移しで治癒の実を食べさせてあげたのはわたしよ。 だから助けたのはわたし」


「いや、治癒の実があるこの場所まで運んでやったのは我だ。 つまり助けたのは我」



 醜い争いを始める1人と1匹。

 正直、どっちでもいいんだが……口移し?



「……お前、なにか変なことを考えていないか?」



 レミリアと言い争っていたガイウスが、目を細めて疑うような視線を向けてきた。

 別に変なことなんて考えていない。

 俺にはマリーが……そうだった、マリーはもう。



「き、きゅうに悲しそうな顔になってどうかしたの?」


「……いや、何でもない」


「そう……ねぇ、あなた上の世界から来たんでしょ!?」


「うおっ」



 心配するように俺の顔を覗き込んでいたレミリアは、急に目を輝かせて迫ってきた。

 俺はまたもや驚いて、石につまづいて転んでしまった。

 レミリアも覆いかぶさるように地面に倒れた。


 好奇の目が、すぐ目の前でキラキラと輝く。

 レミリアは興奮して息遣いが荒くなっている。



「ちょ……近いっ!」


「あ、ごめんなさいっ」



 レミリアはハッとして後ろに下がり、正座をした。

 顔を赤らめながら、申し訳なさそうに下を向いている。



「すまないな。 娘はずっとこの世界で暮らしてきたから、上の世界が気になっているんだ」



 ガイウスが低い声で謝った。

 いきなり頭上から話しかけられると、ビックリするのでやめて欲しい。


 レミリアとガイウスは、世界の大淵の底でずっと暮らしているのか。

 周りを見渡すと輝く木のほかに、見たことのない実がなっている木も生えている。

 遠くの方からは微かに水の流れる音もするし。

 生活するには困らなさそうだ。


 ……人々が世界の淵の底がどうなっているのか知りたいように、世界の淵に住むレミリアも上の世界のことが知りたいんだな。


 見知らぬ俺を助けてくれたんだ。

 お礼に、上の世界の話でもしてあげよう。



「俺の名前はルインだ。 助けてもらったお礼に、上の世界のことを話そうか」

 

「ホント!? よろしくお願いします、ルイン!」


「そうだな、まずは――――― 

日曜に3作品目投稿すると言って水曜になってしまったこと、心より反省しております_(._.)_


本編では、世界の大淵の生活を楽しんだあと、町に戻ってTUEEEするとともに勇者たちに復讐できればなぁと思っております。


急いで書いたので文章がおかしかったり、脈絡がアカンことになっているかもしれません。

なにか気になったら教えてください_(._.)_


最後の4作目は……そのうち出します。


そういえば、みなさんはオーバーロードⅢ見ていますか?

自分はコミックしか買っていないので、続きが楽しみです。


……え? 作家の端くれだったら小説買え?


貧乏大学生に1300円は高い(確信)


それと、リゼロの映画が10月に放映されますね。

ちょうど近くに(バスで30分)、リゼロが放映される映画館があるのですが……金が。

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[一言] こちらも続きをください……
[良い点] 面白かったです!続きまってます! [一言] 風が吹き荒れてるとかにしないとパラシュートみたいなもので降りれてしまうのでは?
[良い点] あ、これ読みたい。すごく読みたい(・∀・) [一言] ドラゴンは上の世界に行けそうだけどなぁ。
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