4.ボッチが初恋をすると不幸せになった件について
これは巷で話題になっている話のくだりをネタにし、お酒とつまみを飲み食いしながら宴の席ではなした…佐藤君のしょうもない内容の物語である。
4.ボッチが初恋をすると不幸せになった件について
それは、部署を異動させられてから数日後のことだった。
「あなた、この前異動になった人ですよね」
「う、うん…そうだけど…てか誰?」
「覚えてないんですか!?前、同じ部署だった…」
「あ、ああ…フフ」
退社する直前、いきなり黒髪ロングの目が宝石のように奇麗な美女から話しかけられた。
僕は生まれてこの方同世代の美女から話しかけられたことがないので、何かのフラグ化と感じながら、話しかけられたうれしさのあまり、顔がにやけてしまった。
「顔がにやけていて気持ち悪いですよ」
「え…あ、ごめんごめん」
一発でばれた…
話を聞くと、彼女は前の部署にいたOLの佐藤さんということが分かった。
僕も佐藤だからすごいややこしいのだが…
佐藤さんは理不尽な理由で異動させられた僕のことを気にかけて話しかけてくれたようだった。
「佐藤君、私たちの部署の女子たちのせいでごめんね」
「いえいえ、クビにならないだけましですって…」
「そう!?よかった。みんないけないことしたな~って反省してたんだよ。でさ…」
その後、彼女から話が続いた。
内容はそっけないことで僕は全くと言ってもいいほど興味はなかったが、彼女の姿に魅了されてそのまま聞いてしまった。
佐藤さんからの一方的な話が終わると、彼女から連絡先を交換いい?と尋ねてきた。
僕は口車に乗せられるがままに連絡先を交換してしまった…
後に後悔することになることはこの時知る由もなかった…
「じゃあね、佐藤君」
「うん、佐藤さん」
佐藤さんはことを済ませたような顔をすると、僕に声をかけてから会社を後にした。
やっぱり名字が同じだとすごい紛らわしい…
そう思いながら1分後、社内にできた新しいコンビニでお酒を買い、僕も会社を後にした。
20分後、酔いがまわっている僕に突然、電話がかかってきた。
ボッチの僕に連絡をくれるのは異動を命じる上司しかいなかったので、ついにクビが通告されるのかと胸がドキドキした。
僕は恐る恐る電話に出た…
「もしもし、佐藤です。異動ですか?クビですか?それとも…ご注文はう〇ぎですか?当然クビですよね…わかってました…短い間でしたがお世話になりました。僕はダメな人間なんですよね、ぐしゅっ…もう泣けてきました。それでは…」
「ってちょっと待ってよ、佐藤よ佐藤!!何を勘違いしてるの佐藤君」
この時今の部署の上司の名字が佐藤であることをふと思い出した…
「やはり上司の方でしたか…今度はどこの部署に異動するのですか!?」
「いや、だからちがうって!!ついさっき連絡先交換したばかりの佐藤よ、何勘違いしてるの!?」
僕はこの発言を聞いて我に返った。
どうやら、電話相手を上司の佐藤と間違えているようだった…
「あ、え…ご、ごめん、また異動の通告かと勘違いしてた…」
「え!?異動!?何回あったの…それ」
「3回…」
「…」
彼女はあまりの驚きに言葉を返すことができなかった。
長年勤務している人ならこの数はどうってことないが、僕の異動3回というのはここ一か月の話なのだ。
「ま、まあ…何とかなるよ…」
「そ、そうかな…ぐしゅん…しょうだよね…ぐしゅん…うん…僕はぢゃいぢょうぶ…」
僕は彼女の言葉を聞いて泣いてしまった…たぶんお酒がまわってるせいだと思うが…
そこからは内容を異動の事からお互いの趣味のことにシフトチェンジして会話を弾ませた。
そして話は好きなアニメキャラの話に…
「佐藤君、好きなアニメキャラとかいますか?」
「う~ん、初恋記念日のるなこちゃんかな…、佐藤さんは?」
「えっと…アイガァ~ルのうさぺコちゃんですかね…佐藤君の言ってたキャラっていつ放送されたアニメのキャラですか…」
答えることができなかった…なぜなら、僕がつい言ってしまったアニメは大人の営みをする大人向けの作品であったからだ…
「さ…さあ、いつのだっただろうね~…あははは」
なんとかこの危機をかえすことができた。
そして、この数分後に事件は起こった…
「佐藤君のことは人として、同僚として好きだよ…」
彼女が当然好き発言をしてきたのだ…
そんなことをするのは男遊びが上手い女子だけなのだが…まだそういう知識を持ってない僕はこう言い返してしまった。
「僕も同僚として好き…だよ…、だから僕と付き合ってくれませんか!?」
電話越しだったが365日ボッチ佐藤は、人生初めての告白というものをしてしまった…
この時フッてくれれば告って振られた黒歴史として処理できたのだが、彼女は…
「いいよ、それじゃあよろしくね」
なぜか一発オーケーしてくれた。
「え!?…う、うん。よろしく」
僕は戸惑いながらも、晴れてリア充になったのだという事実を受け止めた。
その後、僕は色んなことを経験した…
帰り道に一緒に手を繋いで僕の家まで帰ったり、毎日通話やメールのやり取りをしたりなど…
結婚まで前提に考えていた僕にいきなり転機は訪れた…
それは休日のこと…
「ねえねえ佐藤君、今度ハグしませんか!?」
「え?刃具…じゃなくてハグ?リア充どもがする…あれの事!?」
「リア充どもって…君もだけどね。そうそう、日程とかいつする!?」
「う、う~ん…明日の月曜日とかいいんじゃないかな!?」
「おっけー、明日ね」
彼女がハグを求めてきたのだ…
僕はかなりウキウキしてしまった…
この後に起こることがトラウマになると知らずに…
次の日の月曜日の放課後、会社の屋上の隅にて…
―僕と佐藤さんはハグし合った。
「女性耐性のない男の人はハグした時、下部が元気になるらしいですけど、私気にしませんから…」
「お、おけ(助かった…)」
彼女がハグしていきなりそんなことを言ってきた。
この時、僕の下部はすでに元気になっていたため、かなりホッとした…
―2分後
「私左耳が弱いので触らないでくださいね…」
「あ、そうなの…とか言いつつ左耳攻めよっと…」
「や、やめて…ってアハハッ、そしたら脇腹をこちょこちょしてやろう…」
「僕そこ苦手…ってハハハッ…」
なぜかお互い感じる部位の攻め合いが始まった…
今思うと、リア充の聞いてるだけで耳障りな会話だなと痛いほどわかる。
―10分後
「楽しかったね」
「佐藤君弱すぎだったけどね…ヘタレだよ」
「へ?そう?また今度しようね、まだ付き合って5日だし…」
「うん、その時はキ…キスも…」
ハグは無事終了し、いつも通り電車で一緒に帰った。
―50分後
それはお互い家についている頃…
メールでこんな文章が送られてきた…
「佐藤君、ごめん、別れて、本当にごめん」
その時、僕は頭の中が混乱してよくわからなかった…
「え?なぜ?」
聞き返すと彼女からこう文章が送られてきた。
「佐藤君が嫌いだからってわけではなくて、元彼(前付き合っていた男性)と復縁するから…」
僕はようやく状況をつかむことができた。
人生で初めてフラれたようだった。
元彼といざこざがあって一度別れたとは聞いていたが、まさか今付き合っている僕と別れて前に付き合っていた人を選ぶなんて…ふざけるなとこの時思った。
次の日、最寄り駅で彼女に会うと、まるで別人かのように僕に接してきた。
彼女はうつむいたまま、僕とは目を合わせず「うん、そうだね…」くらいしか話さなくなった…
僕は必死に話しかけ続けたが状況は一向に変わる気配を感じさせなかった…
復縁する彼氏のことについて僕が悪口なしで聞いてみると彼女はこんなことを僕に言ってきた…
「また新しく恋愛すればきっと何とかなりますよ」
僕はこの時、ようやく真相にたどり着いた…
この女は色んな男を食い物にしてリア充を満喫している…クソビッチだということに!
(新しく恋愛だぁ?ふざけんなよ、一発腐った性根を俺のエクスカリバーで犯してやろうか)と、ものすごい言いたい気分だった。
前に恋愛関係でぐちゃぐちゃになった恋人を強制ログアウトさせた人の気持ちが痛いほどわかったように感じがした…
その後、会社に着くと自分のデスクに一枚の紙きれが置かれてあった。
そこには「異動命令」と書かれてあった。
冗談かと思って遅れてきた上司の佐藤に聞いてみると…
「佐藤、今日君は異動だ」
「変な冗談ですよね…」
「本当の話だ!すまんな」
即答された…
理由を問いただすと、この部署の規定で恋愛は禁止ということが一番の原因だった。それを付き合っていた佐藤さんが彼女の部署のOLに僕と付き合っていると言いふらしたところ、このことが噂として広まり、さっきまで上司が佐藤さんに事情聴取し、全て認めたため発覚したそうな。
仕事人生終わったな…
僕は必死に上司に抗議したが許してくれる余地はなかった…
余談だが、佐藤さんはこの数日後に自主退職した。
それは、元彼の中に暴力団関係者がいることが社内の探偵部署の調査で発覚し、社内全体に広まったからだ…
しかも復縁した相手とすぐに別れ、その人と今も交際し続けているとのことだ。
僕はとんでもない人と付き合っていたようだ…
このことを知ったのは、一週間後に会社に出勤していた時だった。
僕は付き合って5日で別れた彼女のことが頭から離れず、付き合うことにトラウマを持ち、数週間誰も信用できなくなってしまった…
リア充体験をしたせいで部署を異動させられトラウマを抱えたということは僕以外、まだ誰も知らない…
それ以降、僕がリア充になる事はなかった…