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グレイを愛してよ、  作者: 上森葉月
第1章
9/26

1-6 夕方(2)

 リリィは昼間来た道を戻り、与野が営む喫茶店を再び訪れる。


「こんばんはー。」


 真紀と歩いている間に陽は完全に沈み、街は青紫の光を帯びている。真っ暗になるのもすぐだろう。喫茶店内には数人の人影。会社帰りやサラリーマンや、学校帰りの学生がいるようだ。声をかけると、カウンターの与野がこちらを向き、穏やかな声で答えてくれた。


「お帰りなさい。」

「あれ?ヤマさんはいないんですか?」


 カウンターはおろか、店内のどこにもヤマの姿は見えなかった。


「……申し訳ありません。せっかく戻ってきてくださいましたのに。少し前に用事があるからと帰られました。」

「そうなんですね。仕方ないか。」


 与野はカウンターで作業をしながら、リリィに話しかける。


「それで、どうでしたか?写真は撮れましたか?」

「はい。一応は撮れました。」


 店内は濃厚なコーヒーの香りが充満している。レコードプレーヤーから流れるクラシックが心地よく体全体に浸透していくようだ。


「それならよかった。彼はまた、後日こちらに来るといっていましたから、リリィさんもまたいらっしゃってはどうでしょうか?」


 リリィはそうしますと答え、明後日改めて来ることを告げた。ヤマという人物が、どうして写真を撮ってきてほしいと言ったのかわからない。それを確かめるのはまだ先になるだろう。

 カウンターから外を見ると、すっかり日が落ちていた。青紫から黒へと色を変えた街の中、オレンジ色の明かりが灯るこの場所だけが、取り残されたみたいだ。優しい音楽と心地よいコーヒーとが拡がり、空間を満たしていった。



続く……

次話、10/18(水)19:00更新。

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