表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グレイを愛してよ、  作者: 上森葉月
第2章
19/26

2- 運命(2)

 ヤマという男性。

 突然の出会いだったのに、不思議と感じた安心感にも似た感覚。

 見知らぬ男性だったのに話を聞き、その願いまで自分が受けたことへの奇妙な納得を、リリィは感じた。

 彼は見知らぬ男性などではなかった。

 それでは彼は、リリィの事を知っていたのだろうか。

 リリィはあの時……。


「私、ヤマさんに名前を名乗った。」

「あぁ、だからだわ。あなたのことを気付いたのよ、あなたのお父さんは。」


 あの時、リリィの名を聞いて生まれた間は、リリィのことに気付いたからだったのだ。


「全部、運命的ね。こんなこと言うと、ベルに、そんなものは自分の手で作りあげるものよ、なんて言われてしまうかもしれないけど。」

「運命的ってどういう……。」

「二日前、あなたがここをたったあの日はね、十六年前、あなたのお母さんであるベルが亡くなった日なの。その日にあなたのお父さんである山津愁さんと、あなたが出会った。私は、もう……。」


 そういいながら、おばぁの頬には涙が流れていた。これまで長いこと共に暮らしてきたが、そんな風に不安定な様子で涙を流すおばぁを見たことがない。それなので、リリィも戸惑ってしまう。

 横に座り、じっと話を聞いていた真紀が口を開き、リリィもおばぁもそちらを向く。


「リリィ、ヤマさんがいるかもしれない。喫茶店に行こう。」


 ヤマは後日また来るだろうと、与野が話していた。今日行ってみたら、会えるかもしれない。

 リリィと真紀は急いで身支度を整えた。次の電車の時間まであまり時間がない。二人は急いで家を飛び出した。後ろには手を振るおばぁの姿が見えていて、せっかく帰ってきたのに、また騒々しく帰ることになり申し訳なくなる。また帰ってらっしゃい、真紀ちゃんも一緒にと、おばぁが言ってくれた。


「リリィ、また来よう。」


 昨日、駅から歩いてきた道を駆け足で戻りながら、横の真紀がそう言う。


「うん。全部が落ち着いて、そうしたらきっとまた帰ってくる。その時は真紀もまた一緒に来よう。」


 二人はもうあまり言葉を交わすこともなく、駅にたどり着き電車に乗り込んだ。電車の中でも沈黙は続いたが、それはここへ来る時のような互いに踏み込めない沈黙ではなく、まっすぐに同じものを見つめているがゆえに生じる空白だった。だから、気まずいとは全く感じない。むしろ、言葉などいらないような空気が二人の間には存在している。そのためか、電車に乗っている時間を長く感じない。


 車窓から見える景色は、朝方の白い光に照らされ輝いている。おばぁのもとへ帰る時とは異なり、無機質なコンクリートの建物や、アスファルトの道路が増えていき、反対に緑は減っていく。スティフォール家のビルがあり、与野の喫茶店があり、そして父であるヤマのいる街はもうすぐそこだ。リリィはまっすぐに外を見つめながら、電車に揺られている。車内には無機質なアナウンスが響いた。



……続く

次話、10/28(土)19:00更新。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ