2- 運命(2)
ヤマという男性。
突然の出会いだったのに、不思議と感じた安心感にも似た感覚。
見知らぬ男性だったのに話を聞き、その願いまで自分が受けたことへの奇妙な納得を、リリィは感じた。
彼は見知らぬ男性などではなかった。
それでは彼は、リリィの事を知っていたのだろうか。
リリィはあの時……。
「私、ヤマさんに名前を名乗った。」
「あぁ、だからだわ。あなたのことを気付いたのよ、あなたのお父さんは。」
あの時、リリィの名を聞いて生まれた間は、リリィのことに気付いたからだったのだ。
「全部、運命的ね。こんなこと言うと、ベルに、そんなものは自分の手で作りあげるものよ、なんて言われてしまうかもしれないけど。」
「運命的ってどういう……。」
「二日前、あなたがここをたったあの日はね、十六年前、あなたのお母さんであるベルが亡くなった日なの。その日にあなたのお父さんである山津愁さんと、あなたが出会った。私は、もう……。」
そういいながら、おばぁの頬には涙が流れていた。これまで長いこと共に暮らしてきたが、そんな風に不安定な様子で涙を流すおばぁを見たことがない。それなので、リリィも戸惑ってしまう。
横に座り、じっと話を聞いていた真紀が口を開き、リリィもおばぁもそちらを向く。
「リリィ、ヤマさんがいるかもしれない。喫茶店に行こう。」
ヤマは後日また来るだろうと、与野が話していた。今日行ってみたら、会えるかもしれない。
リリィと真紀は急いで身支度を整えた。次の電車の時間まであまり時間がない。二人は急いで家を飛び出した。後ろには手を振るおばぁの姿が見えていて、せっかく帰ってきたのに、また騒々しく帰ることになり申し訳なくなる。また帰ってらっしゃい、真紀ちゃんも一緒にと、おばぁが言ってくれた。
「リリィ、また来よう。」
昨日、駅から歩いてきた道を駆け足で戻りながら、横の真紀がそう言う。
「うん。全部が落ち着いて、そうしたらきっとまた帰ってくる。その時は真紀もまた一緒に来よう。」
二人はもうあまり言葉を交わすこともなく、駅にたどり着き電車に乗り込んだ。電車の中でも沈黙は続いたが、それはここへ来る時のような互いに踏み込めない沈黙ではなく、まっすぐに同じものを見つめているがゆえに生じる空白だった。だから、気まずいとは全く感じない。むしろ、言葉などいらないような空気が二人の間には存在している。そのためか、電車に乗っている時間を長く感じない。
車窓から見える景色は、朝方の白い光に照らされ輝いている。おばぁのもとへ帰る時とは異なり、無機質なコンクリートの建物や、アスファルトの道路が増えていき、反対に緑は減っていく。スティフォール家のビルがあり、与野の喫茶店があり、そして父であるヤマのいる街はもうすぐそこだ。リリィはまっすぐに外を見つめながら、電車に揺られている。車内には無機質なアナウンスが響いた。
……続く
次話、10/28(土)19:00更新。