2-4 故郷(2)
「それで、こちらの方は?」
おばぁこと、リリィの育ての親、都築雪枝はそうリリィに尋ねた。四十代半ばにしては服装も、表情も若々しい。意外にスリムで長身の彼女の、白髪の少し混じったボブの黒髪が風に揺れる。彼女はリリィの横に立つ真紀のことを指して、そういった。
「この人は千草真紀。私の大学の友達だよ。」
紹介された真紀は、宜しくお願いしますとはっきりとした声で言うと、深く一礼した。えぇ、宜しくねと返答したあと、おばぁはリリィのほうを向いて、
「素敵なお友達ね。」
と言った。
リリィはその一言がなんだかうれしく、思わず微笑んでしまう。
「それにしても、向こうに行って二日しかたってないのに帰ってくるんだもの。驚いたわ。とりあえず、中に入りましょう。」
そう告げると、足元に置かれていたスコップを拾い上げ、家に向かう。リリィと真紀の二人も後に続いた。
テーブルに向かい合うようにして座った三人は、おばぁが入れてくれた紅茶を飲む。しばらく、他愛もない話をしていたが、真紀がリリィの袖をそっと引き、小さな声で、話してみたらという。その言葉に意を決して、リリィはおばぁのほうを向き声を出す。
「今日は、おばぁに聞きたいことが帰ってきたの。」
その言葉を聞くと、持っていたカップをテーブルに置き、おばぁはまっすぐにリリィのことを見つめた。
「聞きたいこと?」
おばぁはそう言うと、首をかしげて眉を顰めた。リリィに何を聞かれるのか全く想像が出来ていないのだろう。
ずっと話していなかったことには何か特別な理由があるのかもしれないし、だからこそ、改めて問うべきことではないのかもしれない。これほどまでに急に、話すことを強要すべきじゃないのかもしれない。リリィもそうは思っていた。しかし、これはずっと引っかかっていた自分のことなのだ。長いこと、ぼんやりとしていた自分のことなのだ。おばぁのことは大切だが、それでも自分のことを知りたい。その気持ちを一度抱いてしまった以上、押さえておくことは困難だ。
この町から都会へ出て、二日。その最初の日にヤマに出会った。不思議な光景の中、私は彼を見つけて、頼みごとをされた。それは突発的で、怪しくもあったけれど、同時に今までの平和的な日常からの逸脱を感じたのだ。曖昧で、どこか現実味のなかった自分の過去。そこに何があるのか、それを知りたい。
「スティフォールという名前のことを知りたいの。」
リリィのその言葉に、おばぁは一瞬目を見開くと、一人テーブルを見つめてしまった。しばらくのあいだ、そうしていると、おばぁがようやく話し始めた。
「いずれきちんと話さなくちゃと思ってたのよ。」
「教えてくれる?」
「えぇ、勿論よ。けれど、その前にご飯を食べない?それからゆっくり話しましょう。」
……続く
次話、10/22(日)19:00更新。