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グレイを愛してよ、  作者: 上森葉月
第2章
12/26

2-3 故郷(1)

 車窓に移る景色は次第に緑を増していき、そのことがリリィの故郷へと近づきつつあることを告げていた。ボックス席に進行方向を向いて座ったリリィは、正面に座って外を眺める真紀のことを見た。レストランから駅へ走り、ちょうどホームに到着した電車に流れるように乗り込んでから、もう一時間弱になるだろうか。リリィからも何かを話したいと感じたが、ずっと何も話さずに過ごしていた。

 真紀はいま、一体何を感じているのだろう。

 どうして自分のために、こんな風にいきなり行動してくれたのだろう。

 リリィにとって、そのことが不思議でならなかった。彼女はつい昨日、知り合ったばかりだ。顔を知っていたとはいえ、実際に話すようになったばかり。それなのに彼女は、ここまでしてくれている。とても不思議だ。

 リリィは思い切って、真紀に声をかけた。


「真紀、……しゅ、趣味とかあるの?」


 うまく言葉をまとめることができず、的外れな質問をしてしまう。それまで外をまっすぐに見つめていた真紀は、ハッと我に返るような素振りをして、リリィのほうを振り向いた。


「趣味?」


 自分の質問に恥ずかしくなり、リリィは思わず、真紀から視線を逸らしてしまう。凄まじいスピードで流れる風景を見ながら、こくりと頷く。


「趣味か。どうだろう。私は……特に無いかな。」


 表情こそ見えなかったが、聞こえたその声には憂いを感じた。リリィは今度こそと、真紀のほうを向き、もう一度聞いてみる。


「私のことは、また今度ね。」


 一言そういって、真紀はまた外を見始めた。

 そうしているうちに、アナウンスが流れ始める。もうすぐリリィの生まれた町の駅に着く。平日ということもあってか、車内には人があまり残っていない。電車がホームに到着し、リリィと真紀は降り立った。


 駅からはいつもならバスで帰るところだが、天気がいいことと、ちょうどいいバスの時間がないことから、リリィと真紀の二人は歩いていくことにした。

 空は晴れ渡り、遠く向こうに広がる山の稜線まで、澄んだ青色が広がっている。時折、何かの鳥が数羽で飛び回るのが見えた。緑と土の香りをほのかに含んだ空気を吸い込み、懐かしさを感じる。

 此処を離れたのはほんの数日前なのに、それでもそれが、もっとずっと前の事に思えるのはおかしな話だなと、思わず苦笑してしまう。


 ずっと歩いてきた道から脇道に逸れて、緑に囲まれた道を家に向かって進むと、リリィの家に到着した。それほどまでに大きな家とは言えないが、レンガ調の外装からは西洋的な雰囲気を感じる。ほかの家から少しだけ離れた位置にあったため、見た目の違いというのも気にはならず、緑の中に位置するその家のことをリリィはとても気に入っている。庭には花壇が有り、白や黄、橙など様々な色の花々が見事に咲いている。降り注ぐ陽光にきらめき、家とそばの木々、花がとてもきれいに見えた。

 家の庭で作業をしている女性の姿を確認することができた。しゃがみ込んで新しい花でも植えているのかもしれない。その丸まった背中は、わずかな時間しか経過していないのに、ひどく久しぶりに見たように思えた。

 帰ってきたのだ。


「おばぁー、ただいまー。」


 その女性は声に気付いて、こちらを振り向き驚いた表情になった。しかし、それも束の間で、すぐに笑顔になると立ち上がり、こう叫んだ。


「おかえり、リリィ!」



……続く

次話、10/21(土)19:00更新。

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