2-2 発見(2)
驚かれて仕方のないことだ。むしろ、リリィは自分自身が意外にも落ち着いていることに驚いていた。イレギュラな事柄過ぎて、戸惑いが追い付かないのだろうか。気持ちが事実についていけていないのかもしれない。けれど、それ以上に腑に落ちる部分があったこともまた事実だった。リリィには両親の記憶がない。両親は間違いなくいた。彼らのことをおばぁに聞いたこともあるが、彼女もそこまで深く話そうとはしなかったのだ。リリィにとっては幼少期こそ、呼び名の違いに違和感を覚えて悲しくなることもあったが、比較的早い時期にその事実を告げられていたため、年齢を重ねてからも改めて彼らのことを知りたいという気持ちにならなかった。
「でも、すごいな。この人たちがリリィの遠い親戚かもしれないわけでしょ。」
画面をじっと見ていた真紀はリリィのことを見て、興奮しながら言った。
「でも、全く知らないよ。おばぁなら知ってるかもしれないけど。」
リリィは、周りの人間と名前という部分で特に異なっていることを、幼い頃から感じていたし、実際にそのことをおばぁに問うたこともあったが、彼女はそれは髪の色や肌の色、使う言葉、好きな食べ物が違うように、人の個性の一つであって、つまり対して気にすることでもないと諭された。その言葉に妙に納得したものだ。そんな彼女もリリィに対して、名前を名乗るときはリリィ・グレィと名乗りなさいと言った。小さいころから、他の人が苗字と名前を持つように、あなたはリリィ・グレィと話すようにと教わっていたが、こちらに来る直前になって、改めてスティフォールというファミリーネームまで名乗るように言われたのだ。それでヤマに会った時には、スティフォールまでを名乗ったわけである。
その方針になんだか合点がいった気がする。おばぁはスティフォールという名と、その家のことを知っていたのかもしれない。
真紀が眉を顰めながら、改めてリリィにおばぁのことを聞いた。リリィは彼女のことを簡単に話す。それをすべて聞き終えると、真紀が口を開いた。
「つまり、リリィを育ててくれたおばぁって方に聞いたら、何か分かるかもしれないんだよね。」
「うん。まぁ、そうかな。」
「与野さんとか、それからヤマって人も知ってたかもしれないよね。」
「それは……どうかな?まだ、会ったばっかりだし…….。」
「よし、おばぁに会いに行こう。」
真紀は突然そう言うと、席から立ち上がりとトーバッグを肩にかけ始める。
リリィは驚いて、慌てて真紀に話しかける。
「これから行くの?」
「そう。これから行く。今日はもう大学もないでしょ。」
「そうだけど……。そうだ、さっき与野さんの喫茶店にも行くって。」
「行くよ。けれど、まずおばぁの所に行くべきよ。リリィはそこでキチンと話を聞くべき。」
責めるのとは違う、強い意志を持ったその言葉にリリィは圧倒されてしまう。果たして本当におばぁに聞いてもいいことなのだろうか?リリィが躊躇していると、真紀がリリィの手をつかみ、一緒に行くからと言った。そのまっすぐな瞳に思わず、うんと頷いてしまう。
急いで会計を終えると、小走りに最寄りの駅へと向かった。そこからリリィの故郷までは1時間半ほど電車に揺られることになる。リリィの手を引きながら、前を向いて歩みを進める真紀の姿を、リリィは必死で追いかけた。
……続く
次話、10/20(金)19:00に更新。