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グレイを愛してよ、  作者: 上森葉月
第2章
10/26

2-1 発見(1)

懐かしき体温

美しき想い出

君との時間がなんども反芻される

それは巡る血液のように不可欠で

儚き新雪のようだ

揺れる命の唄を贈ろうか

この場所に君はいないのに

苔踊る白き石の前に跪く

今も続く日々の向こう側に

幾度となく君をみる



リリィは前の日にした約束のため、真紀との待ち合わせをしていた。陽は高く昇り、照らす光がじんわりとリリィに熱を伝える。

 大学は、昼時なのもあって多くの人が行き来している。皆、学内の南にある食堂に向かっているのだろう。それを見越して、真紀と会うのは西門ということにしていた。講義の終わりに改めて話してそう決めたものの、あまり時間がなく急いでいたため、本当に間違っていないかリリィは不安になっていた。

 そのとき、遠くの方から声が聞こえた。


「リリィー!」


真紀が西門から延びる道を歩いてくるのが見えて、リリィも手を振り返す。真紀は昨日とはうって変わって、プリーツの入ったブルーのスカートに白のシャツを着ており、とてもガーリーに見える。


 リリィのところまでたどり着いた真紀は、


「ごめん。ちょっと遅れた。講義長引いてさ。ほんと、ごめん!」


と、謝った。リリィも手を横に振りながら答える。


「いやいや、そんなことないよ。大丈夫。それじゃあ、行こうか。」


 歩きながら話して、お昼は近くのレストランに行くことになった。フランスパンが有名で、リリィも耳にしたことがあった店だ。


 真紀と二人、街のなかをゆったりと歩いていく。都会は人は多くとも、皆同じ方向に同じような速度で歩いている。こちらに来た当初は戸惑ったものの、統一された動きに良くも悪くもすでに慣れ始めていた。


 たどり着いたレストランは昼のピークを過ぎたようで、ちょうどよく席に座れた。窓際のツーチェアーの席に向かい合うようにして座る。二階の席だったから、外を歩く人のことも少し先の建物も見ることができた。

 話題のフランスパンを食べ、飲み物を飲んでいると、椅子に座り直した真紀が話始めた。


「それでさ、どうするの?」


 突然の問いに、リリィは意味がわからず混乱してしまう。


「えっ、どういうこと?」

「だから、ヤマって人のことだよ。昨日会えなかったんでしょ。やっぱり渡しに行くの?」


 真紀としては、昨日の会話をしてから心配をしてくれたらしい。眉をひそめて伺う表情が、そのことを如実に物語っている。


「うん。そのつもりだよ。せっかく撮ったしね。ただ昨日はいなくって。もう一度行こうとは思うけど。」

「……よし、リリィ、あたしも一緒に行くから、今日、これからそこの喫茶店に行こう。」

「一緒に?これから?」

「うん。心配だしね。とはいっても、まだ休憩中かな。もう少ししたら行こう。」

「う、うん。」


 残りの飲み物を飲み終える前に、追加でフルーツパフェを頼んでみた。予想外に大きくて驚き、二人で笑った。写真を撮ったりしながら、食べ進める。黙々と食べていたが、しばらくして勢いが落ち着くと、再び話し始める。


「そういえばさ、リリィ。昨日の美術展があったビルを、何とかって言う名家が経営してるみたいな話したじゃない。あれね、思い出した。というか、調べたんだけど。」


 そういうと真紀はトートバッグから携帯を取り出して、その画面をリリィに見せた。そこにはSTグループの沿革、と銘打たれたページが映し出されており、その中に代表者の名前が書かれていた。


「……ゼルコヴァ・スティフォール。」

「そう。スティフォールっていう家が名家らしくってさ。……リリィ、どうかした?」


 リリィは固まってしまった。文字通り、身体も思考も。携帯の画面に写し出されたスティフォールという名前。


「リリィ、大丈夫?」


 心配そうに、真紀がリリィの顔を覗きこむ。無意識に考え込んでしまったようだ。真紀の声にハッとして丸くなっていた上体を起こし、周辺に目をむける。それから真紀の方を向いて、呟くようにして話始めた。


「……うん。大丈夫。ごめん、大丈夫だよ。」

「ほんと?顔色良くないよ。どうしたの急に。」


 真紀の声も小さく柔らかくなっていた。本当に心配してくれているということがリリィにもわかった。真紀の優しさを感じる。


「私のフルネームって教えたっけ?」


 リリィのその言葉に、真紀は首を横にふる。その返答は予想していた。そうでなければ、リリィの今の状態に至ったわけがわかるはずだ。


「私の名前、リリィ・グレィ・スティフォールって言うの。」

「えっ、嘘。」


 驚いた真紀は何度も、手に持っていた携帯の画面とリリィとを見比べた。



……続く

次話、10/19(木)19:00に更新。

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