信じらんないです!
「私には5つ歳が違う姉がいたんだ。」
ナギは空中を見つめながらゆっくりと言葉を紡ぐ。
記憶にあるその日の光景を、思い出しながら。
「とても元気で明るくて、いつも私を可愛がってくれたよ。私はそんな姉が大好きだった。だからいつも姉の後ろにくっついていたよ。」
怖い顔には不釣り合いな照れた顔で昔を振り返るナギ。
ただその話がサクラを養子に引き取りたい話と、何が関係するのか分からないサクラ達は、頭の中に疑問を浮かべるが、先ほどのカミーユからのお願いもあるので、口を出さないようにした。
「私がいた村は、小さい村だった。そして閉鎖的な村だった。その村の近くには、死の森と言われた、中に入る事を禁じられた森があった。ある日姉が死の森に入っていくのをみたと言う人物が現れた。....村人は集まり、協議の結果、姉を殺す事を決めた。」
「なっ!?なんででしょうか!?」
「さっきも言ったがラン君。死の森に入る事は禁じられていた。しかも姉はある事情から、村人に忌み嫌われていたんだ。」
「それは一体....」
ナギは質問してきたランの顔と他の者を見る。
その表情は、無表情を保つようにしているが、ほんの少し怒りがにじみ出ているような雰囲気をトウコは感じた。
「姉には、どんなに優秀な者でも到達する事は出来ないぐらいの術力量を持っていたんだ。」
「その程度の理由で、なんで殺されるのでしょうか?元首様。」
それは余りにも酷い理由なので、ランの言葉は何と無く普段より強くなってしまったが、構わずにナギは言葉を続けた。
「....論より証拠だな。私を見ていなさい。」
そう言われたので、カミーユ以外はナギを見ると、目の前のナギがどんどん大きくなっていき、そして見えない何かに押されるような、円卓についていた背もたれのある椅子に座っていなければ、尻餅をつきそうな感覚に襲われた。
「これがコントロールしていない状態で術力を解放した時の感覚だ。びっくりするだろう?」
そう言うとゆっくり、押されていた感覚と大きくなっていたナギが、小さくなっていった。
「今、皆が感じたものが術力を無防備に浴びた時の感覚だ。ちなみに今のはだいぶ少ない量で解放したが、姉はこの数十倍の術力を常に解放しているような感じだったらしい。ちなみにわかるとは思うが、解放量が大きければ大きいほど力は強くなる。」
ゆっくりと体が自由になっていく感覚に、ホッとしながら、体に不調がないか確認していく。
みんな、体には何も違和感はない。が、今の数十倍も威力があったと考えると、無意識のうちに、みんな唾を飲み込んでいた。
「...当時は今のように、能力検査が無かった時代で、術力量もなんとなくで測っているようなもんだった。姉を怖がり、村に災いをもたらす魔の者という者も出てきた。まあ今ならそう言ってしまう者が出てきたところで、なんとも思わんが、当時は相当焦ったよ。」
それはそうだろうとみんな思った。
ここにいる者は、みんな血の繋がりは無くても、身内のことを大切に思っている者たちなのだ。
自分の大切に思っている者が殺されると分かれば、必死に抵抗するだろう。
「一つ気になったのですが、元首様達もいつもこの様な威圧感を感じて、お姉様と暮らしていたのでしょうか?」
先ほどナギは自分の姉が常に術力を解放していたと言った。
という事は、常に姉の周りにいたナギは大丈夫だったのだろうか?
トウコは何気なく気になった事を聞いて見た。
「それが不思議な話なんだが俺達家族はそんな威圧感を感じた事がなかったんだ。もしかしたら姉さんが無意識にそうしてたのかもしれないな。だから周りの者達が姉さんに対しての事を言ってきても、とてもじゃないが信じられなかった。」
トウコは、そんな事が出来るのだろうかと考えて見る。
だが自分には、術力を自在に操るほどの術力は無いということに気づき、考えを放棄する。
「....それで当日、私達家族は邪魔されないように縛られ、討伐隊が組まれ、死の森付近で待機した。その時私は十歳で、心で何度も姉さんが来ないことを祈ったよ。だが姉さんは森から出てきた。だが不思議と姉さんの顔は全てをわかっているような、何か決意したように真剣な顔をしていたよ。そして姉さんが森から出てきて討伐隊が姉さんを捕らえようと踏み出した瞬間、いきなり森から大きな声が聞こえてきた。その声は今まで聞いた事がなく、俺も近くで聞いていたがぶるっちまうくらい恐ろしい声だった。そして声に気を取られ、声のした森を見たんだが、何も出てこなかった。そしてみんな思い出したかの様に姉を見ると姉の前には、一人の鬼がいたんだ。」
鬼。それは妖族の中でも最強の一族。
額に角を生やし、大戦の時に何人もの人族を屠った。
ある鬼は火を吹き、ある鬼は雷を落とし、ある鬼はその力で相手を八つ裂きにした。
今でも鬼の強さは、人族の中でも別格の存在だ。
「死の森と呼ばれていたのは、その鬼が居たからと村人が気づくのに時間はかからなかった。なんせ鬼率いる妖族の噂は小さな村でも有名だったからな。そして村人の恐怖がその場にいた者に伝染して、村人は姉さんを殺すことなどすっかり無くなっていたよ。そこで鬼は村人に話しかけた。『この者とその家族は俺のだ、手を出せば殺す』と。そして鬼は姉を抱え、村を出ていった。村人は安堵して、皆腰を抜かしてたよ。」
「.....そのあと、その姉さんはどうなったん....どうなったのでしょうか?」
普通に考えれば、鬼に囚われたのだ。
八つ裂きにされててもおかしくない。
「.......その後二人はその力をもって、魔族を封印し、大戦を終結させたよ。」
「.....えっ!?と言う事は元首様の姉って....」
「そう。魔族を封じたオウカ様だ。そして鬼はオウカ様の相棒のゴウキ様だ。」
「ちょっちょっと待ってください!元首様!私の目から見ても元首様は、40ほどにしか見えません!オウカ様が表舞台に出てきたのは、今から130年前と言われていて、私もそうやって子供達に教えてきました。それだと元首様は140歳ぐらいになります!人がそれほど長く生きる事は出来ません!」
そう言ってトウコはナギをもう一度観察するが、やはり40ほどにしか見えない。
「その通りだ。トウコ君。俺は数えるのに飽きたがそれぐらいの年齢だ。ある特殊な方法を使い、今を生きてる。だがそれには理由がある。これはゴウキ様が言っていたのだが、魔族は必ずまたこの世に出てきて、この世界に戦いを起こすと。その時、必ずオウカ様は戻り、この世のために戦うだろうと。だから私は例え、人のことわりを破ってこの世に残り、その罰を受けようとも、姉さんを支援すると決めたのだ。」
ナギは懐から、古い本を取り出した。
そして本を開き、一枚の紙を取り出す。
「だから私は能力検査をするようにして、姉が水晶を触ったら、水晶が割れて教えてくれるように細工した。表向きは術力が強い人が触ると割れると偽ってね。姉さんが出てきたことを隠すために。」
「・・・と言う事は・・・」
サクラ以外の者は、みんなゆっくりとサクラを見る。
そこには、事の真意を知り、顔を青くしたサクラが目を見開き、ナギを見ている。
「そう。サクラ君。君は大戦の英雄にして、私の姉であるオウカ様の生まれ変わりなんだよ。」




