鬼の少年です!
時間はサクラ達が出雲学園に入学するひと月前に遡る。
そこは太陽が雲に隠れ、お昼の時間帯ではあるが明るさはあまりなく、一言で表すなら不気味。
サクラ達がいる人國とは雰囲気が全く違うこの場所は、妖國の首都である「鬼立」(キリツ)である。
妖國は妖族、龍族、吸血族、人狼族、幻想族の5種族からなる國だ。
アシハラ大陸は、中央にある不死山から左右に割り、右に人國、左に妖國が存在する。
首都鬼立は、人國の首都桜花と同じで、鬼の英雄キリツからとって作られた街だ。
とはいえ、街の作りなどはかなり異なる。
首都桜花には人國の5種族全てが共存して暮らしているが、鬼立には鬼しか住んでいない。
妖國に連なる種族は、我が強く、一緒にいると喧嘩という名の殺し合いが起こってしまうからだ。
違うところがそれだけではない。
首都と言われているが、ここには宿屋や、商店などといったものはどこにもない。
というかまともな住居用の建物がないのだ。
鬼達は基本的に家を必要としない、あっても風と雨がしのげれば良いという考えでいるため、そういったものがないのだった。
そんな町以下の作りなのに、ここが首都となっているのは、単純に大戦の英雄であるキリツが鬼だったからだ。
こんな首都だが一応、桜花と同じ作りの5種族が会議をするための城がある。
大戦が終わり、オウカとキリツは人國と同じように妖國をまともな國にするために作ったのだ。
だが作った後に問題が生じる。
種族の代表であるもの達が、会議なんて面倒なことはしたくないと言ってきたのだ。
一緒にいるだけで殺し合いをしてしまうようなもの達なため、ある意味でこういった意見が出てくるのは必然ではあった。
オウカとキリツが目指す平和は対話あってのもののため、二人は悩み、そしてある方法を使い、会議をするように仕向けることができたのであった。
そんな歴史がある鬼立の街から数キロ離れたところにある不死山の麓には「シナズの森」と言われる森が存在する。
このシナズの森にはいつ頃からか「森の侵入したものにはそれ相応の罰を受ける」という言い伝えがある。
大戦が終わり、比較的平和になったことにより、鬼達は暇を持て余すようになる。
そんな中、言い伝えを聞いた鬼達は、根性試しで森に入ってみることにした。
森に入るのは、キリツ程ではないが鬼達の中でも五指に入る強さを誇る鬼が森に入ることになった。
森に入っていく鬼を見ているものは、その者の強さを知っているため、さほど気にせず送り出したのだった。
だが鬼が森に入ってすぐに、先程森に入った鬼の悲鳴が、森から聞こえてきたのだ。
森に入った鬼の強さを知っている鬼達は、一瞬何が聞こえたのか理解することが出来なく、森を見ることしかできなかった。
そうして森の入り口を凝視していると、先程森に入った鬼がフラッと出てきた。
周りの鬼達は、無事に出てきた鬼を見て安堵する。
だがよく見ると、出てきた鬼の足取りはおぼつかなく、体も傷だらけであった。
「......もっ森に....はっ入る.....な....」
森から出てきた鬼は虚ろな顔でぼやくようにそう言うと、意識を失い倒れてしまった。
その後、命に別状はなかったが鬼は当時の記憶が無くなっており、一体何が森の中で起こったのかわからずじまいとなってしまった。
それ故に、今でもこのシナズの森に入るものはいなかった。
ある者を除いては。
シナズの森の奥深く。
一つの影が、風の如く駆け抜ける。
その頭には角が二本あり、赤い髪をなびかせて疾走している。
身長は170センチほどで、大人の鬼の身長は2〜3メートルほどあるので、この者はまだ若い鬼であることがうかがえた。
だが身体つきは、黒い袖なしの道着の隙間から見える胸元は引き締まっており、よく鍛えられていた。
鬼は10メートルほどの高さにある木の枝にジャンプして飛び乗り、目を閉じ息を整える。
『大分良くなったな。アラガミ』
アラガミと言われる鬼の少年の頭の中に響く声。
低い声だが、その声色には優しさがうかがえた。
「ありがとうございます!とうさま」
『お前は昔から周りの鬼とは違い、優しい心を持っていた。そのため周りの鬼達には出来損ない扱いをされたが、私はそうは思わなかった。お前は必ず強い男になると信じていた。』
頭の中に響く声の言葉に胸を熱くさせたアラガミは、涙が出そうになるが、必死にこらえた。
「あり...がとう...ございます!」
『.....さて。話は変わるがあと一週間で人國に留学する者の選定会が行われる。私がお前を修行したのはこのためでもあった。....今一度聞く。アラガミよ。後悔はしないな?』
先程とは声色が変わり、迫力のある声となる。
声だけしか聞こえないがまるで心臓を鷲掴みされたかのようになってしまうほどの。
「.....はい。とおさん。僕は後悔はしません。かならず選定会で選ばれます。」
『....そうか。ではお前に最後の修行を行う。これができなければ選定会には行かせない。覚悟はいいな?』
「はい!!」
それから一ヶ月後、鬼の少年アラガミと人族の少女サクラは、人國の出雲学園で出会うことになる。
その出会いは仕組まれたものであったが必然でもあった。
運命の歯車は動き出す。
書いていた分が全部消えて泣きそうになりました




