模擬戦が終わりました!
「さて、模擬戦も無事終了して本当に良かったよ。」
カミーユは三人の戦いに冷や汗をかいてしまったが、終わってみれば、互いに今持てる力を使い戦ったこの模擬戦は、本人たちはもちろんの事、見ている者たちにとっても非常に良い経験になるものであった。
その証拠にカミーユが見る、生徒たちの目は、二人を除いて真剣なものとなっていた。
(サクラちゃんの怯えた視線はわかるが、ランちゃんはなんであんなに怒っているのだろうか...?)
カミーユは、何故か憤怒の色を滲ませた視線をカミーユに向け話を聞いているランに、迂闊に話しかけてしまえば、その憤怒をこちらに向けるかもしれないので、カミーユはあえて触れないように話始めた。
「さっさて、今週の予定なんだが、明日は学園の施設、そして部活動の見学会を行う予定になっている。」
部活動。
出雲学園には部活動が存在する。
ただそれは、スポーツなどをして青春を謳歌するものではなく、互いの術師としての力量を上げるためのものであった。
出雲学園には12の部が存在する。
各部はそれぞれ、方向性の違いが存在している。
ある部はいかに強い威力の術を出せるかを主にしている。
ある部は発動が複雑な術を研究をしている。
そして出雲学園に入学した生徒は必ず部に所属する事になる。
「そして明後日には、留学生が来る。」
「りゅっ留学生ですか...」
サクラは昔、ナギから聞いた留学生の話を思い出す。
「妖國からですか?ナギ様。」
「ああ。学園に入学した際、同じクラスに妖國から留学生が来るシステムになっているんだよ。」
「どうして留学生が来るんですか?」
「うむ。それはオウカ様に関係しているんだ。」
「オウカ様ですか?」
「ああ。オウカ様にはパートナーと言われている人物がいるのは知っているよね?」
「はい!確か鬼族の....」
「そう。鬼族の英雄。名をキリツという。キリツ様とオウカ様は二人力を合わせた。そしてこの国に平和をもたらした。それを見習い、学園に入学した時に妖國から人族の学園には鬼族の生徒を留学生として呼び、共に過ごし、パートナーとして力を合わせてもらうように教育をしているんだ。」
過去の会話を思い出したサクラは、あの日は先のことと思い、あまり考えていなかったが、その日が明後日に迫っていると考えてると、不安な気持ちが大きくなっていく。
「そして週末はその留学生達と交流会を開きます。みんな楽しみにしててくれ!それでは今日は解散だ!!よろしく!」
そういうとカミーユは走って学園の方に行ってしまった。
「なっなんだ?あの走りは....」
「なんでしょうかねぇ。....さて...ジン君。」
瞬間。
サクラ、ジン、ランの間に緊張が走る。
ジンは明らかに自分に向いている憤怒の視線に汗が出てくる。
「あなた。勝手に喧嘩をして、迷惑をかけて、しかも力を勝手に使って。....わかっていますわよね?」
「いやあ...本当に申し訳ないなーと思います。」
「とりあえず帰ったら覚悟してくださいね。」
「......はい....」
「はははは....」
「では皆さん。本日解散ですので、気をつけてお帰り下さい!....さあ行きますわ!!バカジン!!!」
ランはジンの襟を持って引きずり、サクラは後ろから二人を追いかけて帰るのだった。
夕焼けがだんだんとあたりを照らし、街は昼の時とは違い、酒場に人が増え始めた頃、カミーユは学園の近くにある研究施設に足を運んでいた。
ここは國が管理している研究施設で、10階からなるこの施設は各階で術の開発、歴史の研究などを行なっている。
カミーユは施設の受付に自分の目的を伝え、用がある9階に向かった。
この研究施設は各階に3から4つの研究室が存在する。
まだ遅い時間ではないため、研究室のドアから明かりが漏れ、中からはひたすら何かを書く音や話し声、爆発音などが聞こえてくる。
(相変わらずここは騒がしい...)
各階の変わらぬ喧騒にカミーユは苦笑いを浮かべながら階段を登り9階に着くと、先ほどまでは無かった淀んだ空気が、9階全土を覆っていた。
(相変わらずここは不快だ。)
自然の中で過ごすエルフ族であるカミーユにとってここは、慣れることがない嫌な空間でもあった。
だがこの9階にある研究室に目的の人物がいるためカミーユは込み上げてくる嫌悪感を抑え、「歴史術研究室」と汚く書かれたプレートがぶら下がっている研究室の扉を開いた。
扉を開くとそこには、外以上に淀んでいる空気が充満しており、カミーユの心を折りかけるが、なんとか踏ん張り、目的の人物がいつもいる机を見る。
そこにはカミーユの予想通り一人の女性が机にかぶりつき、何かを必死に書いていた。
「やあ。ミズホさん。お元気かな?」
カミーユは優しい口調で、目の前のミズホと呼ばれる女性に話しかけるも、女性からの反応は無く、ただひたすらと何かを書き続けている。
カミーユはため息を吐くつつ、もう一度呼びかけ、同時にミズホの肩を揺する。
「....ほぇ?」
奇妙な声を上げて、ミズホはゆっくりとカミーユを見る。
振り返った顔はお世辞にも綺麗とは言えなく、ボサボサの髪に、目の下のクマ、目は充血して血走っており、女性には紳士な振る舞いをするカミーユと言えど引くほどの感じであった。
「あらまカミーユさん。こんな時間にどうしたんですか?...............今何時ですか?」
「.......っく、やっやあミズホさんこんばんは。今は7時くらいでそんなに遅い時間ではございませんよ?」
カミーユは独特な個性の持ち主であるミズホに苦手意識を持っており、用が無ければ話したくないのだが、目的を果たすため、込み上げてくる嫌悪感を抑え込み、さっそく本題に入る事にした。
「ミズホさん、この前話した事なんだけど、やはり引き受けてはくれないかね?出雲学園の教師を。」
「カミーユさん、その話は以前お断りしたはずですが.....」
「もしオウカ様の生まれ変わりがいたとしたら?」
ミズホはカミーユが言った言葉を聞き、目を見開く。
「英雄オウカ様、彼女が扱った術は500にも登ると言われる、だがそのうち半分もの術が、未だに不明である現状。....もしかしたら、その生まれ変わりの子がオウカ様の記憶を取り戻したら...失われた過去の術が、判明するかもしれませんよ?....あなたの手で....」
ミズホは下を向き、カミーユにも聞こえない小さな声でブツブツと何かを口走り、考え込む。
「もし引き受けていただけるのでしたら、明日朝七時に出雲学園でお待ちしております。」
そういうとカミーユは踵を返し、扉から外に出て行く。
歴史術研究室。
それは過去にあったとされる、今は喪失してしまった術を見つけることを主としている研究室。
そこの研究室室長ミズホ。
彼女はカミーユが出ていった扉を凝視し、その両方の口角を吊り上げ笑う。
一人しかいない研究室に不気味な笑い声が響く。
「明日.......七時..........出雲学園。」
小さい声でつぶやく。
その声と笑い声は明け方まで聞こえていたという。
明けましておめでとうございます。




