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「王女様、僕は上の窓に鍵をかけてきます。王女様は、部屋に入っていてください」
そう言うや否や、鳥は上の階へと上っていきました。
「どうしよう……」
少女は独りそう呟きます。やはり、先ほどの人物が気になるのです。もしかしたら、鳥さんの時と同じように、お父様が誰かをよこしたのかもしれない。そのような考えが、少女の頭の端で起こりました。
「姫、姫」
少女のすぐ後ろ、扉の向こう側から声がしました。年輪を重ね、使い古された喉からもれる、しわがれた男の声でした。
「姫、そこにいるのでしょう? ここを開けてください」
そんな、早すぎる。少女は思いました。かなり近くまできていたとはいえ、あの小舟が島に着くまでは、まだかなりの時間がかかるはずです。やはり、あれは悪魔だったのだ。少女は怯え、戦きました。
「あ、あなたは誰なの」
少女は小さな声で言いました。扉の向こうにいる男にというよりは、自分自身に問い質すかのような、か細い声でした。
「私は、あなたのお父上にお仕えしているものです。覚えておられるでしょうか、フーニダットです」
フーニダット。確かに、その名前を少女は知っていました。城門の前にいつも立っていた、小さな衛兵が、そのような名前で呼ばれていたはずです。しかし……。
「そんなはずはないわ。だって、フーニダットは私と同じぐらいの齢だったはずよ。あなたの声は、どう考えても老人のものじゃない」
この者は信用ならない。少女はそう思いました。早く部屋に入って鳥さんを待とう。そう考え、少女は扉の前を離れようとしました。
「もちろんです。私は六十をとおに超えております。声が焼き擦れもしましょう」
「やはりおかしいじゃない。本当にあなたがフーニダットだというのなら、私と同じぐらいの歳のはず。老人ではないわ。もうあなたと話すことはない。さっさと立ち去ることね。さもないと、戻ってきたお父様たちに殺されてしまうから」
少女はそう言って、部屋へ向かおうと扉に背を向けました。その少女の背中に、男が話しかけます。
「姫、もうお父上たちが戻ってくることはないのです。もう皆、生きてはいないので」
「ふざけたことを言わないで! そのような嘘、私が信じるとでも思ったの!」
振り返り、少女は扉に向かって叫びました。ひょっとしたら、もう皆は死んでしまったのではないか。今まで何度も考え、打ち消してきたことを男に言われ、少女は動揺しました。しかし、男はさらに、少女の心を乱すことを言うのです。
「待ってください。姫、落ち着いてよく聞いてください。あなたはもう、生きてはいないのです」