とある国のとある酒場におけるとある男二人の会話
「いやあ、この前珍しいものを見ちまったよ」
「ほー、西の国の不死者でも見たのかい?」
「違うよー、もっと珍しいものだよ。ルチル族とその弟子を見ちまった」
「なにい!? あの伝説の吟遊詩人族か! そいつあ羨ましい。おれも死ぬまでに一度ぐらいはあいつらの話を聞いてみたいもんだ。で、お前はどんな話を聞いたんだ?」
「いやあ、それが……」
「なんだよ、もったいぶらずに教えてくれよ。いくらザルみたいなお前の脳みそでも、ルチルの話となりゃあ忘れようがないだろ」
「実を言うと、話は聞けてないんだ。ルチルのやつがいるって聞いて飛んで行ったんだが、もう既に話は終わっててよ。おれが着いたころにゃあ、もう帰り支度を始めてたよ」
「けっ! そんなこったろうと思ったぜ! しかしお前ももったいねえことしちまったな。ルチルの話を聞いとけば、孫にまで自慢できたのによ」
「本当になあ。ルチル族なんて、片手で数えるぐらいしかいないって噂だもんなあ」
「いや、数自体はもっといるらしいとおれは聞いたぜ。なんでも、吟遊詩人として世界を回ってるのが片手程しかいないらしい」
「なるほどなあ。さすがに全部で五人ほどしかいないなら、すぐに絶滅しちまうもんなあ」
「そういうことよ。しかし、そうかルチル族か。久しぶりに聞くと、子供の頃を思い出すな」
「ああ。ルチル族の話の又聞きのそのまた又聞きを、じいさまからよく話してもらったものさあ」
「この村で話されているやつといえば、北の海の孤島で暮らす王女の話と、ラピスラズリ王国興亡譚だな。深緑の甲冑の男にゃあ、子供ながらに憧れたものさ」
「おれは、北の海の王女が好きだったなあ。最後にはいっつも泣きながら聞いてたよ」
「うむ。ありゃあいい話だからな。くー、こんな話ししてたら、ますます生で聞いてみたくなるぜ。おい、お前はいったいどこでルチルのやつを見かけたんだ? いっちょ、その辺りを探し回ってよ、見つけたら頼み込んで話を聞かせてもらおうぜ」
「シュワーツェル王国さあ。親父の仕事について行ったんだ」
「なに! 随分と近場じゃねえか! 今から馬を走らせりゃあ、朝方には着くな。よし、善は急げだ。さっそくシュワーツェル王国に向かうぜ!」
「ああ、ちょっと待ってくれよおー。おれも行くよー」