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 パラパラという音で目が覚めた。今日はこっちの世界で初めての雨だ。


  「んんう。あめのおと?」


 まだ完全に開いていない目を窓に向ける。


  「あれ?きのうとへやのおおきさがちがう?」


 鳴き声じゃないから人化してるはずじゃ?……ん?私、今、猫に戻ってる?


  「あ、い、う、え、お。__やったあ!はなせるようになってる!!」


 人化できたからかな?猫の姿で話せるようになるとは思ってなかったよ。


  「……ん、レディ?おはよう、どうかしたか?」

  「ふえっ!?あ、おはようぎるべると。」


 いけない、いけない。寝てるギルベルトのこと忘れてた。うるさかったよね。ん?


  「……っぎるべると!かぜは!?」

  「うん?ああ!すっかり元気だぞ!昨日はありがとうレディ。」

  「よかったー。どういたしまして!」

  「心配かけて悪かったな。それと、レディはいつの間に話せるようになったんだ?」

  「さっきだよ!ぎるべると、ちょっとみててね!」


 私は、話せることよりも人化出来たことを褒めて欲しいんですよ!……うん、ちゃんと人化出来た!


  「どうどう?ひとのすがたになれたの!」

  「おお、凄いじゃないか!」

  「えへへー。」

  「砦の中だけだぞー?」

  「はーい。」


 人の姿でも頭を撫でられるとふにゃふにゃしちゃうなあ。もっと撫でてー。


  「今日は走れないし、早めの朝食にするか?」

  「うん!おなかへった!」

  「そうか。……やはり軽いな。」


 今日は抱っこで連れていってくれるみたい。最近は肩に掴まってたからなあ。……今日もいい匂いがします!お肉!お肉食べたい!ミルクは飽きました!!


  「朝食1人分と、あー、レディは食べたいものあるか?」

  「おにくがたべたいです!」

  「そうか。料理長、レディが食べれそうな肉料理ってあるか?」

  「ん?その嬢ちゃん、あの白猫ちゃんか?……そうだなあ。きょうの料理で猫が食べられるものは、ああ、鶏肉のスープだ!」

  「それを頼む。」

  「あいよ!……お待ちどう!」

  「ありがとう。」


 机までは自分で歩きますよ!ご飯はギルベルトが持ってるけどね。私には少し高い椅子に座らせてもらって。


  「「いただきます。」」


 うん、美味しい!久しぶりの固形物だ。鶏肉と野菜を詰め込んだスープだね。玉葱は入ってないけど。……ちょっと味が薄い?いや、薄いっていうか塩って感じ?ううむ。騎士団の砦だからかなあ。それとも、調味料が少ないのかな。


  「美味しいか、レディ?」


 ん、ギルベルトもう食べ終わってる。ゆっくり食べすぎたかな。


  「うん、おいしい!」


 毎日食べたら飽きるだろうけど。


  「そうか、それはよかった。」


 あ、笑った。……ギルベルトが笑うと周りがざわつくんだよね。何でだろう。


  「……ふみゃ!?」


 誰だ尻尾掴んだの!!ん?今、人になってるんじゃ?……尻尾ついてる!?あ!?人の耳じゃなくて猫耳がついてる!!誰得なのさ!猫耳幼女って!!


  「あれ?尻尾と耳を確認したりしてどうしたの?もしかして気がついてなかったの?」

  「ふくたいちょう、きらい。」

  「え!?」

  「ぜったいになまえでよばない!」

  「ごめんなさい!!」

  「ふんっ!」


 私は副隊長の名前を知っている。副隊長としか呼ばない私に、一応エルヴィン=ダラーって名前があるんだけど、と副隊長が教えてきたからだ。しかしギルベルトが副隊長としか呼ばないから、なんとなく私も名前を呼ばなかった。すると絶対に名前を呼ばせてやるとばかりに副隊長が張りきりだしたのだ。まあ、それを見て絶対に呼ばないぞと思ったのだが。


  「副隊長、あまりレディを苛めるな。それで何か用事か?」

  「え、俺が苛められてるんじゃ?」

  「幼子を苛めているようにしか見えない。」

  「自重します。ええと、昨日の話の詳細を聞いておきたいんですけど。」

  「あー、今から執務室で話すか?」

  「俺はそれでいいですよ。」

  「じゃあ、朝食後に執務室で。」

  「わかりました。後で行きます。……じゃあね、レディ。機嫌直しといてくれると嬉しいな!」


 手を振って去っていった副隊長に向けて、心の中で舌を出しておく。


  「食べ終わったか?」

  「うん。おなかいっぱい。」

  「それじゃあ部屋に帰るか。」

  「わかったー。」


 お皿を返却したら、ギルベルトに抱き上げてもらって部屋まで帰る。今日は執務室でお話するみたいだし、邪魔しないように精霊達と遊ぼうかな。


  「きょうは せいれいたちと あそんできてもいい?」

  「ん?あー、今日はレディにもいて欲しいんだが。」

  「?わかったー。」


 仕事中にいて欲しいなんて初めてだね。まあ、大人しくしとこっと。


  「遊びたかっただろう?悪いな。」

  「ううん。ぎるべるとのじゃましたくなかっただけだから。」

  「っ、そうか。」


 あ、照れてる。イケメンのはにかむ顔は破壊力抜群だよね。ギルベルトの表情は分かりやすいと私は思ってるんだけど、砦で働く人には無表情が基本って思われてるみたい。この顔を副隊長以外が見たら無言で扉閉めるよ。


  「失礼しまー……。」


 副隊長、固まっちゃった。うーん、長年一緒に仕事してるみたいだから大丈夫だと思ってたんだけどなあ。


  「……えるゔぃん。」

  「今俺の名前呼んだよね!!」

  「ふくたいちょううるさい。」

  「そうだな。早く扉を閉めろ。」

  「あ、すいません。」


 副隊長が固まってたらギルベルトのお仕事が出来ないからね。仕方ないね。


  「そういえば隊長。今日はレディにも話すんですか?」

  「ああ。レディのことだからな。」

  「え?きょうはわたしのことなの?」

  「そうだ。レディに話があるんだ。」


 ギルベルトの眉が下がる。ギルベルトはほんの少しだけ言い淀んで、口を開いた。

 

  「レディに王都までついてきて欲しい。」


 王都?王都ってあの王都だよね?ファンタジー的に王族とかがいる所だよね?1番栄えてる街だよね?めちゃくちゃ楽しそう!!なんでギルベルトが出来れば言いたくなかった的な雰囲気を醸し出してるのかは知らないけど。

 

  「うん!わかった!!」


 私が満面の笑みで返事をしたら、ギルベルトと副隊長が慌てだした。私が断ると考えていたのだろうか。そんなに楽しそうなことを断るわけないんだけど。


  「ほ、本当にいいのか?嫌なら行かなくても良いように何とかするぞ?」

  「た、隊長落ち着いてください。それは多分無理です!」

  「いや、レディのためなら。」

  「無理です!!」


 この2人がここまで慌ててるところは初めてみるなあ。そんなに王都って酷いところなの?


  「ぎるべると。どうして おうとに ついてきてほしいの?

  「……ん?レディに話してなかったか?」

  「うん。」

  「ああ、なるほど。レディは隊長と王都に行くってとこだけを聞いたのか。それは了承しますよ、隊長。」

  「説明を忘れていた……。」


 頭を抱えたギルベルトを宥め、私はこの世界の説明を受けることになった。


 __ギルベルトと副隊長の説明曰く、この世界では『白』が1番神聖視されている。『白』を持つものには幸運が訪れる。それは周りのものにも適応される。そして『白』を全身に持つものは歴史上存在しなかったと。そう、歴史上存在しなかったのだ。つい最近まで(私が現れるまで)


 この話を聞いて思わず真顔になった私は悪くない。ギルベルトと副隊長は苦笑していたけれど。


  「自分がどれだけ貴重な存在か理解した?」

  「……うん。」


 私の変なところで優秀な頭脳はギルベルトが王都行きを渋る理由もしっかり理解出来た。ようは私を王都の住人(権力者)に会わせたくないのだろう。会えばお人形(監禁)生活へまっしぐらだもんなあ。……でも。


  「りかい は した。けど、おうといき は やめられないんでしょ?それなら わたしは ぎるべると と おうとにいく。」


 私を連れてきてほしいからって、ギルベルトに王都から圧力を掛けるのは許せないんだよね。話を聞いてハッキリした。絶対にギルベルトが熱を出したのはこのせいだ!!これは絶対に直接文句を言ってやる!


  「レディは本当にいいのか?確かに俺では王都行きを止めることは無理だが、レディが本気で嫌がればどうとでも出来ると思うぞ?」

  「あー確かにそうですね。レディが本気で嫌がることをしたらどうなるか分かりませんからね。……まあそれをどうにかして連れてこいって言われてるんですけど。」


 ほう。それは本当なの、副隊長?あ、目が本気だわ。ふーん。


  「ぎるべると。おうといき を やめるきはないからね。ぜったいに もんくいってやるんだから!!」


 屑しかいなかったら王都の精霊全員で砦に帰ってこればいいもんね!


  「……はははっ。そうだな、レディの言葉は絶大な効果を発揮するだろう。」

  「そうですねえ。真っ青になるんじゃないですか。」

  「それは楽しみだな。……ありがとう、レディ。」


 ふふん。ギルベルトのためだもん。それに、異世界を旅出来るのは楽しみだしね。


  「なあレディ。今回の王都行きを了承してくれたし、何かお礼をしたいんだが。」

  「おれい?べつにいいよ?」

  「俺がしたいんだ。何でもいいぞ。」

  「ええー。ほしいものかあ。」


 欲しいものねえ。ううむ。…………あ。


  「ねえねえ、ギルベルト。」

  「決まったか?」

  「なんでもいいんだよね?」

  「ああ、勿論だ。」


 そういえばこっちに来てからずっと欲しいなと思ってたものがあった。出来ればギルベルトから欲しかったんだよね。


  「わたしね、なまえ が ほしい!」


 私の名前。前の名前はどうしても思い出せなかった。ギルベルトからレディと呼ばれるのは嫌ではないけれど、やっぱり自分の名前が欲しい。この世界で『私』を証明してくれるものが。


  「レディの名前を、俺が、決めてしまっていいのか?」

  「わたしは ぎるべるとがいいの。」

  「そうか。…………。」

  「ありきたりななまえでいいよ?」

  「いや、駄目だ。…………。」


 真剣な顔で黙り込んだギルベルトを見て、副隊長は肩を竦めた。長いだろうから部屋で仕事をしてくる、だって。聞きたかった王都への旅の詳細は、また明日にするみたい。レディは隊長を待っててあげてって言って去っていった。私から頼んだんだからちゃんと待ちますよ。何時間かかるかは分からないけれど。


 __昼食の時間になっても動かないギルベルトを食堂へ誘導してご飯を食べる。それから執務室へ戻り、再度ギルベルトを待つ体制に。そろそろ夕食かなあと思い出した頃に、ようやくギルベルトが顔を上げた。


  「__決めた。」


 私を見つめるギルベルトに問う。


  「ぎるべると、わたしのなまえは?」


『私』をこの世界で証明する言葉を。


  「レディの名前は、『シュテファーニエ』だ。」


 そう、『私』は『シュテファーニエ』だ。


  「しゅてふぁーにえ、しゅてふぁーにえ か。」


 私は『私』を確かめるように呟く。


  「嫌、か?」


 嫌?そんなはずがない。だって、もう『私』は『シュテファーニエ』なのだから。


  「ううん。すっごくうれしい!」


『私』をこの世界に確立させたギルベルトに満面の笑みを返す。


  「そうか、よかった。俺はシュテファーニエ(花冠の天使)がレディだと思ったんだ。」

  「どうして?」

  「レディは精霊に囲まれているだろう?様々な属性の精霊に慕われるレディが、俺には、花畑で笑う天使のように見えたんだよ。」

  「そっか。……ありがとう。」


 前の世界との『なにか』が切れる感覚がした。もしかしたら、まだ、繋がっていたのかもしれない。帰れる方法があったのかもしれない。後悔だってするかもしれない。

 __それでも、私はこの世界で『シュテファーニエ』として生きていくと決めた。この世界の住人になることを決めたのだ。



レディの名前の話でした。

精霊達はレディからは見えないようになってます。レディが精霊達に目の前がピカピカして困るって言ったからです。出てくる時は出てくるんですけどね。

他の人から見るとレディの周りはキラキラ光ってます。


話のストックが切れたので次から不定期更新になります。


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