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ブクマありがとうございます。
ふわふわとした感触と温かい手が身体を撫でる感覚に意識が浮かび上がる。
「……んみゃ?」
「ああ、起きたか。その小さい身体で馬に乗るのは辛かっただろう。」
んんー?ここ何処だ?さっきまで居た教会とは似ても似つかないぞ。
「そんなに首を動かしてどうしたんだ?なにか気になるものでもあったか?」
そういえば、砦がどうたら言ってたっけ。それじゃあ此処は砦の何処かにある部屋かな?
「おーい。……完全に無視か。」
なんだか質実剛健って感じの部屋だね。多分騎士だからそんなもんなのかなあ。
「しかし本当に白いな。目は、白銀って感じか?毛の白とはまた違う白だな。」
あ、さっきの青年何処だろう?私をここに連れてきたのはあの人のはずなんだけど……って!?
「ふみゃあ!?」
「お、やっと気がついた?話しかけてもなかなかこちらを向かないからどうしようかと思ってた。」
目の前に!イケメンが!いた時の!私の気持ちを考えろ!!……気が付かなかったのは悪かったと思ってます。
「にゃう。(すいません)」
「ははは、耳が垂れてるぞ。知らない場所にいたんだから警戒するのは当たり前だ。気にするな。」
このイケメンさんはいい人だ!多分!
「みゃう!(ありがとう!)」
あーこの人の手で撫でられるとふにゃふにゃしちゃうなあ。ゴロゴロゴロ。
「えー、レディ?はレディでいいんだよな?」
「にゃ!(勿論!)」
「よし、頷いたな!それじゃあ、レディは俺のような人間の言葉を理解出来るか?」
「にゃ!(出来ますよ!)」
「そうか!それなら今いる場所の説明が出来る。あーっと、その前に俺の紹介しとかないとな。」
真面目な顔になると、このイケメンさんは少し近寄り難い感じ。目がキリッと鋭くて威圧感が凄い。髪が深い闇みたいな黒なのと、目が月のような金ってところが更に威圧感を増加させちゃってるかな。
「俺は森の砦で隊長を任されている、ギルベルト=エッフェンベルクだ。歳は20。魔力の属性は闇と火と地で、精霊魔法は水属性なら使える。」
うわあ、めちゃくちゃファンタジーな世界だ。よく分かんないところは後で精霊達に聞くとして……イケメンさん20歳だったの!?思ったより若かったよ!?老け、落ち着いた顔だったから25ぐらいかな、とか思ってました!!
「ど、どうした?凄く可愛い顔になっているぞ、レディ?」
「……うにゃあ。(気にしないでください)」
「んん?気にしないでいいのか?……そうか。じゃあこの場所の説明するぞ?」
「にゃ!(そうしてください!)」
イケメンさんがちょっと微笑むと、また感じが変わるなあ。さっきとは違って世の女性陣達が放っておかない感じに見える。夜会とかがあれば周りに女性の壁が出来るんだろうな。
「えー、今レディがいる場所は、レディがさっきまでいた教会の近くにある砦なわけなんだが、教会が建っていた森は分かるか?」
あの森は精霊が住んでる森って言われたっけ。んーあんまり分かんないしなあ。
「……分からないか?」
「みゃう。(うん)」
「ん、気にするな。レディがいた森は精霊の森って言われてる森で、精霊達が住んでいると伝わっているんだ。森に建つ教会は精霊と人間の交流のために建てられたものでな、この砦は森と教会を護るためにある。だから、この砦には精霊が見えるものしか配属されないんだ。……レディのことを教えに来たように、精霊達はここにいる人間を気に入っているみたいだからなあ。」
精霊が見えない人もこの世界にはいるんだね。むしろ見えない人の方が多いのかな?精霊が見えない人は精霊が嫌がることをしちゃっても気が付けないからこの砦には入れないってことだろうけど。
「……レディは本当に精霊に愛されているんだな。教会の中が精霊で溢れそうだったことなんて今まで無かったよ。今もレディの周りにはたくさんの精霊が飛んでる。」
「にゃう?(え?そうなの?)」
『そうよー!私達ずっと近くでいたのにー。』
「ふみゃ!?」
目の前に教会でみた光が飛び込む。さっきまで気がつかなかったのがおかしいぐらい部屋の中は精霊達でいっぱいだ。
「にゃ?(なんで?)」
『人間が来てからは貴方に姿が見えないようにしていたの。こんなに沢山いたら話が頭にはいらないでしょう?』
「うみゃう。(確かに)」
うん。視界の端でちらちら映ってたら気になってしょうがない。話の半分も頭に入らないだろうなあ。
「__、なあレディ。もしかして精霊と話せるのか?」
「にゃ。(うん)」
ん?イケメンさんは精霊と話せないの?さっき精霊が呼びに来たって言ってなかったっけ?
『人間は私達とは話せないの。この砦の人間は精霊の動きで伝えたいことを読み取るわ。貴方のことを教えに来たときは馬の周りと教会の方向に飛んで伝えたのよ。』
それで意思疎通が出来るところが凄いや。私だったら絶対伝わってないよ。
「精霊と話せる愛し子は初めてだ。これは王都が騒がしくなるぞ。あー、レディが猫なのが救いか?人間だったりしたら養子にするとか五月蝿いのが出てくるだろうな。……いや、猫でもレディは賢いみたいだからなあ。どっちにしろ五月蝿いかもな。」
イケメンさんの顔が更に怖くなってるなあ。いやあ、私も喋りたいなー。別に人間になれなくてもいいから人語を話したい。んー、精霊に聞いてみようか。
「にゃあにゃあ。(ねえねえ)」
『どうしたの?』
「にゃうにゃうにゃー?(私も人間の言葉を話したいんだけれど出来る?)」
『勿論よ!人化すればいいわ。貴方なら何度か練習すれば出来るようになるでしょう。』
「みゃおん?(どうすればいいの?)」
『頭の中で人間の姿を想像すればいいのよ。』
「にゃ!(ありがと!)」
よし、やるぞ!と意気込んだ私の耳はぺたんとヘタレた。私のお腹からでた、くぅという音で。
「ははっ、レディはお腹が減ったのか。少し待っていてくれ。食堂からミルクを貰ってくるから。」
「みゃぅぅ。(ごめんなさいぃぃ)」
恥ずかしいぃぃ。穴があったら入りたいとはこのことだよ。あぁー、申し訳ない。
『人間の片手サイズなんだから仕方ないと思うわよ?何も食べてないのでしょう?』
そうなんだけど……。ん?いい匂い。思わず鼻がぴすぴす動いちゃう。
「レディ、人肌ぐらいのミルクだ。飲めるか?」
「にゃう!(勿論です!)」
「ゆっくり飲むんだぞ。」
甘くて美味しい!耳と尻尾がピンッとたったのが分かる。
「うみゃ!(美味しいです!)」
底が薄いお皿になみなみ注がれたミルクで私のお腹はいっぱいだ。お腹が膨れると眠たくなるのは仕方がないと思う。……人化の練習は明日からにしよう。
「うにゃうにゃ……。」
「おやすみレディ。いい夢を。」
私は、イケメンさんに撫でられながら微睡みの中へ落ちていった。