第一章 化け物同士の交流
誰もが期待と不安に揺れる入学式で、僕は何も映さない冷たい瞳の少年と出会った。
とは言っても、入学式から遅刻したので式が終わりゆくのをぼんやり眺めてたら、そいつも遅れてやって来ただけのようだが。
それに僕は、そいつのことを女の子だと思っていたし。
まぁ、何か共通点があれば人というものは仲良くなれるようで。僕とそいつ、橘 雪華は、なんとなく一緒にいるようになった。二人とも人付き合いが苦手で、特に寄ってくる変わった奴もいないので、自然と二人になったという方が正しいかもしれない。正しい認識は大事だ。もしかしたら隣にいるやつは、人間のふりをした狼かもしれないし。ありえないけど。モンスターの方がありえるくらいだ。
「なぁ、昼飯忘れたから分けて」
雪華の言葉。驚くなかれ、美少女のような見た目なのに信じられんほどにイケボである。声変わりとは残酷だ。
「いいよー。半分こしたげるー」
少し大きい二段重ねのお弁当箱の上の段を雪華に渡す。最初から一段一人分として作ってあるのだ。雪華は忘れたなどと言うが、毎日のことである。雪華は長くて真っ直ぐな黒髪に赤いヘアピンをつけている。そのヘアピンも僕がつけるのだけど。この学校の服装に関する校則は無きに等しいけど、ここまで髪の長い男子生徒は雪華以外いない。でも、髪を切ったところで女の子にしか見えないだろうけどな。
ここまでなら僕女子力高ーい、で終わってたんだけど。
「寝癖ついてるよ、雪華。直しちゃうからちょっとじっとしてて」
と、まぁこんなことをするものだから。
「さすが、俺の嫁は優秀だね」
「いや、見た目だけだと完全に逆なんですが、ほんと」
僕は、ショートボブの髪にパンツタイプのブレザーなので、見た目は完全に男子生徒である。雪華もパンツタイプのブレザーである。念のために言っておく。
一つ説明しておくべきことがある。この学校は、問題があると判断された未成年を、矯正し大人の都合のいいように教育するための場所である。校舎は全部で12棟あり、矯正可能なレベルに応じて振り分けられる。中でも、僕らの在学している12棟目、通称「監獄」は、卒業が認められた生徒がいない棟でもある。「監獄」という名に不釣り合いな静けさを持った棟だが、その実、凶悪犯の親族であったり、生まれ持って精神に異常ありと判断されたものなど、社会的に生活できない人間が大部分を占めている。その中でも僕と雪華は、犯罪的要素も、精神的な異常も見られない、極めてレアケースである。僕たちは、何故この棟なのか説明されることはなかった。しかし、脅迫に近い形でこの学校に通わされている。
原則として
・12棟の生徒は学校外に出ることはできない。
・12棟の生徒の金銭面での援助(人にもよるが、20万から30万だそうだ)
・12棟の生徒の学費全額免除
・12棟以外の生徒の12棟への侵入の禁止
などがある。