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ヒーローサイカ  作者: 赤桐傭兵
裏路地の通り魔
6/8

ヒーロー

 救急車の赤いランプ。反響に反響を重ねる刑事たちの声。交通規制に対するドライバーの怒号。そんな中で、一見場違いな少女がぽつんと独り。

「おつかれ」

 そんな少女へ声をかけたのは保護者の桐吾。彼はサイカへミネラルウォーターとハンドタオルを手渡す。

「ありがと。でも……」

 サイカは受け取りながら沈んだ顔を桐吾へ向けた。

「なんだよ、どうかしたか?」

「……間に合わなかった」

 暗い顔で落ち込む少女。つい先ほど、連続殺人鬼を軽く叩き潰した少女にはまるで見えない。

 桐吾はそんなサイカを見て、

「何言ってんだ」

 背中をパンッと叩く。

「お前は全力を尽くしただろーが。普通なら何十分もかかる距離を十分かからずに走ったんだぞ、お前は」

 それに、と桐吾は続ける。

「今夜は誰も死ななかった。お前のおかげだ」

 手を背中から肩へ移すとポンポンと叩いた。

 それでもサイカは納得しきれていないようだ。眉間にしわが寄っている。

「そんな顔してると早く老けるぞ」

 ぐりぐり、と。桐吾に眉間を指で押されてサイカは「うぎゃーやーめーろー」と頭を振る。と、そんなところに。

「やーやーおつかれさーん」

 尾賀。へらへらと笑いながら二人のところへ来た。

「サイカちゃんサンキュー」

 サイカへ向かって手を立てる尾賀へ対して彼女は複雑そうな表情。

「でも――」

「ちょっとこっち来て」

 何か言おうとしたサイカを遮って、尾賀は手招きしながら歩き出した。彼の進行方向を見て桐吾も気づいた。

「ほらいくぞ」

 サイカの手を引いて歩き出した。尾賀へついていくと一台の救急車。中には負傷の刑事、小田がいた。

「あ、けーじさん……」

 サイカが彼に気づくのと同時に小田も彼女に気づいてらしい。サイカのほうを小田が見た。

 小田は何か言おうと口を開いたが、それよりも先にサイカが口を動かした。

「あ、あの、私コラボレイターなのに遅くなって、その、けがもそんなさせちゃって、ごめんなさい」

 しどろもどろに。目も泳がせながら。謝罪を口にした。

 それに対して小田は、

「へ?」

 目を丸くして間抜けな声をあげた。

「何を言ってるんだ、君は」

「へ?」

 こちらも一言、間抜けな一文字。

「君がいなかったら俺たち死んでたんだぞ。感謝してもしきれんよ」

 はっはっは、と小田は笑う。

「それに謝るのはこっちだ。俺たち刑事が不甲斐ないばっかに君みたいな女の子に無茶させて」

 すまないな、と刑事は言った。

「すまないねぃ」

 尾賀も後に続くが、

「あんたには全然気持ち入ってないな」

 と、桐吾。はいはい黙ってて、と軽くあしらわれた。

「俺にはあの時」

 呆れた目で尾賀を見ていた小田は再びサイカの方を向くと、

「君がヒーローに見えたよ」

 いやそれじゃ男になっちゃうか、と小田は頭を掻く。

「ひーろー……」

 サイカは茫然とした表情を浮かべる。全く信じられないといったような表情だ。

「だってさ、よかったなサイカ」

 話が終わったのを見計らい、トウゴはサイカの頭をくしゃっと撫でた。

「…………、うん!」

 先ほどあんなにも落ち込んでいた少女が浮かべたのは満面の笑み。そこには複雑なのか単純なのかよくわからない少女がいた。




「あ、尾賀さん」

 小田の乗る救急車をサイカと共に見送ってから、その場を離れようとする尾賀へ桐吾が声をかけた。

「ん、なんだい?」

 尾賀が振り返る。

「報酬なんですけど」

「うん」

「一か月分の監視カメラの維持費に当てて、残りを振り込むようにしてください」

 にやっ、と。尾賀は笑いながら。

「いつものことじゃないか。言わなくてもわかってるよ」

 それに対して桐吾は。いやー、と気だるそうに。

「なんか尾賀さん、言わないと危なっかしくて」

 それを聞いて尾賀は糸目を少し見開く。笑って見える顔の奥には鋭い眼光が潜んでいた。しかし、そんな眼もすぐに糸目の奥に隠れる。

「ひっどいこと言うねぇ、大丈夫だよ、安心してって」

「それならいいっすけど」

 クマの目立つ目と笑っているような糸目が視線を交差させる。

「そうだ」

 そう切り出したのは尾賀。

「最近変な事件多くなってきてるんだ。まだ俺たちの手で何とかできてるけど、何か起こってるかもしんないよ」

「…………」

 桐吾は反応を示さない。いぶかしげに糸目の奥を覗こうとする。が、しかしそれは叶わずに尾賀は手をひらひらと振る。

「んじゃ、またよろしく」

 それだけ言うと彼はサイレンの光の中に消えていった。

 残された桐吾はだるそうにため息をつく。少し離れたところで待っているサイカの方を見ると、彼女の元へと歩いてゆくのであった。

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