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ヒーローサイカ  作者: 赤桐傭兵
裏路地の通り魔
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『目』

 警察署、カグラミヤ署。その中にあるなかなかの大きさの会議室。入口には『カグラミヤ町及びアマノイワ町連続通り魔事件捜査本部』と達筆で書かれた紙がでかでかと貼られている。

 ホワイトボードの手前には捜査の指揮官が座ると思われる長机、そこに向かうようにしていくつもの長机が置かれている。何人もの刑事が着席している。

そして。その長机群から外れるようにして小さな机と椅子。小学校や中学校で使われているような文机だ。そこに座るのはサイカと桐吾。

「いい加減、この机やめればいいのにな。座りづらいったらありゃしない」

 ぎし、と椅子を軋ませながら桐吾は愚痴をこぼす。その隣では膝を立てるようにして行儀悪くサイカが座っている。

「私は結構好きだけどなーこの机」

「そんな座り方してるやつのセリフじゃねーよ、それ」

 二人が会議室に着いて十分ほどしただろうか、がやがやとうるさかった室内がいきなり静寂に包まれた。

「始まるぞ、サイカ。行儀よくな」

「あい」

 ホワイトボードに近い扉が開くとこの事件の捜査トップである二人の人間が入ってきた。髭をたくわえたがたいの良い男、肥満体系のタヌキのような男だ。

「こほん」

 と、二人のうち右側に立っている一際偉そうな髭男が咳払い。部屋にいる全ての人間が視線を彼に注いだ。ほとんどの者が真剣そのものといった目をしている。例外はサイカと桐吾のみ。どこか気楽そうなサイカと、眠そうな桐吾を髭の男は一瞥するとその口を動かした。

「では、本日午後の緊急捜査会議を開始する。この会議はコラボレイターミーティングを兼ねることとし、よってこの事件の捜査も今をもって特別協力捜査とする」

 低く貫禄のある声で話し、いったん声を止めると、今度はサイカと桐吾のほうへと二人を紹介するかのように手をのばした。

「今回の事件のコラボレイター、サイカと霧崎だ」

 部屋中の目が二人の方を向いた。

「こちらから自己紹介はいるか?」

 男が二人へと問う。それに対し、桐吾は首を振る。

「いらない」

「だろうな」

 そう言った理由は簡単。仕事柄、顔なじみだからだ。髭の男は樋熊玄太郎、警察署長だ。彼だけではない。その隣、タヌキのような男は新山慎二、副署長だ。

「では、欲しい説明は?」

 野太い声で桐吾へ問いかける樋熊。

「リストに添付されてた資料読んだし特にない。会議を進めてくれ」

 文机のせいで教師と生徒のようにも見えてしまう樋熊と桐吾。だがすぐに桐吾たちから樋熊は目を離すと、

「では、緊急捜査会議を開始する」




 目撃情報だとか。聞き込み捜査の結果。加えて犯行範囲の予想など。諸々話し合われ、約一時間。会議は終了した。

 要約すると、犯人の足取りはほとんど掴めない、というものだった。

「おい、サイカ。起きろ」

「んぁっ」

 鼻をつままれて目を覚ましたサイカは周りを見ると一言。

「寝てないよ?」

 ぺしん、と一撃。

「あいたたたー。まあでも、トウゴがまとめてくれたほうが分かりやすいし」

 全然痛そうな素振りを見せないサイカが笑顔を桐吾へと向ける。呆れたような顔でその笑顔を桐吾は受け止めた。そして彼は会議用に配られたプリントで笑顔を叩く。

「何言ってんだ。……まあ、聞いてなくてもいい内容だったかもしれないけど」

 サイカはそれを聞いて「ほらね」とでも言うかのようにプリントの下から顔を覗かせた。と、そんな時。

「霧崎」

 呼び声がかかった。桐吾が声の方へ身体を向けるとそこには樋熊署長。やはり近くで見ると威圧感がある。

「署長、久しぶりです」

 表情を一ミリたりとも変えずに桐吾は受け答える。

「できれば会いたくはなかったがな」

 こちらも名前に違わぬ熊のような表情のまま言う。数瞬の沈黙の後、今回の事件だが、と樋熊は切り出した。

「今回も尾賀についてもらう。いいな?」

 そう言うと「尾賀ァ!」と会議室中に響き渡る声を発した。ほとんどの刑事が部屋から出ていこうとしている中、一人の刑事がびくっと反応した。

 十数秒。尾賀と呼ばれた男が桐吾とサイカ、そして樋熊もとへとやってきた。糸目で常に笑っているように見える。どこか飄々とした雰囲気をまとっているようだ。

「署長、あんなでっかい声で叫ばなくてもわかりますって。俺、そのうち心臓発作か何かで死にますよ?」

 ぶつくさ文句を言いながらやってきた男は桐吾の方へと向く。

「うい、今回もよろしく」

 手を伸ばす尾賀へ握手で対応する桐吾。

「って言ってもまた俺の必要無いかもだけどね」

 飄々と手を振る尾賀。それに対して樋熊。

「何を言っているんだ。ふざけないで真面目に勤務しろ」

 へいへい、と腑抜けた尾賀の声。

 ため息をこぼす樋熊と桐吾。

「にしても」

 こう切り出したのは桐吾の方だ。右眉を動かすことで反応した樋熊。

「ランクBでリストアップするなんて珍しいじゃないですか」

 ふむ、と樋熊は重い息を吐いた。

「今回の事件は微妙なとこでな。犯人自体の脅威度は高くない」

 だが、と続ける。

「隠密性が異常に高い。六件も事件起こして最後のは俺たち刑事がやられとる」

「…………」

 桐吾は読みづらい表情で樋熊を見る。

「つまり、だ。今回はサイカってよりお前の方を頼りたいんだ」

 情けないことにな、樋熊はと締めくくった。

「え、私はいらないのか?」

 ここで唐突に名前があがったサイカが会話に加わる。そんなサイカに視線を落とすと樋熊は似合わない笑顔を浮かべた。

「いやいや、お前にも期待しとるぞ。頑張ってくれ」

「任された!」

 樋熊はサイカから桐吾へ視線を移すと続ける。

「『目』の調子はどうだ?」

「ん、そろそろ同期始まってるかな」

 桐吾は肩掛けバッグからタブレットを取り出す。電源を入れると一つのアプリを起動した。黒い背景。ぽつりぽつりと裏路地と思われるような撮影画面が現れ始めている。

「オッケー同期し始めてる」

『裏路地監視ネットワーク』、名前の如く。警察の同意を得て、さらに「犯罪の減少を目指す」という警察の言葉によって市民の同意を得て。霧崎桐吾が自らの仕事のために裏路地へ配備した監視カメラの総称である。町ほぼ全ての裏路地に配備されている。

「お前らが警察に入ってくれればいちいち呼ぶ必要ないんだけどなぁ」

 タブレットを操作する桐吾を見て尾賀が言う。それを聞いて桐吾も言う。

「何のための制度っすか。それに俺たちそんなガラじゃないでしょ?」

「まっ、それもそうだ」

 タブレットの画面に映像が満ちてきたところで。

「よし、行きますか」

 桐吾が言った。それを樋熊は意外そうな顔で聞いた。

「いつもみたいにここで見るんじゃないのか?」

 それに対して桐吾は。サイカをちらっと見ると答えた。

「それじゃ、サイカの出動が遅くなるでしょう?」

 こいつにはできるだけ近くで指示を出したいし、と言って。桐吾は続ける。

「見晴らしのいいとこに行くんですよ」


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