factor
社員契約
一夜明け、俺は土曜日なのにも関わらず朝が早かった。
俺は社長との約束で、fact社へ行かなければならなかった。特別社員の手続きだそうだ。
…北の港に到着すると、迎えが来ていた。
「おっはよー!遠くから来てもらって、ごめんね。」
迎えは美里だった。昨日知り合ったばかりの青年で一つ上らしいが、親しんでくれるいい人だ。
「いや、どうせこれからはあまり帰らないから、ちょっとした冒険だったよ。」
とは言っても、電車一本乗ってきただけだがな。
俺は美里に指定された船に乗って、fact社のある離島へ向かった。美里はどうやら港町の方に用事があるらしいから別れた。
俺は船員さんに会釈し船を降りた。船員さんも笑顔で、おうよ!と返してくれた。なんかいい人多いな。
エレベーターを登り、社長室で降りた。
「おはようございます。真崎です。」
挨拶をすると、窓の外を眺めていた社長が振り向いた。
「おはよう真崎クン。今日は来てくれてありがとう。じゃあ、そこに座って。」
俺は指定されたソファに座った。すると…
ブーーー!とソファが鳴った。社長はニヤニヤしながらこちらを見ている。やばい、すごく気まずい。俺は意を決して。
「あの…このソファにブーブークッションが仕掛けられていたんですけどぉ。」
社長は少し笑って。
「ほんのジョークだよ、真崎クン。」
と申していらっしゃる。なんて人だ。まるで社長、いや正義の味方とは思えない。完全に中年のおっさんみたいだ。
「は、はぁ。」
俺は苦笑いしかできなかった。
社長は少し真面目なトーンで、
「さてと、手続きに入ろうか。」
と言った。俺は無言で頷いた。
「はい。これ。」
3枚の書類を渡された。一つは会社の概要、一つは特別社員契約書、一つは寮に住居するにあたっての契約書だった。
「とりあえず、それに記入してほしい。」
「はい。」
数分後、記入し終えた用紙を社長に渡した。
社長は契約書に判子を押して、机に閉まった。なんかすぐ盗まれそうじゃないか?それ。
「そうだ、会社の概要に掲載されていたと思うけど、これから最終登録をした後、社員同士でデバイス無しの無線連絡が取れるようになるんだ。」
デバイスなしの無線連絡って凄いな。携帯の連絡機能が自分に付くようなものか。
「シグナルと宣言した後、連絡を取りたい人の名前を言うと、相手にコールがかかるから、後は連絡を待つだけだよ。」
成る程、こんなに便利なら使わない手は無いな。とは言っても美里くらいしか連絡とる相手いないか。
「把握しました。」
社長は頷くと、社長席のスイッチを押した。
すると、社長席の前に淡く光るオブジェクトが出現した。
「そのオブジェクトに触れてくれ。特別社員契約はそれに触れると完了する。能力者しか触れないのだけどね。」
俺は無言で頷き、オブジェクトに触れた。すると、淡い光が俺を包み、数秒後元に戻った。
「これで特別社員契約は完了だ。これからは一緒に戦ってほしい。改めて頼んだよ。」
「はい!精一杯頑張ります。」
俺は会釈し席を立って、エレベーターへ向かった。
「あ、そうそう。一階フロアで八方クンが待ってるから、寮を案内してもらってね。」
「はい。では失礼します。」
俺はエレベーターで階下へ降りた。